エルフ族イベント その3
さっき俺はいきなり隆起してきた雪の壁に囲まれてしまい、ポロッカ達とも離ればなれになってしまったわけで……
「……って、こりゃあ一体……」
困惑しながら周囲を見回していたんだが……そんな俺の前に、周囲を舞っていた雪が集まって人の姿に変化していった。
……うふふ……こんにちはフリフリさん
「え? あ、あぁ……どうも」
言葉と言うよりも、脳内に直接話かけてこられた気がして、思わず頭を下げた俺。
そんな俺を、雪の人は口のない顔でクスクス笑いながら見つめていた。
なんか……着物みたいな衣装を身にまとっている女性っぽい体型をしているその女性……周囲には、地面からにょきにょきっと生えた白い棒状の何かがうねうねと動き続けている。
……私を倒しに来たのね、フリフリさん……でも、そう簡単に倒されるわけにはいかないの
「えっと、確かにあなたがこの山の豪雪の原因なら倒さないといけないかなぁ、って思ったりしているんですけど……」
……えぇ、そうよ……この豪雪は私が原因よ……じゃあ、やっぱり倒すのね?
淡々と、俺の脳内に話しかけてくる雪の人。
この人の攻撃力がどれほどなのかまったく見当がつかないんだけど……少なくとも、内政レベルしか上げていない今の俺1人では、まず勝ち目はないだろう。
雪の人の背後でうねうねし続けている棒みたいな何かも、いざ戦闘になると加勢してくるだろうし……
「あ~……っていうか、倒す倒さないの前に一つ教えてくれないかな?」
……教える? ……何を?
「いやさ……君ってば、なんでこの山に豪雪を起こしているんだい?」
……そんな事を聞いて、どうするの?
「え? い、いや……どうするもなにも……何か欲しくて嫌がらせみたいなことをしているとか……もしそうだったら、俺が代わりにそれを調達して来てあげるから、それで豪雪をやめてもらうわけにはいかないかなぁ、って思ってさ……」
……そうね……欲しいものが無いわけじゃないわね……それをあなたが調達してきてくれるの?
「な、内容にもよるけどさ……可能な限り善処させてもらうつもりだよ、うん」
周囲を雪壁に囲まれているっていうのに、俺は嫌な汗を流し続けていた。
こういったところが、妙にリアルなんだよな、このゲームってば……
そんな俺の言葉を聞いた雪の人ってば……腕組をしながら俺をジッと見つめ続けている。
……そうね……ちょっとちんちくりんだけど、いいわ、今日のところはあなたで手を打ってあげる
そう言うと、雪の人は俺に近づいてきた。
なんか、嫌な予感がしたもんだから、後方に後退ろうとした俺なんだけど……
「うぇ!?」
俺の足に、いつの間にか白い棒状の何かが細くなって絡みついていたもんだから、まったく動くことが出来なくなっていた。
その時、俺の視界の端にある小ウインドウの中の、雪の人を示していると思われる黄色い点が赤色に変化した。
「ちょ、ちょっと雪の人さんってば、な、何をするつもりなんです?」
……私は雪の人じゃないわ……ユキハナって言うの……
「わかりました、失礼しました。謝罪させて頂いた上で言い直させていただきます。ユキハナさんは……」
……そんなに礼儀正しくしなくてもいいのよ……どうせあなたはもうすぐ私の腕の中で……
そう言いながら、ユキハナは俺を抱きしめてきた。
いや……ユキハナもそれなりに、胸が大きいんだけど……その感触を味わう余裕はまったくなかった。
ユキハナの体に触れた俺の体の部分が急激に冷え込みはじめていたんだ。
ウインドウの端に表示されている俺のHPのゲージがすごい勢いで低くなり続けている。
って、これって、このままだと俺、死んじゃうんじゃないか?
