そんなレトロゲームもあったよな その3

 倒れているクレイントーラに、駆け寄っていくエカテリナ。


「そ、そうはさせません!」


 そんなエカテリナの眼前で、右腕を振り上げるクレイントーラ。

 すると、俺達の周囲に突然、無数の壁が出現してきた。


「な、なんだこりゃ!?」

「うわ!? 俺っち、びっくりだぜ!?」


 俺とモグオは、慌てながら周囲を見回していたんだけど、


「わ~壁ですね~大変だ~」


 って……ファムさん、なんですか、その棒読み台詞は?

 そりゃ、あなたの中の人は内政のプログラムを一手に引き受けている古村さんですからこの展開も把握していたんでしょうけど、なんというかもう少し臨場感を持たせてほしいというか……


「……いや、今はそんな事を考えている場合じゃないか」


 壁によって、エカテリナとはぐれてしまっている現状だけに、まずはエカテリナと合流することを第一に考えないと……


 地面から出現した石壁のせいで、俺達が居る地下空洞は、さながら迷路の様相を呈している。


「とにかく、エカテリナとクレイントーラがいた方向へ向かわないと……」


 そう思いながら、通路を走り出した俺……だったんだけど、その眼前にいきなりウインドウが出現した。


「な、なんだぁ!?」


 急停止して、ウインドウを確認すると、


『このアイテムで、地下迷宮モンスターを封印しながら進んでください』


 そんな文字とともに、そこに出現していたのは、


「……な、なんでツルハシ?」

「……なんででっしゃろなぁ?」


 思わず顔を見合わせる俺とモグオ。


「これで、穴でも掘れって言うんでっしゃろか? そないに面倒くさいことせんでも、俺っちの黄金の腕があれば……」


 そう言いながら、地面に腕を振り降ろしていくモグオ。


 カキィン


 その両腕が、何かに弾かれた。


『警告 地下迷宮の壁と地面はツルハシ以外で破壊することが出来ません』


「な、なんやてぇ!?」


 出現した赤枠のウインドウを前にして、愕然としているモグオ。


「……って、ことは、だ……何が何でも、コイツで掘り進めってことか……」


 手に持ったツルハシを見つめながら、思わず生唾を飲み込んだ俺。


「……どうやら、そのようでんなぁ」


 大きなため息をつきながら、モグオもツルハシを手にしていく。


 ……すると、


『地下迷宮モンスター スタート』


 ってウインドウが、迷宮の上空に出現した。


「な、なんだぁ!?」


 思わず目を丸くする俺と、モグオ。

 すると、


 ガオオオオオ!


 いきなり、俺達の眼前に真っ黒なモンスターが出現した。

 四角な体から数本の触手がウネウネと伸びていて、その触手を使って移動しているそのモンスターは、まっすぐに俺達の方へ向かってくる。


「うわ!? ちょ、こ、これ、どうしたらいいんだ!?」


 大慌てしながら反対方向へ駆け出す俺。

 すると、進行方向にも真っ黒なモンスターが出現しているのがわかった。


「こ、こっちだ!」


 迷路の分岐点を右に曲がる。

 しかし、その先にも真っ黒なモンスターの姿が……


「おいおい、これじゃあ逃げ切れないじゃないか……」


 あたふたしながら他の通路を探そうとする俺。

 すると、そんな俺の元にファムさんが歩み寄ってきた。


「フリフリ村長さん、逃げ回るだけじゃあこの地下迷宮モンスターはクリア出来ないと思いますよ」

「じゃ、じゃあどうすれば!?」

「そりゃあ、やっぱり地下迷宮モンスターを退治しながら進むしかないんじゃないでしょうか? ……例えば、そのツルハシで落とし穴を掘って、そこに地下迷宮モンスターを落としたり……」


