色々レベルアップしたみたいなんだが その4


 新しい店舗候補の3店は、どの店舗も比較的近い場所に位置している。


「……ログイン広場に面してもいるし、立地的には同条件ってことか」

「となると、後は外観でしょうか」

「それと、中の部屋の構造ってことか」


 エカテリナと言葉を交わしていると、セマイスンが俺に書類を手渡してきた。


「すいません、これがそれぞれのお店の見取り図になります。お渡ししていなくてすいません」

「あぁ、ありがとう。でもさ、セマイスン、そんなに誤らなくていいからな」

「すいません、お気を使わせてしまってすいません」


 ……とりあえず、何を言ってもまずは謝罪から入るんだな、セマイスンってば……


 これが社会人だと、誤りすぎるのは逆効果になることがある。

『お前は何に対して謝罪しているんだ!』

 って、逆ギレする取引先の相手と何度出くわしたことか……

 まぁ、若かりし頃の俺は、

『だから、今回迷惑かけたことを誤ってるんだろうが!』

 と、まぁ……逆ギレに逆ギレすることも少なくなかったわけなんだが……それが、俺が出世出来ない大きな理由なんだけど、言い訳するわけじゃないが、相手が理不尽な切れ方をした時以外には反論したことはない。

 会社も、それがわかってくれているから俺をいまだに務めさせてくれているんだろうけど……

 まぁ、俺が逆ギレ仕返した相手の中には、

『自分が正しいと思ったら一歩も引かないとは、なかなか骨のあるヤツじゃないか』

 って、妙に俺の事を気に入ってくれた相手もいたんだよな。


「旦那様? ……どうかなさったのですか?」

「え? あ、いや、何でもない」


 エカテリナの言葉で我に返った俺。 

 まぁ、セマイスンの行動に関してはNPCゆえの基本パターンなんだろうと納得することにして、改めて図面へ視線を向けていった。


 図面に視線を向けるといっても、図面を開くと俺の眼前にウインドウが展開して、その中に建物の見取り図が表示される仕組みになっている。

 スマホの要領で、拡大縮小も出来るから便利なんだよな、この機能って。


 んで、3つのウインドウを同時に開いて見比べてみたんだけど……


「……3店舗とも、地上2階地下1階。1階部分が店舗で2階が宿に転用可能な倉庫、地下も倉庫と、間取り的にはほとんど一緒なのか……」


 腕組みしながら図面の内容を確認していた俺なんだけど、


「旦那様! これ! 私、これがいいんだからね!」


 俺の横でウインドウを見つめていたエカテリナが、いきなり身を乗り出してウインドウの1つを指さした。

 そのウインドウに表示されている物件は、3店舗の真ん中に位置している物件だった。

 ただ、他の2店舗と見比べても、変わった特徴があるようには見えないんだけど……


 俺が腕組みをしながら首をひねっていると、そんな俺の首を両手で掴んだエカテリナが、店舗の方へ俺の首を無理矢理向けた。


「旦那様! あれ! あれを見てほしいんだから!」


 無理矢理首をひねられたせいで、

『HP-100』

 とか、結構なダメージをくらいながらも店舗へ視線を向けると……その先、店舗の屋上部分に……


「あれは……屋上がベランダになっているのか?」

「でしょ? 屋上に上がれる家って、すっごく憧れていたの!」


 すっごくはしゃいでいるエカテリナなんだけど、ゲーム内ではクーデレっぽいキャラで押し通しているエカテリナが、子供みたいにはしゃいでいる仕草を見ていると、なんだかほっこりしてしまうな。


