色々レベルアップしたみたいなんだが その3
「おいおい、何を勝手に……」
思わずそんな事を口にした俺なんだけど、
「すいません、そんな事よりもこれなんです、すいません」
セマイスンは、俺の言葉を無視するように、ショルダーバッグから取り出した書類を俺に差し出して来た。
……まぁ、でも、今まで俺が体験したこの手のイベントって、こんな感じで強制的にはじまってたんだよなぁ……ラミコの時といい、リサナ神様の時といい……
どこか諦めにも似た気持ちになりながら、セマイスンから書類を受け取った俺。
「なになに……」
その書類には、
『裏通りから表通りへの移転の条件について
フリフリ村長様
あなたのお店は大変繁盛しており、表通りへ移転する権利を手にしました。
さらに以下の条件を満たすことで表通りへ移転が可能になります』
そう書かれていた。
表通りってことは、プレイヤーのみんながログインしている広場に面した通りのことだろうな。
あの通りに出店しているお店って、ログインしたプレイヤーのみんながモンスター討伐に出向く前に立ち寄っているからどの店も結構繁盛している気がする。
俺がウインドウを確認していると、一緒に来ていたエナーサちゃんとエカテリナも俺の後方からウインドウをのぞき込んできた。
「うわぁ!? こんなイベントもあったんですね! 前に所属していた攻略サイトでも聞いたことがありません!」
「そうね、こんな内政イベントまで準備されていたなんて、ちょっとびっくりだわ」
大手の攻略サイトに所属していたエナーサちゃんや、ディルセイバークエストの上位プレイヤーであるエカテリナまで知らないとなると、これはよっぽどレアなイベントってことなのかもしれないな……ただ、単純にここまで内政をこなしたプレイヤーがいなかっただけって気もしないでもないんだけど……
「……で、その追加の条件ってのは……」
文書の続きに目を向ける俺。
『条件その1・2部族以上から商品を仕入れてください』
「これって、リザード族とエルフ族から商品を仕入れているから条件を満たしているよな?」
「はい、そう思います」
俺とエナーサちゃんが顔を見合わせていると、文字の横に、
『クリア』
っ文字の書かれた丸いスタンプがポンっと押された。
あぁ、こうやって条件を1つづつ確認していくってシステムなのか。
『条件その2・S級以上の商品をお店で販売してください』
「あら? 旦那様はリザード族のS級アイテムをすでに販売していますわよね?」
「……だよな。それに、エルフ族のS級アイテムも販売してるし」
俺とエカテリナが顔を見合わせていると、SD化しているリトリサ女神見習いの1人が笑顔で駆け寄ってきた。
「現在開催中のイベントの攻略必須アイテムなのですよ!」
にっこり笑みを浮かべながらエルフ族の弓矢を持ち上げるリトリサ女神見習い。
すると、そんなリトリサ女神見習いの後方に、店内で買い物をしていたプレイヤーの皆さんが一斉に集まってきた。
「そ、それ売ってください!」
「ちょっと! 私が先よ!
「頼む! 金はいくらでも出すから!」
一斉に集まってきたプレイヤーの皆さん。
そんな皆さんを前にして、リトリサ女神見習いは、
「先ほど新たな荷物が到着いたしましたので、皆さんにお売り出来ます。さぁ、あちらへ」
笑顔で、お客さん達を誘導していってくれた。
それと同時に、条件その2の横に、
『クリア』
のスタンプが押された。
その次には、
『条件その3 仲間キャラに商品開発をしてもらってください』
「これも、テテ達にしてもらっているな……」
ポン! 『クリア』
『条件その4 仲間キャラのレベルアップをしてください』
「あら? 村人のNPCってば、みんなかなりレベルアップしているから問題ないんじゃないかしら?」
ポン! 『クリア』
『条件その5 女神キャラを2名以上仲間にしてください』
「すいません、この条件はとっても難しいんです、すいません……きっとすぐには達成出来ないと思うのですが、ヒントをお出しすることなら可能ですので……」
俺の前で何度も頭を下げているセマイスンなんだけど……
窓の外で漫才をしているリサナ神様で1人。
同じく、漫才をしているクレイントーラ神様で2人。
んで、店内には見習いだけど、リトリサ女神見習いがいるわけで……これで3人ってことにならないか?
俺・エカテリナ・エナーサちゃんの3人は、3人の女神達を順番に見つめていった。
すると、次の瞬間、
ポン! 『クリア』
って文字が、クエストの横に表示された。
そして、次に、書類全体にデカデカと、
『ミッションコンプリート』
って文字の書かれたスタンプがポンっと押された。
同時に、俺の周囲に紙吹雪が舞い、ファンファーレが鳴り響きはじめた。
「……って……え? まさか、すでにこのクエストの達成条件を全部クリアしてたってことなのか?」
困惑しながら書類を見直している俺。
そんな俺の前で、セマイスンがびっくりした表情を浮かべながら拍手をしてくれていた。
「すすす、すごいです! すごいです! この条件を全てクリア出来たプレイヤーさんってはじめてなんです、本当にびっくりです」
パチパチと拍手を続けているセマイスン。
俺の後方では、エカテリナとエナーサちゃんも、
「さすが私の旦那様よね!」
「フリフリ村長さん、おめでとうございます!」
そんな事を口にしながら、一緒に拍手をしてくれていた。
さらに、店内で接客していた複数のリトリサ女神見習いまで、
「「「フリフリ村長さん、本当におめでとうございます!」」」
一斉に俺に向かって拍手をしてくれた。
それを見ていた、店内のお客のみんなまで、
「なんかよくわからんけど、とにかくおめでとうございます!」
「めでたいのはいいことだ、うん」
「これからも利用させてもらうよ!」
口々にそんな事を言いながら一緒になって拍手をしてくれた。
期せずして、大歓声と拍手に包まれてしまった俺は、
「あ、ありがとうございます。なんか、すいません」
ペコペコ頭を下げながら、みんなにお礼を言っていた。
◇◇
「しかし、まさか表通りに移転する権利を手にする事が出来るなんてなぁ」
セマイスンに先導されながら、表通りへ移動している俺達。
「これも旦那様が内政プレイを一生懸命頑張った成果なんだからね!」
まるで自分の事のように喜んでいるエカテリナ。
「いやいや、仲間キャラのみんなや、エカテリナ達が手を貸してくれたおかげだって。俺はただの素人だしさ」
謙遜とかではなく、本気でそう思っている。
何しろ、はじめてするゲームなわけだし、全てが手探りだったわけだ。
そんな中、このゲームを俺に教えてくれた……って、まぁ、きっかけはエカテリナが欲しかったアイテムを入手するために協力させられたわけなんだけど、とにもかくにもそのエカテリナがあれこれ手伝ってくれたのが大きいし、それに色んな情報を教えてくれたファムさんやイースさんの存在も大きいって思っている。
「とにかく、みんなのためにもこれからも出来る範囲で頑張ってみるよ」
エカテリナに笑顔で応える俺。
そんな会話を交わしている俺達の前方を歩いていたセマイスンが、
「お話中すいません、フリフリ村長さん、移転候補の店舗が見えてまいりました」
前方を指さした。
その先にある3つの店舗が明滅しているのがわかった。
こういったのって、ゲーム的演出だよな。
そんな事を考えながら、俺達は移転候補の店舗の方へ歩いていった。
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