そんなレトロゲームもあったよな その4

 クレイントーラの分身なら、クレイントーラが被っている黄金の被り物と同じ物を被っているはず……そう思って、迷路の上空に見える輝き目指して追いかけていった結果。


「ふぅ、案外簡単だったな」


 右手で、クレイントーラの分身の首根っこを掴んでいる俺。

 ゲームの中では小柄な俺だけど、クレイントーラの分身はそんな俺よりも小柄で、いわゆるディフォルメキャラって感じっだった。

 小柄なんだけど、しっかりと黄金の被り物も被っている。

 で、この黄金の被り物が無駄にキラキラしているもんだから、まぶしくて仕方ない。


「そうでやんすねぇ、5分もかからずに捕縛出来たでやんす」


 黄金の被り物の光りが苦手らしく、モグオも両手で目を覆っている。


 すると、


『地下迷宮クリア』


 って書かれたウインドウが上空に出現し、同時に周囲の壁が消えていった。

 

「……ん?」


 よく見ると、俺達のかなり後方にエカテリナの姿があった。

 両手でツルハシを握り、それを振り降ろしているみたいなんだけど……


「まったくもう! なんなのよこの迷宮は! 一刻も早く旦那様の元に行きたいのに邪魔しないでよね!」


 そんな言葉を口にしながら、一心不乱にツルハシを振り降ろし続けているエカテリナ。

 

 ……どうやら、必死になりすぎていて周囲の壁が消えた事に気がついていないみたいだな


 思わず苦笑する俺。


「お~い、エカテリナ! 地下迷宮はクリアしたよ!」


 手を振りながらエカテリナに声をかけていく。

 すると、その声で我に返ったらしいエカテリナは、


「だ、旦那様ぁ!」


 ツルハシを放り投げるやいなや、俺に向かってまっすぐ駆け寄ってきて、そのまま俺を抱きしめてきたんだけど、


「こいつ邪魔!」


 って……俺が捕まえていたディフォルメクレイントーラを突き飛ばした。

 ディフォルメクレイントーラはというと……奥に立っていた本物のクレイントーラ様に激突し、


「「へぶぅ」」


 2人揃って壁にめり込んでいった。


 ……あ、あれっていいのか?


 壁の中にめり込んだままピクリともしなくなったクレイントーラと、その頭から外れて地面の上に転がっている黄金の被り物を見つめながら、苦笑している俺。


 そんな俺を、エカテリナはしばらく抱きしめ続けていたんだけど、しばらくすると我に返ったらしく、


「か、勘違いしないでよね! こ、これは、その……だ、旦那様が怪我をしていないかどうか調べてあげただけなんだから、か、感謝しなさい!」


 慌てた様子で、いつものツンデレ口調を繰り出してきたんだけど……声は上ずっているし、顔は真っ赤になっているし、で、まぁ、全然ごまかせていなかったわけで……


 エカテリナから解放された俺の元にファムさんが歩み寄ってきた。


 イベントの最中は、運営側のNPCだからなんだろう、ほとんど介入してこなかったファムさん。


「えっと、イベントクリアおめでとうございます……なんですけど……」


 そんなファムさんは、拍手をしてくれているんだけど……その笑顔がどこかぎこちないというか、ひきつっているというか……


「えっと……ほ、本当でしたら、この後イベントのエピローグが展開される予定だったのですけど……諸事情によりまして、後日改めて展開されるんじゃないかと思います……あはは」


 ファムさんの視線の先には、壁にめり込んだままピクリともしなくなっているクレイントーラの方へ向けられている。

 気のせいか、クレイントーラの周囲には、

『エラーが発生しました』

 ってかかれたウインドウが無数に出現しているような気がしないでもないんだけど……これって、エカテリナに吹き飛ばされたのが原因だよな、多分。


「ま、まぁ、そういう事なら、俺達は先を急ぐとするか」

「そ、そうでやんすね」

 

 そんな会話を交わしていると、俺達は元いた穴の中へと移動した。

 

「んじゃ、こっからは俺っちにお任せやで」


 両腕をブルンブルンと振り回しながら、穴掘りを再開していくモグオ。

 後方では、アドワとオドワの2人が穴の補強工事をしてくれているらしく、トンカントンカンといった音が聞こえている。


「……結局、地下迷宮で遊んだだけって感じだったな。報酬は後日改めてってことで……」

「あら、そうでもありませんわよ」

「え?」


 後方のエカテリナの方へ視線を向けた俺は、思わず目を丸くした。

 そこに立っているエカテリナは、黄金の被り物を2つ抱えていたのである。


「……あ、あの、エカテリナ……そ、それって、ひょっとして……」

「えぇ、あのクレイントーラとその分身が被っていた黄金の被り物よ。手に取ることが出来たから、旦那様の手を患わせたお詫びとして頂いてきたんだからね!」


 って……おいおい、それっていいのか、おい……


 苦笑しながらファムさんへ視線を向けると……なんか、微妙な感じの表情を浮かべながら、両手で「△」マークを作っていた。

 つまり、よくはないけど、駄目ともいえないってことか……


「……まぁ、駄目じゃないみたいだし……よしってことにするか、うん」


 一件落着とばかりに頷いた俺。

 まぁ、どこか昔懐かしい感じがするゲームで楽しめたし、エカテリナも戦利品があったことで機嫌が直ったみたいだし、まぁ、よしとしよう。


 ちなみに、地下迷宮ではぐれてしまったエカテリナなんだけど、

『ちょ、ちょっと迷宮系は苦手なんだからね……そ、その……ちょっと方向音痴なだけなんだから……』

 通常のマップだと、広域マップが別ウインドウで表示されているので迷子になる事はないそうなんだけど、あの地下迷宮では広域マップが表示不可になっていたそうなんだ。


 そんなわけで、予定よりも時間はかかったものの、どうにかこの日のうちに地下トンネルをログインの街にあるお店の地下まで延ばす事が出来た。


「補強工事は、俺っちとアドワっちとオドワっちで明日までに仕上げておくっすっよ」

「あぁ、よろしく頼む」


 後の事をモグオにお願いした俺は、ここでログアウトすることにした。


◇◇


 ヘルメットを外した俺。

 壁の時計へ視線を向けると……げ、もう1時を回っているじゃないか……


「ちょっと今日も遊びすぎたかな……でもまぁ、楽しかったし、よしとするか」


 苦笑しながら、ヘルメットを脇に置いた俺なんだけど……そんな俺の膝の上には小鳥遊がちょこんと座っている。


 少しモンスターを狩ってからログアウトするといって、ゲームの世界に残っている小鳥遊なんだけど……


 いや……あの……ダボッと着ているトレーナーの裾がめくれていて……少し下着が覗いているというか……って、よくみたら、小鳥遊が着ているトレーナーって胸元がざっくり開いているもんだから、胸の谷間まで……


 ……いやいやいや……た、小鳥遊はだな、俺の事を信頼して、新しい住居が見つかるまでの間ルームシェアをしているのであって、その信頼を裏切るわけには……


 そっと、トレーナーの裾を直し、胸元から視線をはずす俺。

 俺の気も知らないで、小鳥遊はゲームを続けている。


「……早く小鳥遊の住居を見つけてやらないと、俺がもたないかもしれない……」


 苦笑しながら、小鳥遊の上から毛布をかけた俺は、そのまま目を閉じていった。


 ……でもまぁ、この温もりを感じられるのなら、もうしばらくは、一緒でもいいかな……


 

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