新たな交易と その5

 そんなわけで、俺の仲間になったブラックドラゴンなんだけど……


 一度俺の家の中に移動し、エカテリナから受け取った衣服を身につけてから再度姿を現した。


「ふむ……このような物を身につけるのははじめてだが……悪くないな」


 ブラックドラゴン本人の希望で、ウエスタンなヘソ出し短パンルックを身にまとっているんだけど……なんというか、色々露出が過度なもんだから、前屈みになった際など、目のやり場に困ってしまうというか……


 ちなみに……


 エカテリナは、常に衣服を大量にストックしてくれているんだ。

 俺の村に住人が増えたら、その人たちに衣服をプレゼントするためなんだけど……


「ありがとうエカテリナ。今回も助かったよ」

「べ、別に気にすることはないわ。旦那様はこの村の村長で、私はその奥さんなんだもん。これくらい当然よ」


 俺の言葉に、ツンデレな口調を発しながらそっぽを向いているエカテリナ。

 ……なんだけど、その頬は赤く染まっていて、口元がニヤけているのが隠せていなかった。

 そんなエカテリナの表情を見るのも、最近の楽しみの1つになっているんだよな……って、これをエカテリナに言ったら、また真っ赤になって照れてしまうだろうから、あえて言わないんだけど。


 俺達が、ブラックドラゴンとエカテリナを中心にして、和気藹々とあれこれ話をしている中……一人どんよりしている人物がいた。


「……どうしよう……なんか、記事として弱い気がしましゅ……」


 相変わらず舌を噛みながらうつむいていたのは、エナーサちゃんだった。

 

 ディルセイバークエストの攻略サイトの中でも一番人気を誇っているサイトのメンバーでもあるエナーサちゃんなんだけど、最近はいいネタに巡り会えないらしくて、記事を攻略サイトに掲載してもらえていないそうなんだ。

 そこで、俺達のブラックドラゴン討伐クエストに同行して、血湧き肉躍るスクショや動画とともに記事を……と、思っていたら、あっさり討伐が終わって、あっさり俺達の仲間になってしまったもんだから……うん、確かに、情報としてはありかもだけど、ディルセイバークエストでみんなが注目する記事といえば、やっぱりレアモンスター討伐関連の記事だからなぁ……


 イースさんのサイトで、SSS級のモンスターが仲間になるって記事が掲載された際に、みんなが注目したのも、

『モンスター討伐の際のサポートをしてくれるかも』

 って方面でみんなが興味を持ったからだった。


 ただ、俺が仲間になったレアモンスター達に、護衛任務くらいしかさせていないもんだから、ド派手なスクショや動画が皆無なのと、仲間にする方法が今のところ内政系のイベントをこなしている最中にしか出現していないってのも影響しているのかもしれない。


 村長になって以降の俺の活動に関してはイースさんが攻略サイトで情報発信してくれているんだけど、レアモンスター討伐系の情報が少ないイースさんの攻略サイトは、ディルセイバークエストの攻略サイトの中では中堅どころの人気らしいってのもあって、注目度がいまいちなんだよな。

 それでも、俺に続いて村長を目指そうとしているプレイヤーも出始めているらしくて、イースさんのサイトに問い合わせが何件か寄せられているって、プライベートメールが来てたっけ。

 メタポンタ村の情報を教えてもいいかって問い合わせだったけど……そうだな、仲間が増えるのは嬉しいことだし、かまいませんよって、あとで返事を返しておくとするか。


 俺がそんな事を考えている横で、エカテリナとブラックドラゴンにあれこれインタビューしていたエナーサちゃんなんだけど、満足いく内容にならなかったらしく……肩を落として村を出ていった。


 多分、他のネタを探しにイベント会場へ向かうんだろうな……


「……って、エカテリナ。お前、イベントはよかったのか? 確か今日が最終日じゃなかったっけ?」

 

