エルフ族イベント その4

 俺とエカテリナが抱き合いながら無事を喜び合っている中。


「皆さん気を付けて!」


 ファムさんが声を上げながら、雪壁の一角を指さした。

 その先って、エカテリナに蹴り飛ばされたユキハナが突き刺さっている場所なんだけど……


「あ、あれ……な、なんだぁ!?」


 俺達が見つめている先で、雪壁に突き刺さったままのユキハナの体が徐々に大きくなりはじめていた。


 ……ふふふ……まさか私を倒すプレイヤーがいるなんて……でも、あなた方が倒したのは私の第一形態にすぎない……私はまだ3つの形態を……


 俺達の脳内にそんな声が聞こえて来た。

 い、いや……確かにエカテリナはあっさりと倒したとはいえ、俺はまったく歯が立たなかったわけだし……あの状態からさらに三段階もパワーアップ出来るとなると、結構すごいんじゃあ……


 思わず生唾を飲み込む俺。

 エカテリナが、そんな俺の横で立ち上がると、ユキハナに向かって猛ダッシュしていった。

 巨大化している最中のユキハナの横に立つと、手の剣をユキハナの胴体に思いっきり叩きつけていった。


 ……ご、ごふぅ……ちょ、ちょっと待ちなさい……ま、まだ私、変化の途中で、ごふぅ


「モンスターが変体を遂げる前に攻撃するのはディルセイバークエストの常識でしょう!」


 ゲシッ


 ……あふぅ


 ゲスッ


 ……おほぉ


 ガスッ


 ……どはぁ


 エカテリナが剣を振るう度に、脳内にユキハナの悲鳴が聞こえてくるんだけど……気がついたら、エカテリナの横に移動したポロッカとグリン、トリミもユキハナに攻撃をくわえはじめていた。

 巨大化の途中だったもんだから、4人がかりで攻撃するのにちょうどいい大きさになっているユキハナの体。

 そこに、


「せいやぁ!」

「うらぇベァ!」

「えいやぁ!」

「往生しぃ!」


 息の合った攻撃を繰り返していくエカテリナ・ポロッカ・グリン・トリミの4人。

 俺も手伝いを……と思って剣を構えようとしたんだけど……そんな俺の目の前で、ユキハナの体の上に、


『第二形態討伐完了』


『第三形態討伐完了』


 って文字が表示されていき、最後に『第四形態討伐完了』って文字が表示されると同時に、


『エルフ族の村を救えイベントクリア』


 って文字が一緒に表示された。

 同時に、俺達の脳内にユキハナの、


……な、納得いかないぃ……


 っていう声が聞こえて来たんだけど……その気持ちが痛いほど理解出来た俺は、何度も頷いていた。


「攻撃開始までのモーションが長かったり、大きいモンスターを急襲するのはディルセイバークエストの定番の攻撃方法ですから」

「はぁ、そうなんだ……」


 苦笑しているファムさんに説明されても……やっぱりどこか納得出来ていない俺だった。


◇◇


 ユキハナを倒すと、それまで豪雪が吹雪いていたシビサオ山の山頂付近は、嘘のように晴れ上がっていた。


「エカテリナをはじめ、みんなのおかげでこのイベントをクリアすることが出来たよ、本当にありがとう」

「べ、別にアタシは、旦那様のために頑張っただけなんだから……つ、つまり当然のことをしたまでってことよ!」


 俺の言葉に、いつものツンデレ口調で応えるエカテリナ。

 とはいえ、その言葉には、俺を救えた満足感が混じっているような気がした。

 

 ちなみに……


 ユキハナを討伐したことで、グリンとトリミがすごいことになっていた。

 SSS級でレベルがカンストしているポロッカはそのままなんだけど、成長過程にあったグリンとトリミは一気にレベルアップしたもんだから……


 それなりに豊満なスタイルに成長していたグリンは、アメコミのヒロインみたいなボインでマッチョなヒロイン風に……


 幼女然とした姿だったトリミは、これまた豊満な胸で爽快な笑顔がよく似合うお姉さん風に……


 それぞれ容姿が変化していた。

 

 ……2人の姿を見たら、ラミコが嫉妬しそうだなぁ……


 まだカンストしていないラミコなんだけど、SSS級なもんだからレベルがあがるための経験値が大量に必要らしく、農場の近くに出現しているR級やS級のモンスターを狩ったくらいでは全然容姿が変化していないんだよね……

