色々レベルアップしたみたいなんだが その1

「ひろっち、いつもいつも申し訳ないです」

「……そう思うんなら、いい加減トイレを使えるようにしてくれ」


 古村さんに腕組みしながら言葉をかける俺。

 なんか、眉をハの字にしながら苦笑している古村さんなんだけど、ホットパンツをはいてくるようになっただけ少しは成長したのかな、と、思わなくもないというか……そもそも、自室のトイレが使えなくなるくらい荷物で溢れかえっている部屋って……一体どうなっているんだ……


「いやぁ、仕事がちょっち佳境に入っているもんですからねぇ……あは、あはは」

「まぁ、あれだ、早くなんとかしろよ」

「うん、わかった」


 手を振りながら俺の部屋を出ていく古村さん。

 俺は、そんな古村さんを苦笑しながら見送っていた。


 鍵をしめてからリビングへ戻ると、小鳥遊が自分の部屋から顔をのぞかせていた。


「あぁ、もう大丈夫だ」


 俺の言葉を受けて、てててと部屋から小走りに出てくる小鳥遊。

 その手には、ディルセイバークエストにログインするためのヘルメットを抱えていた。


「あ、あの……しよ?」


 そう言った小鳥遊なんだけど……耳まで真っ赤になっていて、俺と視線を合わさないようにそっぽを向いている。

 多分、さっきの台詞を思い出して恥ずかしくなっているんだろうな……


『……このまま、ここでずっと……』


 なんて言われてしまっては、さすがに俺もドキッとしてしまうというか……

 ただ、目の前の小鳥遊は、自分の台詞をとりあえずごまかすために、一緒にゲームをしようって言ってるんだろう……なら、あの台詞の事をあれこれ質問するのは野暮ってもんか……


「あぁ、そうだな……じゃあ、やるか」


 ソファの隅に置きっぱなしになっている、自分用のログイン用ヘルメットを手にとった俺。

 俺が座ると、小鳥遊は当然のように、胡座をかいている俺の膝の上に座ってきた。

 この体制だと、俺が見下ろすと小鳥遊の胸の谷間がモロに見えてしまうもんだから、絶対に下を向けない……ただでさえ、ダボッとしたトレーナーを部屋着にしている小鳥遊だけに、この光景は破壊力が半端ないんだよな……


 そんな事を考えながら、ヘルメットをかぶった俺。

 視界の中に、ディルセイバークエストの文字が浮かび上がっていき……


◇◇


 視界がクリアになると……すっかり見慣れた天井が広がっていた。

 メタポンタ村の中にある、俺の家の天井だ。

 ベッドの上で目を覚ました俺。

 隣には、同時にログインした小鳥遊のキャラであるエカテリナが横になっている。


「あ! パパ! ママ! おはようだベア!」


 俺とエカテリナがログインしたことに気がついたポロッカが、窓の外から身を乗り出してきた。


「な、なんじゃと!? 主殿がログインしたのか! 妾も挨拶したいのじゃ!」

「あ、ウチもご挨拶したいわぁ」


 ポロッカの背後から、ラミコとトリミの声が聞こえているんだけど……ポロッカの巨体で窓が埋まってしまっているもんだから、2人の姿を確認することは出来なかった。

 まぁ、女の子とはいえ、ブラッドベアっていう熊型のモンスターだもんな、ポロッカってば。

 この手のゲームだと、可愛い女の子姿で出て来たり、仲間になった途端に人間の女の子の姿に変化したりするんじゃないかと思った事もあったんだけど、今では熊の姿で甘えてくるポロッカの姿がしっくりきている気がしている。