 俺の言葉に、笑顔を浮かべるエカテリナ。


「えぇ、今回のイベントは報酬がいまいちだったし、100位以内を確保出来たから、それでかまわないわ……それに、最近はイベントに参加するより、旦那様と一緒にあれこれしている方が楽しいし……って、な、何を言わせるのよ! もう」

「って、それは自分で言ったんじゃないか」


 思わず笑いあう俺とエカテリナ。

 

 なんだろう……最初の頃って、ひたすら自分中心のプレーに終始していて、ゲーム内で俺と遭遇することも希だったっていうのに……エカテリナもずいぶん変わったもんだなぁ


◇◇


 それから程なくして……


 俺とエカテリナは一緒にログアウトした。


「じゃあみんな、また明日」

「はい! フリフリ村長様が来られるまでの間、村の事はおまかせください!」

 

 俺の言葉に、力強く頷いてくれたテテ。

 彼女も、ノーマルの仲間キャラなんだけど、レベルがあがったことで『村長補佐』のスキルを習得しているんだよな。

 ノーマルキャラだとモンスター討伐ではあまり役にたたないけど、内政関係だと、すっごく役立つスキルを持っている場合があるわけで……このディルセイバークエストって、思った以上に奥が深いっよなぁ、って感心してしまうんだよな。


「……さて、明日はログインの街に行って、店の事とかしないとな」


 ソファで意識を取り戻した俺は、ヘルメットをはずした。

 俺の膝の上には、小鳥遊がちょこんと座っている。


 ……あれ?


 一緒にベッドで横になってログアウトしたから、小鳥遊ももう意識を取り戻しているはずなんだけど……小鳥遊はヘルメットを被ったままジッとしている。


「……小鳥遊?」


 声をかけても、反応がない。


「小鳥遊?」


 改めて声をかけてみると……小鳥遊が寝息を立てていることに気がついた。


「……ありゃ、ログアウトした途端に寝ちまったのか……」


 いつも、結構な時間、ゲームに没頭していたはずの小鳥遊なのに……今日はまた、ずいぶんと早く寝ちまったもんだな……


 ひょっとしたら、俺の体温を背中に感じながらプレーしていたのが心地よかったとか……いや、それは自意識過剰にも程があるだろう。


 しかし……


 こうして、俺の部屋に遊びにくる小鳥遊だけど……俺も小鳥遊も社会人なわけで、お互いに未婚の男女なわけで……いや、まぁ、確かに、そういったことをまったく意識しないと言ったら嘘になるけど、だからと言って、俺の事を信用して、こうして遊びに来てくれている小鳥遊の信用を裏切るわけにはいかないというか……


「……俺に好意を持ってくれているのは間違いないと思うんだけど……その好意が、一緒に遊んでくれる近所のお兄さんに向けた好意に思えなくもないというか……」


 俺の膝の上で、無防備に寝息を立てている小鳥遊。


 そんな小鳥遊を抱き上げた俺は、そっとベッドに横にしていった。

 俺は、ソファで横になって……と……いや、しかし……いまだに腹が張っているというか……今日みたいな事がこれからも続いたら……ただでさえ気になりはじめているお腹周りが大変なことになってしまうというか……


「いや、まぁ……今日のところは寝るとするか」


 あれこれ考えても答えは出そうにないし……俺は、そっと目を閉じた。


◇◇


 ……ちゅ


「……ん? なんだ」


 妙な感触を感じた俺が目を覚ますと、すさまじい勢いで後方に後退っていく小鳥遊の姿があった。

 

「おはよう小鳥遊……何かあったのか?」

「べべべべべべべべべべべべべべべ別に、なななな何でもない、ででででです……」


 顔を真っ赤にしながら、部屋を出ていく小鳥遊。


「あ、あの……お風呂お借りします……」

「あぁ、わかった」


 顔どころか、首まで真っ赤にしながら部屋を出ていった小鳥遊なんだけど……はて? 何があったっていうんだ?

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