 ……なんか、そんなレトロゲームがあったような気がしないでもないんだが……


「……まぁ、確かに……逃げ回っているだけじゃ埒があかないからな」


 俺は、両手で持ったツルハシを振り上げると、地面に向かって叩きつけた。

 モグオの時のように、警告ウインドウが出ることもなく、ツルハシによって地面に穴が開いていく。

 ツルハシを3回振り降ろすと、


『落とし穴 完成』


 ってウインドウが表示された。

 そこに、迷宮モンスターが駆け寄ってきて……俺の眼前で、落とし穴の中に落下していった。


「……ま、マジかよ」


 自分からまっすぐ落とし穴に向かってきた迷宮モンスターを前にして、思わず苦笑してしまう俺。


 そんな事を考えている俺の眼前で、迷宮モンスターの触手がウネウネしていて、それが穴の淵を掴み、


 ズズズ……


「うわ!? こ、こいつ穴から這い出そうとしてやがる!?」

「フリフリ村長はん、これ、埋めなあかんのちゃいますか」

「あ、あぁ、それがいい!」


 俺とモグオは、穴の周囲に堆積していた土砂を穴に向かって落としていった。


「そ~れ! 父ちゃんのためならえ~んやこ~ら!」


 ツルハシで土砂の山を崩し、それを穴の中に落下させていく。

 そして、ぴったり3回目で、穴が綺麗に埋まってしまい、迷宮モンスターの姿は見えなくなってしまった。


『300point』


「……な、何? このウインドウ? 今の迷宮モンスターを倒したから、ポイントをゲットしたってことか?」

「どうも、そうみたいやねぇ」

「よくわかんねぇけど……このポイントをためたら、この迷宮を抜け出すことが出来るのかもしれないな……」


 そう考えた俺は、モグオとともにツルハシを構えていった。

 ちなみに、NPCであるファムさんは、


「お2人とも頑張ってくださいね!」


 と、笑顔でエールを送り続けてくれていた……まぁ、運営側のNPCだけにイベントに干渉出来ないだろうけど……なんか理不尽な物を感じてしまうな。


 そんな事を考えながらも、俺とモグオは、


 ツルハシで穴を掘り、


 迷宮モンスターを落とし、


 穴を埋め戻し、


 ポイントをゲット。


 その作業を繰り返していった。

 同時に、迷宮内を進んでもいたんだけど……


「……ったく、この迷宮ってば、どこにも出口がないんじゃないか?」

「そうでんなぁ……もう迷宮内部を5周はしたような気がしてますよって」


 肩で息をしているモグオ……なんだけど、ゲーム内のキャラだけに、一定時間動き続けたらそういったモーションをするようにプログラムされているんだろうけど、こういった辺りはすごくリアルだよな。


 そんな事を考えながらモグオと会話を交わしていると、


『侵入者よ、よくぞこれだけの迷宮モンスターを討伐したわね。褒めてあげるわ。でもね、この地下迷宮をクリアするには、迷宮内を移動している私の分身を捕まえねばならないのよ! でも、私の分身は迷宮内を逃げ回っているの。果たして見つけることが出来るかしら?』


 高圧的な声が上空から聞こえてきたんだけど、これって、クレイントーラの声だよな。

 その会話の内容からして、俺達がイベントクリアに必要なだけのポイントを稼げたってことなんだろう。


「となると、だ……迷宮モンスターを落とし穴で退治しながら、クレイントーラの分身を捕まえなきゃならないってことか……しかし、逃げてる相手をどうやって見つければ……」


 頭をかきながら周囲を見回していた俺なんだけど、


「……ん?」


 その時、俺はあることに気がついた。


「……ひょっとして……あれか?」


 あることに気がついた俺は、そっちに向かって走り出した。


「モグオ、こっちだ!」

「フリフリ村長はん、何かわかったんでっか?」

「あぁ、ひょっとしたらだけど……」


 そう言いながら、走っていく俺。

 途中、迷宮モンスターと出くわすと、落とし穴でそれを退治していく。

 そして、再び進んでいく俺達。


『あら……す、少しはやるようね、侵入者達。私の分身をまっすぐ追いかけているなんて……』


 上空から響いてくるクレイントーラの声が若干上ずっている。

 ってことは、俺の推測は間違っていないってことか……


 ……っていうか


 いや、あれに気がつかない方がおかしくないか?


 俺の前方、地下迷宮の上空は基本的に暗黒の空的な状態になっているんだけど……その一角に、明らかに不自然な黄金の光りが出現していて、それがちょこまかと移動しているんだ。


 ……あれって、クレイントーラが被っている黄金の被り物の光りだよな……

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