新たな交易と その4

「……このブラックドラゴンってば、アタシの矢が当たって気を失っているみたいね」


 用心深く弓を構えて、ブラックドラゴンの様子を調べて回っていたエカテリナが、一緒に回っていた俺に声をかけてきた。


「ってことは、今のうちに捕縛してしまえば……」


 ……とは思うんだけど……こ、このでっかいモンスターをどうやって捕縛すりゃあいいんだ?


 普通のロープじゃ、目を覚ました際にぶち切られるのが関の山だろうし……かといって、他に何か拘束するのに適したアイテムを持っているわけでもないし……

 

 腕組みをして思案していた俺。


「あの、旦那様……ちょっと試してもいいかしら?」

「あぁ、かまわないけど……」


 その横にやってきたエカテリナが、気を失ったままのブラックドラゴンに向かって右手を伸ばした。


 ……すると


 ブラックドラゴン体が光り輝いたかと思うと、次の瞬間には跡形もなく消え去っていたのであった。


「えぇ!? あ、あの巨体を……い、いったいどうやったんだい!?」

「アタシが所有しているS級アイテムの中に、巨大アイテム用の収納ボックスがあるの。これって、基本的には解体可能な状態のモンスターか、そのドロップアイテムしか収納出来ないんだけど、気絶して身動き出来ない状態のブラックドラゴンなら、ひょっとしたら収納出来るかも、と思って試してみたんだけど……どうやら上手くいったみたいね」

「そんなことが出来たんだ! さすがはエカテリナだな!」


 エカテリナに向かって感嘆の声をあげる俺。

 そんな俺の声を聞きながら、エカテリナは胸を張りながら高笑いをしていった。


「こ、これくらい、アタシにかかれば造作もありませんわ! お~っほっほっほ」


 ……って、なんかツンデレなお嬢様を気取っているものの、その顔は真っ赤になっているし、姿勢もどこかおっかなびっくりだし……と、まぁ、無理して格好付けようとしているのがありありなんだけど……そんなエカテリナも、また可愛いと思え始めている今日この頃なわけで……


 俺が、エカテリナの仕草にほんわかしている横で……


「ふぇぇ……すごいシーンがまったくなかったでしゅ……」


 地面にへたり込んで肩を落としていたのは、同行していたエナーサちゃんだった。


 そういえば、エナーサちゃんはモンスター討伐の様子を取材するために同行して来たわけで……記事になりそうなレアモンスター討伐の様子をスクショや動画撮影した上で、エカテリナに取材を……と考えていたはずなんだけど……


 まさか、エカテリナが照れ隠しで放った矢が偶然ブラックドラゴンに刺さって、それで討伐が完了してしまうなんて夢にも思っていなかったからなぁ……


「あ~……その、なんだ……エナーサちゃん、一応、エカテリナのコメントもとっておいたらどうかな」

「ぐすん……はい、そうでしゅね……」


 相変わらず噛みまくっているものの、ショックの方が大きかったらしいエナーサちゃんは、エカテリナの側へ歩みよっていったんだけど……がっくり肩を落としているのがありありだった。


 最近、いい取材が出来ないせいで、所属している大手攻略サイトの記事として取り上げられなくなっているって言ってたしなぁ……う~ん……確かに、ブラックドラゴンとの血湧き肉躍るバトルの様子がないとなると、やっぱり記事として弱いだろうしなぁ。

 あのサイトって、レアモンスターの討伐の様子を臨場感溢れるスクショや動画で紹介した記事が目白押しだから……


◇◇


 落ち込んでいるエナーサちゃんのためにも、せめてドラゴン集落を取材させてあげられたら……って思っていたんだけど……


「フリフリ村長、本当にありがとうございました! 改めて村長と一緒にメタポンタ村にお礼の品を持って伺わせて頂きますね」


 スーガ竜ってば、そう言い残して村に帰っていってしまったもんだから、エナーサちゃんってば、真っ白な灰に状態になってしまっていたわけで……


「と、とにかくメタポンタ村に戻ってブラックドラゴンを解体しているところでも取材してもらうとするか」

「そうですね、それがよろしいかと」


 エカテリナとそんな相談を交わした俺。


「ほな、メタポンタ村に戻りますわ~」


 こうして、トリミが掴んだゴンドラに乗って、ブラックドラゴン討伐部隊はメタポンタ村へと戻っていった。


 数十分で、メタポンタ村へ戻ることが出来た俺達は、村の端にある未開拓の土地へと移動していった。


「ここなら、ブラックドラゴンを出しても問題ないだろう」

「えぇ、旦那様。その通りですわ」


 俺の言葉に頷いたエカテリナは、眼前に広がっている荒れ地の上に、収納していたブラックドラゴンを取り出していった。


 ブラックドラゴンは、脳天に矢が刺さった状態のまま白目を剥いたままになっている。

 

「……しかしまぁ、この状態のままじゃあ少し可愛そうな気が……」


 そう思った俺は、ブラックドラゴンの脳天に刺さっていた矢を抜き取った。


 ……次の瞬間


 それまで白目だった瞳に、黒目がぎょろっと復活し、ブラックドラゴンの頭の上に乗っかっている俺を凝視してきた。


「……貴様が、我を滅しかけたエルフ族の矢を抜き去ったのか?」

「あ、あぁ……えっと、その……一応、そういうことになりますかねぇ?」


 愛想笑いをしながら、後頭部をかいている俺。

 そんな俺を、ブラックドラゴンは、しばらくの間、無言のまま凝視し続けていたんだけど……しばらくすると、その頭上にウインドウが開いた。


『ブラックドラゴンが仲間になりたそうにあなたを見つめています 仲間にしますか? はい/いいえ』


「はぁ!? いや、ちょ、ちょっと待ってくれ……お、俺は矢を抜いただけであってだな……それに、お前に矢が刺さったのは偶然というか……」 

「そんなことはどうでもよい。あのまま矢が刺さったままであったなら、我は消滅するところであったのだ。そんな我を救ってくれた貴殿に、忠誠を誓おうではないか?」


 ブラックドラゴンの言葉とともに、ウインドウが俺の眼前にズイッと接近してきた。


「あぁ……じゃあ、まぁ、俺の仲間になってくれるっていうのなら……」


 頭の中で、『はい』を選択した俺。

 すると、ブラックドラゴンは嬉しそうな鳴き声をあげた。


「うむ、では我はこれからはフリフリ殿の仲間として忠誠を誓うとしよう! なんなりと申しつけてほしい」


 そう言うと同時に……ブラックドラゴンの姿がみるみる小さくなりはじめた。

 こ、これって……ポロッカやラミコの時にもあったけど……モンスターが人の姿に変化しているってことなんじゃあ……


 そう思っている俺の前で……ブラックドラゴンは、俺の予想どおり、人の姿に変化した。

 

 肌は褐色……というか、やや黒色に近い感じ。

 髪の毛は先の方が赤く燃えているようなモーションが発動している。

 腰は細いものの、胸は……うん、こりゃ、ポロッカや最近成長したグリンよりも相当でかいというか……


 衣服をまったく身につけていない、素っ裸の状態で俺の前に立っているブラックドラゴン。


「だめ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!」


 そんな俺の目を、駆け寄ってきたエカテリナが咄嗟に塞いだのは、まぁ、当然といえば当然だったわけで……


 こうして、スーガ竜の村を襲っていたブラックドラゴンが、俺の新しい仲間に加わった。

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