新たな交易と その3

 ドラゴン集落のスーガ竜っていうでっかいドラゴンと村の近くの森で遭遇した俺達は、そこでスーガ竜の話を聞いたんだけど……


「……つまり、ドラゴン集落に暴れん坊のブラックドラゴンが急にやってくるようになってみんなが迷惑していて……それで、そのブラックドラゴンをどうにかしてほしい……っていうわけなんだね?」

「そ、そうなんです……僕達の集落に住んでいるドラゴンって、みんな性格が大人しくて争いを好まない種族ばかりなもんですから……そこで、リザート族の試練をクリアしたり、シビサオ山のユキハナを退治したりしたって噂のフリフリ村長さんになんとかして頂けないかと……」


 スーガ竜の話を聞いた俺は思わず苦笑してしまった。


「いやいや、どっちも俺の手柄じゃないよ。どれも俺の奥さんをはじめとした村人のみんなのおかげなんだ」

「そ、そうなんですか……じゃ、じゃあ改めてフリフリ村の皆さんにお願いさせてもらうってことでよろしいでしょうか?」

「あぁ、そう言うことなら」


 おそらくこれもクエストの1つなんだろう。

 ってことは、だ、スーガ竜のお願いは聞いておくべきだと思う。


 そんなわけで……俺達は今度はドラゴン集落へ向かうことになったわけで……


◇◇


 一度村に戻った俺は、みんなに事情を説明した。

 その上で、ドラゴン集落に向かうメンバーを選んでいったんだけど……


 まず、依頼された側のリーダーとして俺。

 討伐隊のエースとしてエカテリナ。

 そのサポート役としてポロッカ。

 飛行して移動する必要がありそうなので鳥族のトリミ。

 そして……


「私もぜひご一緒させてくだしゃい……あたた」


 いつものように舌を噛みながら、右手を思いっきり挙げているのは、エナーサちゃんだった。

 俺がメンバーを選んでいる最中に、

『何かやってるんでしゅか? ……あたた』

 って、現れたエナーサちゃんだったんだけど、ドラゴン集落へブラックドラゴン討伐に向かうって説明した途端にこうなったわけで……


「まぁ、イースさんとも話合いをして、情報掲載の約束事も決めているみたいだし、問題ないよ」

「わぁい! ありがとうございましゅ……あたた」


 俺の言葉に、舌を噛んだせいで口元を抑えながら喜んでいるエナーサちゃん。


 本当は、ファムさんにも同行してもらいたかったんだけど、トリミのゴンドラに乗れるのが5人までなんだよね。


「むぅ……周囲が絶壁の山の頂でなければ妾が荷車で乗せていったのに……残念なのじゃ」


 ラミコが、すっごく悔しがっていたんだけど……無理もないか、前回のシビサオ山が寒すぎて同行出来なかったのに続いての不参加だもんな。


「ラミコは、別の機会によろしく頼むな」

「むぅ……不本意じゃが、承知したのじゃ」


 不服そうに唇を尖らせているラミコをはじめとしたメタポンタ村のみんなに見送られながら、俺達を乗せたゴンドラは、トリミが羽ばたくのに合わせて上昇していった。


 スーガ竜が先導する形で飛行していき、その後方をトリミが追いかけていく。


「うわぁ! 空からの眺めってしゅてきでしゅ!」


 相変わらず舌を噛みまくっているにもかかわらず、上空からの眺めの素晴らしさに感動しているために痛がるのも忘れてスクリーンショットを撮影しまくっているエナーサちゃん。


 そういえば……


 イースさんと約束事を決めて、お互いに掲載する記事を話合いで決めることにしているエナーサちゃん。

 イースさんは、メタポンタ村のレベルアップにともなう恩恵の数々と、エカテリナによるユキハナ討伐のインタビュー形式の記事をアップして、すごく注目を集めていたっけ。


 ただ……どういうわけか、エナーサちゃんの記事が、エナーサちゃんが所属しているサークルが運営している大手攻略サイトに掲載されなくなっている気がするんだけど……

 気にはなったものの、根掘り葉掘り聞くのも申し訳ないかな、と思った俺は、とりあえず童心に返って無邪気にスクリーンショットを撮りまくっているエナーサちゃんの様子を見守っていた。


「……あの、旦那様……あの小娘をやけに見つめていませんか?」


 そんな俺の脇を、エカテリナがつねってきたんだけど……ってか、エカテリナってば、こんな時に絶望のオーラモーションを発動させなくても……


「いやさ……俺とエカテリナに娘が出来たら、あんな感じなのかなぁ、って、ちょっと思ったりしてさ。しっかり見守ってあげないとなぁ……なんて思ったりしたわけでさ」


 ボンッ!