ゲームの中とはいえ、死んでしまうのはやっぱりごめんというか……
「ちょ……ユキハナさん……な、なんでこんな……」
……私は、このシビサオ山の守護神モンスター……この山に近づいた者達の一人を凍結させて、コレクションにさせてもらうのよ……本当は、毎日見ても飽きないハンサムさんがよかったんだけど……
すでに凍結して、言葉を発する事も出来なくなっている俺の顔を、ユキハナがのぞき込んでいる。
……あぁ、やばいなこれ……完全に判断ミスというか、打つ手がない……ゲームなんだから、再スタート出来るかもしれないけど……どうせなら、エカテリナを庇って『お前が無事でよかった』とか、格好いい台詞を言いながら死にたかったっていうか……
なんか……ゲームの中だっていうのに、俺の脳内に走馬灯のようにディルセイバークエストの中での出来事が駆け巡っていた。
これもゲームの仕様だったら、ある意味すごいよなぁ……って、妙な事に感心する俺。
あぁ、なんか今度はエカテリナの顔が大写しになった。
これが走馬灯ってやつか……
そのエカテリナは、俺の顔を抱き寄せて……
ムニュ
……なんだこれ……妙に艶めかしい感触というか……まるでエカテリナの胸が直に俺の顔に当たっているような感触が……
「ちょっとしっかりしてよ旦那様! 私一人残してゲームオーバーにならないでよね!」
「……え?」
ハッとなった俺。
うん……間違いない……至近距離からエカテリナの声が聞こえてきた。
ようやく視界がはっきりしてきた。
そこで俺はようやく事態を把握した。
俺は、上半身の鎧を脱ぎ捨てているエカテリナに抱きしめられながら回復魔法をかけ続けられていた。
エカテリナが上半身の鎧を脱いでいるのは、凍結していた俺を温めるためらしい。
よく見たら、エカテリナの後方には、雪の壁に頭から突き刺さった状態でピクリともしなくなっているユキハナの姿があった。
何が起こったのかはわからないけど……これだけは言わないといけない事は理解出来た。
「ありがとうエカテリナ……助けてくれて……」
◇◇
程なくして、ファムさんが事情を説明してくれたんだけど……
「いやぁ、すごかったんですよ。雪の壁の周囲に白い棒状の何かが大量発生して、フリフリさんを救出にいけなくて困っていたら、『旦那様がピンチなのはそこ!?』って言いながら、エカテリナさんが加速系のスキルを全開にして駆けつけてきたかと思ったら、あっという間に壁の周囲の白い棒状の何かを全滅させて、雪の壁に穴を開けて突入していったんです。
そこでフリフリさんを氷漬けにしようとしていたユキハナに『人の旦那に、何しとんじゃごらぁ!』ってそれはそれは怖い怒声を張り上げながら蹴り飛ばして……」
「あ、あの……ファムってば、事情説明はそんなに詳しくしなくてもいいのよ……特に私がどう言ったとか……そ、そもそも、わ、私がそんな下品な言葉を使うわけないじゃない」
詳細に事情を説明してくれているファムと、その横で真っ赤になっているエカテリナ。
そんな二人を交互に見つめながら、俺は苦笑していた。
エカテリナの説明だと、このゲームの中では結婚している相手が危機に陥るとパートナーにその情報が通知される仕組みになっているそうなんだ。
それを探知して、慌てて駆けつけて来てくれたんだろうけど……イベント会場からシビサオ山までは相当距離があったはずだし……それに確かエカテリナはイベントの首位争いで結構競っていたはずなんじゃあ……
「イベント? そんなものはどうでもいいわ。それよりも、旦那様が死んでしまう方が嫌だもん……だって、一度死んじゃったら、私との結婚情報もなかったことにされちゃうから……」
多分だけど……結婚は、またあの教会の前でのイベントをクリアすれば出来ると思うんだけど……エカテリナ的には、例え一度でも結婚がなかったことになるのが嫌だったんだろうな……
「ありがとなエカテリナ。俺も、なかったことにされなくてよかったと思ってるよ」
「ほ、ホント!? ホントに!?」
俺の言葉を聞いたエカテリナは、気のせいか少し涙ぐんでいるように見えた気がしたんだけど、その事を追求するのは野暮ってもんだろう。
さぁ、これでめでたしめでたし……と、思ったんだけど……変だな……イベントクリアって文字が、どこにも出現していないような気がするんだけど……
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