色々レベルアップしたみたいなんだが その2

 テテは、いつものように村を見回りしながら他のNPC達と話をしていた。

 そんなテテを見つめながら、俺はあることを考えていた。


 ……プレイヤーであるエカテリナやイースさんはともかくとして……NPCのテテが『俺と子作りしたい』と言い出したのって……ひょっとして何か理由があるんじゃないだろうか……

 思い出してみれば、今までも、イベントの度にNPC達が今までにない行動をしてたような気がしているんだよな……

 そう考えてみると、テテの行動も何かのイベントが関係している気がしないでもない。

 確かに興味はあるんだけど、だからといってこればっかりは試すわけにいかないよな。

 いくらゲームの中とはいえ、正妻であるエカテリナ以外の女性キャラと子供を作る気はないし……って、ゲームの中でくらいハーレムを楽しんでもいいんじゃないかって思わなくもないんだけど……はは、こんな考えをしているのが頭が硬い証拠なんだろうな。


「あ、フリフリ村長さん、おはようございます」


 俺に気がついたテテが、笑顔で頭を下げた。


「あぁ、おはよう。どうだい、村の様子は」

「はい、もう大変ですよ」

「え?」


 テテの言葉に、一瞬目を丸くした俺なんだけど……よくみたら、テテの後方で村人達が列をつくっているのが見えた。

 列の中にはグリンやトリミの姿もあって、みんな木箱を抱えている。

 その列は、倉庫に向かって伸びていたんだけど……


「リトリサ女神見習い様が、ログインの街のアンテナショップを本格的にオープンされたものですから、みんなで商品を輸送しているんです」

「商品の輸送って……あの列が全部なのかい?」

「はい、そうです」


 よく見たら、その列はリザード族やエルフの村から届いた商品を備蓄している倉庫から、地下通路の入り口がある倉庫へ向かって伸びていた。

 他にも、村人のみんなが自宅で生成している回復薬を持ち込んでいたり、アドワとオドワの工房から商品を運び出している人たちの姿もあった。


「旦那様……ちょっとこれってすごいわよね……私も始めてみたんだからね……」

「だよな……」


 このゲームを長くやっているエカテリナがそう言うくらいなんだから、俺がびっくりするのも当然だろう。

 しかし……俺がはじめてやって来た時は、廃村だったこの村が、ここまで賑わうなんて……なんか胸が熱くなってくるな。


「あ、それでですねフリフリ村長さん。一度街へ行ってお店の様子を確認してみてはいかがでしょう?」

「お店の様子をかい?」

「はい、強くお勧めいたします」


 にっこり笑いながら俺に話しかけるテテ。


「……そうだな……村の中や村の周辺の様子を確認しておきたかったんだけど、先に街へ行ってみるか」


 テテの助言に従って、俺は地下通路の入り口がある倉庫へ向かって歩いていった。


「旦那様、当然私も一緒に行くんだからね!」

「あ、わ、私もご一緒させてください!」


 俺の後方をエカテリナとエナーサちゃんが追いかけてくる。


「あぁ、わかった。じゃあ一緒に行こうか」

「「はい!」」


 俺の言葉に、笑顔で頷く2人。

 そんな2人と、俺を合わせた3人で倉庫の地下へと移動。

 そこからログインの街にあるメタポンタ村のアンテナショップへ移動していく。


 ラミコの高速移動を利用していた時は、それなりに時間がかかっていたんだけど、今は一瞬で移動が出来てしまう。


「プレイヤーが利用するには、地下通路の所有者が必ず同行しないといけないとか、一度に利用出来るプレイヤーの数に制限があるとはいえ、本当にこの通路は便利ですわね」


 エカテリナも感心した様子で頷いていた。

 そんな俺達を出迎えてくれたのはモグオだった。


「あぁ、フリフリ村長はん、おはようっす」

「おはようモグオ。お店の手伝いをしているのかい?」


 俺達の周囲では、地下通路を使って移動してきたNPCのみんなが1階のお店の中へ向かって商品の入った木箱を運び込んでいる。

 モグオもその手伝いをしているんだと思っていたんだけど、


「いやいや、俺っちは別の仕事っすよ」

「そうなのかい?」

「はいっす。村のレベルがあがったおかげで俺っちも貧乏暇無しっすよ。んじゃ、ま、完成したら報告するっすから」


 右腕で力こぶを作る仕草をしながら、地下通路の中へ移動していったモグオ。

 その仕草って、このゲーム世界のNPC達がよくする仕草(モーション)なんだけど、こっちまで元気をもらえるみたいで結構好きなんだよな。


 モグオと別れた俺達は、階段を上がってお店の一階へ移動していった……んだけど……


「……な、なんじゃこりゃ!?」


 店内を見回した俺は、思わず目を丸くしてしまった。