「エカテリナが気に入ったのなら、あそこにするか」

「いいの?」

「あぁ、どの店舗でも間取りは大差なかったし、問題ないだろう」

「旦那様! ありがとうございます!」


 満面の笑みを浮かべながら俺に抱きついてくるエカテリナ。

 っていうか……エカテリナの豊満な胸に押しつぶされた俺は、またもHPを削られていって……そのうち、エカテリナに討伐されてしまうんじゃないか、俺ってば……


「お楽しみのところすいません、では、あの店舗をご契約ということでよろしいですか?」

「あ、あぁ……それでいいんだけど、その前に相談があるんだが」

「はい、なんでしょう?」


 エカテリナから解放された俺は、セマイスンへ改めて視線を向けた。


「あのさ、裏通りにある今の店舗なんだけど、あそこも今までどおり所有したいってのは駄目なのかな?」

「すいません、今のフリフリ村長さんのレベルでは所有出来る店舗は1店舗が上限なんです、すいません」

「そっか……いやさ、この世界ではじめて手に入れた店だしさ、ちょっと愛着ふぁあるもんだから、どうにか残しておきたいなって思っていたんだ」


 俺が苦笑しながらそう言うと、エカテリナがセマイスンににじり寄った。


「ちょっとアンタ! 旦那様の思い出なのよ! なんとかなさい! お金ならいくらでも払うんだからね!」


 セマイスンの胸ぐらを掴んで持ち上げたエカテリナ。

 エカテリナに揺さぶられているセマイスンはというと、目を回しながら、


「すいません、すいません、これも決まりでして、すいません……」


 って、言ってるんだけど……目を回す時って、マジで目がグルグル模様になるんだな……って、妙な事に感心していた俺なんだけど、


「ちょ、ちょっとエカテリナ、決まりは決まりなんだからさ……」


 エカテリナをなだめていった。


「でも、旦那様……」

 

 そんな俺に、申し訳なさそうな表情を浮かべているエカテリナ。

 

「いや、もうその気持ちだけで十分だからさ」


 にっこり笑う俺。

 そんな俺を前にして、エカテリナもどうにか納得してくれたらしく、セマイスンを地面の上に降ろした。


「すいません、助かりました……それであの、フリフリ村長さんに提案なのですが

……今のお店を店舗としては所有出来ないのですが、倉庫としてなら所有可能なのですがいかがでしょう?」

「え? 倉庫?」

「すいません、説明が足りなくて。フリフリ村長さんのレベルですと、店舗を構えている街の中に倉庫を1つ所有することが認められているんです」

「倉庫か……うん、どんな形でも、あの建物を所有し続けられるのなら問題無いよ」


 笑顔で頷く俺。

 そんな俺に、セマイスンも笑顔を浮かべながら頭を下げた。


「すいません、では早速そのように手配をさせて頂きますね」

「もう! そんな良い方法があるのなら、最初から言いなさいよね!」


 頭を下げているセマイスン。

 その肩を、エカテリナが笑顔で叩いたんだけど……よっぽど嬉しかったのか、力を込めすぎたらしく……セマイスンってば、その場で腰まで地面に埋まってしまって……


「す、すいません……」


 目を回しながら、ガクッと首を落としていった。

 っていうか……目を回すと、頭の周囲に星が回転していくんだな、と、妙なところに感心してしまった俺なんだけど、


「ちょ、と、とにかく引っ張りだすぞ!」


 慌てて、セマイスンの腕を引っ張っていった。

 

◇◇


 そんなドタバタがありながらも、無事に店の契約と、倉庫契約を終えた。

「すいません、所有件と使用目的の変更完了にはログイン2日分時間がかかります」

「あぁ、わかった。よろしく頼むよ」


 セマイスンと契約を交わしたところで、今日のところはログアウトすることにした。


「……ふぅ」


 ヘルメットをはずすと、見慣れたリビングが目の前に広がっていた。

 さっきまで、異世界みたいな世界で遊んでいたのが夢のように思えてしまう。

 確かに、大勢の人たちが遊ぶわけだ。


 そんな事を考えていると……俺の膝の上に座っている小鳥遊が、小刻みに震えているのがわかった。


「どうした小鳥遊?」


 俺が尋ねても、無言のままガクガク震え続けている小鳥遊なんだけど、その手にはスマホが握られていた。


「……小鳥遊?」


 再び声をかけると、小鳥遊はゆっくりと俺の方へ視線を向けた。


「……あ、あの……お、お爺ちゃんが……」


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