そんなレトロゲームもあったよな その2

「謎の地下帝国クエスト?」


 ウインドウの文字を見つめながら思わず首をひねった俺。

 エカテリナにもそのウインドウが見えているらしく、


「こんなの、聞いたことがないわ……」


 そんな言葉を口にしていたんだけど……気のせいか、目を輝かせているように見える。


「ディルセイバークエストに、こんなイベントが隠されていたなんて……なんだか、ワクワクしてくるわね!」

「エカテリナも楽しみなのかい?」


 期間限定のモンスター討伐クエストに参加して、いつも上位に入っているエカテリナだけに、こういった内政系のイベントは苦手なんじゃないかと思っていたんだけど、


「何言ってるの! こんなワクワク、楽しみで仕方ないんだからね!」


 嬉しそうに声を弾ませているエカテリナを見ていると、なんだか俺まで楽しくなってきた。


「しかし……このイベントって、具体的に何をどうしたらいいんだ?」


 改めてウインドウを見つめながら腕組みをしていると、そんな俺達の元にモグオが駆け寄って来た。


「フリフリ村長はん、トンネルを掘るのを手伝ってもらえますますやろか? いえね、力仕事をしてほしいっちゅうわけやあらしませんねん。穴を掘っている俺っちを現場監督的な立場で見守ってほしいねん」


 そう言うと、俺とエカテリナに、持って来た道具を手渡してきたんだけど……なんか、自転車の空気入れみたいな道具だな、これ。


「これなんやけど、万が一、穴掘りを邪魔するモンスターが出現したら、先端についてる銛(もり)をそいつに投げつけて、空気を注入して破裂させてほしいんや。まぁ、あくまでも念のためやで、そないに気負わんでもええから」


 ニカッと笑みを浮かべているモグオなんだけど……


◇◇


 ……うん……まぁ、こうなる気はしてたよ……


 今、俺とエカテリナ、それに同行者のファムさんの3人は、モグオが掘り進めている穴の中で悪銭苦闘している真っ最中だった。


 ……と、いうのも


 モグオが穴を掘り進める度に、あちこちからモンスターが出現してくるんだ。

 赤い球みたいなヤツや、緑の小竜がメインなんだけど、


「うわ!? この小竜、炎を吐きやがった!?」

「旦那様、ここは私に任せてもいいんだからね!」


 投擲の要領で銛を投げるエカテリナ。

 そのすさまじい勢いのせいで、小竜ってば穴の中をゴロゴロ転がっていってたんだけど、


「そぉれ!」


 気合いとともに、エカテリナが空気入れをガシュガシュしていくと、小竜の体が大きく膨らんでいき、やがて


 パ~~~~~~~~~~~~~~~~ン


 炸裂音とともにはじけ飛んでいった。

 はじけ飛ぶときは、ドットが散らばっていくようなエフェクトになっていて、なんだか少し楽しくなってくるんだけど、


「……気のせいだろうか……むか~し、駄菓子屋の店頭でこんなゲームをした気が……」


 そんな事を考えながらも、俺は新たに出現した赤い風船みたいなモンスターに向かって銛を投げていった。

 エカテリナの場合、こんな事をしなくても剣で切り裂けばいいんじゃないかと思ったりもしたんだけど、


「さぁ、モンスター達! すぐに炸裂させてあげるんだからね!」


 嬉々として空気入れ状の武器をガシュガシュしているエカテリナを見ていると、


 ……このイベントを楽しんでいるみたいだし、まぁ、いっか


 あえて、その事には突っ込まないことにした。


◇◇


「しかしまぁ、モグオが地下道を掘り進めていると、モンスターが出現するんだろうな」


 何十匹目かの風船みたいなモンスターを破裂させた俺は、ふぅ、と息を吐きながら周囲を見回していた。


 モグオが掘り進めている穴は、直径が5m近くあるので俺達がモンスターと戦っても結構空間に余裕がある。

 まぁ、モグオが掘った土が、その場で消えてなくなっているのはゲーム上の演出なんだろうけど、ちょっと違和感を覚えてしまう。


「旦那様、考えるより倒せ! ですわ」

「ま、まぁそうだよな、エカテリナ」


 新たに出現した小竜に銛を叩きこんでいるエカテリナに言葉に、苦笑しながら頷く俺。


 ……このモンスター達が、謎の地下帝国ってやつに関係しているってことなんだろうけど、一体この先どうなるんだ?