 いや、だってさ……店内がお客さんで満載だったんだ。


「はい、いらっしゃいませ。先ほどエルフの村の武具が再入荷いたしました。現在開催中のドラゴン騎兵大討伐イベントに必須のレアアイテムですよ」


 お客に向かって笑顔で声をかけているのはリトリサ女神見習いだった。


「はい、お支払いのお客様はこちらに並んでくださいね」


 お客の列を整理しているのもリトリサ女神見習いだった。


「あ、その商品はその棚に並べてください。その商品はこっちの棚に……」


 商品補充の指示をしているのもリトリサ女神見習いだった。


「今、店内は満員です。申し訳ありませんがもうしばらくお待ちください」


 店の前でプレイヤー達に状況説明しているのもリトリサ女神見習いだった。


「……って、リトリサって、分身することが出来たんだ」


 ……そう、俺の目の前では5人のリトリサ女神見習いが笑顔で仕事を続けていたんだ。

 分裂しているせいなのか、一体一体が小さくなっているというか、なんかディフォルメキャラみたいになっているんだよな。

 おっさんの俺が見ても、なんかすっごく可愛いんだ、これが。

 そのせいだろう、プレイヤーの人たちの中には、


「あああ、あの、よかったら一緒にスクショとってもらえませんか?」

「あああ、握手お願いします」

「これ売って……あ、売り物じゃない……」


 そんな感じでリトリサ女神見習いに話しかけている人たちも少なくなかった。


 ちなみに、店の前では、


「ではではでは、皆様がお待ちなさっている間、このリサナ神がリサナ教の……」

「ちょっと待ちなさい! このクレイントーラ神を差し置いて勝手な真似はさせないんだから!」


 リサナ神様とクレイントーラ神様が、いつものように言い合いをしていた。


「よ! 待ってました女神漫才!」

「これ見るために来ました!」

「2人とも頑張って!」


 お店の前で待っているプレイヤー達からは、一斉に歓声と拍手が沸き起こっているんだけど……これも名物になってしまっている感じだな。


 2人の様子を苦笑しながら見つめていた俺なんだけど、その視線の先にウインドウが展開した。


『フリフリがログアウトしている間に、メタポンタ村のアンテナショップがレベル10になりました』


 同時に、俺の周囲に花吹雪のモーションとファンファーレが鳴り響いていく。

 すると、お店に商品を運び込んでいた村人のみんなや、チビリトリサ達が俺の周囲に集まってきた。


「フリフリ村長さんおめでとうございます!」

「さすがフリフリ村長さんですね」

「フリフリ村長さんこれからも頑張ってください」


 笑顔で拍手しながら、口々にお祝いを言ってくれるみんな。

 それを見ていたプレイヤーの皆さんまで、


「なんかよくわかんないけどおめでとうございます!」

「めでたいのは良いことだ! よし、お祝いにこのお高い武具を買っちゃうよ!」

「じゃあ、アタシはこっちのレア回復薬を!」


 俺に向かって拍手をしてくれたもんだから、店内がまるで祝賀パーティの様相を呈していった。


「あ、ど、どうもありがとうございます」


 俺は、照れ笑いしながらそんなみんなに頭を下げ続けていた。

 その時だった。


「ちょっとすいません。お忙しい中、ちょっとすいません」


 急に背後から肩を叩かれた俺。

 振り向くと、そこには眼鏡をかけた女の子が立っていた。

 胸に逆三角形のマークが浮き上がっているので、NPCみたいだ。

 

「あのすいません。私、商店街組合の組合長補佐をしているセマイスンと申します。あの、すいませんがちょっとお話よろしいですか?」


 その女の子~セマイスンなだけど、すごく申し訳なさそうな表情を浮かべながら頭を下げ続けている。


「あぁ、はい、大丈夫ですよ」


 俺がそう応えると、セマイスンは、


「あぁ、よかった。お話を聞いてもらえないと組合長からまた怒られてしまうところでしたので、すいません」


 安堵の表情を浮かべた。

 その頭上に、いきなりウインドウが表示された。


『お店を移転しようイベントに参加しますか はい/いいえ』


 って、これもイベントなのか……って、これってどんなイベントなんだろう…… 

 俺が考えを巡らせていると、セマイスンが、


「あ、すいません。それでですね……」


 ショルダーバッグの中から書類を取り出しながら、ペコペコ頭を下げ続けていたんだけど、その頭が起き上がった拍子に、


『はい』


 のボタンをクリックしてしまい、同時に、


『お店を移転しようイベント開始』


 ってウインドウが新たに表示されて……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る