 俺の言葉を聞くなり、エカテリナの顔が真っ赤になったかと思うと、昔の漫画でよくあった『赤面しすぎて脳天から噴火する』的なモーションが発動した。


「も、もう……旦那様ったら……こ、こんなところでそんなことを言ったって……弓矢の曲芸撃ちくらいしか披露出来ないんだからね!」


 そう言うと、ちょっと前にエルフ族のウバシーノからもらったSSS級の弓を構えたエカテリナが、矢を放っていったんだけど……


 エカテリナが放った矢は、まるで流星のように四散し、光の光跡を空に描いていった。


「うわぁ……すごいな、これ」


 その光景を見つめながら思わず感嘆の声を漏らした俺。

 ゴンドラの中のみんなも、その光景に思わず感嘆の声をあげていた。


 ……んだけど……


 GYAOOOOOOOOOOOOOOOOOO……


 眼下の森から、何やらすごい咆哮が聞こえてきた。


「な、なんだ今のは!?」

「ママの矢が落下したあたりからベアね」


 俺と一緒に眼下をのぞき込んでいたポロッカが目を丸くしながら、咆哮が聞こえてきたあたりを見つめている。


 そんな俺達の乗っているゴンドラへ、スーガ竜が近寄ってきた。


「今の声……ちょっと気になるので、確認しに行きましょう」

「あぁ、わかった」


 そんなわけで、俺達はちょっと寄り道とばかりに森へ下降していった。


◇◇


「こりゃあ……」


 目の前の光景を見つめながら、俺は目を丸くしていた。


 俺の眼前には、スーガ竜と同じようなドラゴンが倒れていた。

 その頭部には、さっきエカテリナが照れ隠しに放った矢が数本突き刺さっている。

 で、そのドラゴンは、ピクリともしない。


「……まさかこれって……エカテリナの矢が刺さって、死んじゃったってことなのか?」

「いえ、それはありえませんわ。もし、倒せているのでしたら、経験値とドロップアイテムが入手出来ているはずですもの。それが、これだけの大物でしたらなおのことですわ」


 俺の言葉に、そう言って首を左右に振るエカテリナ。

 言われて見れば、確かにそうだよな……


「しかし……このドラゴンって、ずいぶんでかいな……」


 スーガ竜も十分でかいと思ったんだけど……このドラゴンは、スーガ竜の1.5倍くらいはありそうだ。

 しかも、黒光りしている鱗をしていて、その鱗は見るからに硬そうだった。


「……この鱗、アタシの爪攻撃じゃあビクともしそうにないベアね」


 俺の考えを肯定するように、ドラゴンの鱗を確認していたポロッカが頷いている。

 ポロッカの爪って、エカテリナが所有しているSSS級の剣並の硬さらしいんだよな……そんなに硬い鱗に覆われているこのドラゴンが、弓でこんなにあっさり動けなくなってしまっているのって……


「……ひょっとしたら、エルフ族の村の弓矢って、このドラゴンを倒すのに最適だったってことなのかも……」


 と、すると、だ……


 このドラゴンは、俺達がこのドラゴンを討伐可能なアイテムを入手したから出現した、と、言えなくもないというか……


「でも、そう考えるとだな……このドラゴンってば……」


 俺が、思考を巡らせながら、ある1つの結論に達していると、そんな俺の横でスーガ竜が、


「このドラゴンです! このドラゴンが僕の村に襲来しているブラックドラゴンです!」


 俺の考えを後押しするように、声をあげていたわけで……

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