 そんな事を考えながら、周囲を警戒していると、


「ありゃりゃ!?」


 穴を掘り進めていたモグオが、妙な声をあげた。


「どうしたんだ、モグオ?」

「いや、それがやねフリフリ村長はん……なんか、妙な縦穴にぶち当たりましてなぁ……」

「縦穴?」


 モグオの元に駆け寄ると、その前方に妙な空間が出現していた。

 地下に向かってまっすぐ伸びている縦穴があり、その壁をモグオがぶち抜いたらしい。


「……展開的に……ここを降りて調べた方がいいんだろうな……」


 縦穴の下の方へ視線を向けていた俺なんだけど……


「……モグオ」

「はいな?」

「あのさ……この縦穴を迂回して、穴を掘り進めるっていうことは出来ないのかな?」

「え? なんでですの?」

「あ、いや……見るからに怪しいし、それに時間ももったいないっていうか……」


 そうなんだ……


 今日のところは、少しでも早くトンネルを開通させてログインの街の店の開店準備をはじめたいと思っていたもんだから、そんな事を提案した俺だった。


「この縦穴は、改めて時間のある時に調べるとして、今日のところは……」


 俺がそこまで言うと……


『そ、それは困るわ……せ、せっかく準備万端整えているんだから、そんな事を言わないでほしいの……』


 ……なんか、縦穴の底から、妙に焦った感じの女の声が聞こえてきたような気が……


 すると……空気入れを手にしているエカテリナが、


「……モグオ、いいから迂回しなさい」

「へ? エカテリナはんもそう言われますので?」

「えぇ、今までの経験からいって、このイベントをクリアしたら、この声を発している女性キャラが旦那様の仲間に加わるのは間違いじゃない……もうね、そういうのは間に合ってるんだからね!」


 背中に絶望のオーラモーションを発動させながら力説しているエカテリナ。

 その迫力を前にして、モグオは、


「え、エカテリナはん……なんも、そう青筋たてんでもええやんか……」


 エカテリナの事を必死になだめていた。

 

 ……でもまぁ、エカテリナの言葉も一理あるというか……


「……まぁ、仲間云々はとりあえず置いておくとして……今日のところは、ログインの街の店の方を優先したいし……迂回するってことで」

『な、なんですってぇ!?』


 俺の言葉に呼応して、穴の底から愕然とした様子の声が聞こえてきたんだけど…… 


「こ、こうなったら最後の手段よ!」


 次の瞬間、俺達の前にウインドウが出現した。


『謎の地下帝国クエスト 強制イベントにつき強制移動』


「……って……えぇぇぇ!?」

 

 その文字に、目を丸くした俺。

 次の瞬間、俺達の体が光り輝き始めた。


◇◇


 光りが消えると……そこは地下空洞の中だった。


「……ここは……あの縦穴の底なのか?」

「ようこそ、私が統治する地下帝国へ」


 周囲を見回していた俺。

 そんな俺の前方に、女が出現した。


 その女は、どこか古代インド民族を思わせるような布の装束を身にまとっているんだけど……その頭部には、ツタンカーメンのマスクみたいな黄金の被り物を被っていた。


 ……こ、これって、リサナ神様やリトリサみたいに、この世界の神様ってことなんだろうな……


 ワニの被り物を正装と言っているリサナ神様達の事を思い出しながら、そんな事を考えていた俺なんだけど、そんな俺に向かって歩み寄ってくる黄金の被り物を被った女。


「侵入者よ、よくぞここまで来ましたね。私はこの地下帝国の統治者にして地下世界の神、クレイントーラぶふぅ!?」


 女は優雅に自己紹介をしていたんだけど……エカテリナが銛を力一杯投げつけたもんだから、黄金の被り物を被っている女……クレイントーラだっけ? そいつは、すごい勢いで後方に吹き飛んでいった。


「何よ? 銛がささらないじゃない!」


 ブツブツいいながら、クレイントーラに向かって駆け寄っていくエカテリナなんだけど……いや、エカテリナ……せめて自己紹介くらいさせてやろうよ……


 

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