「おはようポロッカ、今日もよろしくな」

「はいだベア! えへへ」


 俺が頭を撫でてやると、嬉しそうに喉をならすポロッカ。

 そんなポロッカの様子を笑顔で見つめていると、


 ズイッ


 俺とポロッカの間に、エカテリナが割り込んできた。


「ど、どうしたんだエカテリナ?」


 困惑しながらエカテリナへ視線を向ける俺。

 そんな俺の言葉に返事を返すことなく、エカテリナは自らの頭を俺の方へ向けてきた。


 ……あぁ、これはあれか……『私の頭も撫でてくれてもいいんだからね!』って事か……


 そんな事を思っている俺の目の前で、エカテリナは、


「わ、私の頭も撫でてくれてもいいんだからね!」


 いつものツンデレ口調でそう言った。

 なんか……想像していた通りの言葉を言われたもんだから、思わず吹き出しそうになってしまったんだけど、


「あぁ、エカテリナも今日もよろしくな」


 その頭を笑顔で撫でてやった。

 すると、エカテリナは嬉しそうに微笑みながら……それでいて、その表情を俺に悟られないようにするためか両手で顔を覆っていたんだけど……まぁ、バレバレなんだよな。


「あ、フリフリ村長さん! おはようございます!」


 そんな俺の家の中に入ってきたのは、エナーサちゃんだった。


「おはようエナーサちゃん。今日もよろしくな」

「はい、こちらこそよろしくお願いします」


 俺の言葉に笑顔で頷くエナーサちゃん。

 

 そんなエナーサちゃんを見つめていた俺は、あることを思いだしていた。


 ……そういえば、エナーサちゃんが以前所属していた攻略サイト運営チームの誰かが、ブランやスーガ竜の事を無断で記事にしてたんだっけ


 他のプレイヤーのスクショを無許可でSNSサイトに投稿する行為は禁止されているだけに、運営に通報しておいたんだけど……そうだな、この事はエナーサちゃんには伝えない方がいいかもな……いくら最後は追い出されたとはいえ、以前は一緒に活動していた仲間の事なわけだし……


「……あの……フリフリ村長さん、どうかしましたか? 急に黙っちゃって……」

「え? あ、い、いや……なんでもないんだよ、なんでも、うん」


 苦笑しながらその場をごまかした俺は、エカテリナとエナーサちゃんと一緒に家を出た。


「とりあえず、テテに村の状況を確認するとするか」


 俺がログアウトしている間は、テテが村長代行としてメタポンタ村を運営してくれている。

 だから、テテに話を聞くと村の最新情報がすぐに確認出来るんだ。


 ……けど


「……あのビッチに会いに行くんですの?」


 って……エカテリナってば、露骨に嫌悪の表情を浮かべているんだけど……

 まぁ、前回ログインした時に、

『フリフリ村長さんさえよろしかったら、私と……』

 って、俺との間に子供を作りたがったわけだからなぁ。

 まぁ、ゲームの中だし、実際にそういった行為をするわけじゃないんだけど……正妻であるエカテリナ的にはそれは非常に許しがたい行為みたいなんだ。

 とはいえ、俺自身もいくらゲームの中とはいえ、正妻であるエカテリナ以外の女性キャラとの間に子供を作るっていうのは色々と抵抗があるというか……そこら辺を割り切れないあたり、やっぱおじさんなんだよなぁ、って実感してしまう。

 そういう意味では、エナーサちゃんもあの時一緒になって俺の子供を欲しがったんだから、彼女の事も敵対視してもおかしくないと思ったんだけど、エカテリナはエナーサちゃんには普通に接していた。

 そんな事を思っている俺の前で、エナーサちゃんと話をしていたエカテリナなんだけど、


「ホント、テテもエナーサのように大人の対応をしてほしいものですわ。メッセージでも色々話をしましたけど、エナーサはホントに物わかりがいいですからね」


 そんな会話が耳に入ってきた。

 あぁ、つまりエナーサちゃんとエカテリナはゲーム内のメールで話をする仲になっていて、そこで子作り騒動に関してはお互いに納得出来ているってことなのか。


 しかし、エカテリナとエナーサちゃんがメールでやりとりする仲になっているとは、ちょっとびっくりしてしまった。

 2人とも、どちらかといえばコミュ障で、人と接するのが苦手な感じがしていたからなんだけど……


「エカテリナさんのおかげで、私、すっごく毎日楽しいです。私の事をこんなに理解してくださる方って、今までいませんでしたから」


 笑顔でエカテリナに話かけているエナーサちゃんなんだけど……あぁ、なるほどな……お互いにコミュ障だから、かえって話が合うというか、コミュ障の先輩のエカテリナがエナーサちゃんに色々アドバイスしているって事か……


 ……そういえば

 

 なんか違和感があると思っていたんだが……よく考えたら、今日のエナーサちゃんは、いつものように噛みまくっていないんだ。

 いつもすさまじい頻度で言葉尻をかみまくっていたエナーサちゃんなんだけど、今日は普通に喋っている。

 

 ……これも、エカテリナのおかげなのかもな


 そう考えると、なんかエカテリナの事がすごく誇らしく思えてしまう。


 とりあえず、俺達は畑を巡回しているテテの方へ向かっていった。



 

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