 トリミが仲間になったことで、


『妾の妹分にしてあげてもよろしくてよ』

 

 って、すっごく嬉しそうにしてたんだけどなぁ……まぁ、トリミやグリンがいくらレベルアップしてもノーマル級の彼女達がSSS級のラミコに強さで敵うはずがないんだけど、ラミコが気にしているのはあくまで胸の大きさだし……


 まぁ、こればっかりはいくら考えてもどうにもならないだけに、今は考えないことにしよう。


 俺達が村に戻ると、ウバシーノが笑顔で出迎えてくれた。


「なんと、謎の豪雪をこんなに早く沈静化させてくださるとは、ウバシーノ感激なのじゃ。このウバシーノ、村のみんなに成り代わってお礼を言わせていただくのじゃ」

「お役に立てたのでしたら何よりです。それに、お礼はこっちのみんなにお願いします。豪雪の原因を排除してくれたのは、俺の妻のエカテリナと、仲間のみんな達ですので」


 俺の後方に並んでいるみんなへ視線を向ける俺。

 俺に『妻』って紹介されたエカテリナが、顔を真っ赤にしているんだけど、ウバシーノがいるからか、照れ隠しのツンデレ口調は控えていた。

 そんなエカテリナの周囲に立っているポロッカ達も、嬉しそうに笑顔を浮かべている。


 ウバシーノは、そんなみんな、一人一人の手を握りながらお礼を言ってくれた。

 その姿を、俺も笑顔で見つめていた。


 やっぱ、頑張ってくれたみんなが正当に評価されるのって嬉しいんだよな。


 みんなへのお礼を言い終わったウバシーノは、改めて俺の前に移動してきて、最後に俺の手を握った。


「本当にありがとうなのじゃ。お礼として、これらの商品を受け取ってもらえるかの」


 ウバシーノがそう言うと、後方から歩み寄ってきたエルフ族の村人達が、手に持っていた武具らしいものを手渡してくれた。

 すると、俺の側にエカテリナがすごい勢いで駆け寄ってきた。


「ちょ!? こ、これって、存在だけは運営から告知されていたけど、入手方法がずっと謎だった『エルフの神聖弓』じゃない!」

「え? そ、そんなにすごい武器なの、これ?」

「そりゃそうよ! この弓ってば、相手の属性に関係なく、同時に複数のモンスターを攻撃出来る上に、希に即死させることもあるんだからね!」


 俺の手の中の武具を見つめながら、早口でまくし立てるエカテリナ。

 それがどれ程すごい事なのか、モンスター討伐をしたことがない俺にはいまいち判断出来かねるんだけど……エカテリナの興奮ぶりから、相当な物だってことは理解出来る。


「じゃあ、この武具はエカテリナがもらってくれるかい?」

「え? えぇ? い、いいの!?」

「当たり前じゃないか。今回のクエストクリアの一番の功労者なんだし、エカテリナが受け取るのが一番だと思うからさ」


 俺が差し出したエルフ族の弓を、目を丸くしながら見つめているエカテリナ。

 俺の言葉を聞いても、


「で、でも、ポロッカやグリン達も頑張ってくれたし……」


 そう言って困惑していたエカテリナなんだけど、


「ママ、ポロッカはママに貰ってほしいベア」

「アタシもそう思う!」

「ウチもそう思います!」


 ポロッカ・グリン・トリミの三人がそう言ったもんだから、


「じゃ、じゃあ……お言葉に甘えて……」


 おずおずとした様子で、俺から武具を受け取ったエカテリナ。

 相当嬉しかったみたいで、弓を見つめながら嬉しそうに笑っていた。

 その様子を俺達も、笑顔で見つめていた。


 その後……


 俺とウバシーノは、村同士で交易をする約束を取り交わした。

 俺の村からはこのあたりでは栽培出来ない野菜を、エルフ族の村からはエルフ族の武具をそれぞれ販売することで話がついた。

 交易品として持ってこられる武具は、お礼に貰った武具よりは性能が若干劣るS級になるそうなんだけど、


「それでも、十二分にすごいと思うわ!」


 って、エカテリナが目を輝かせていたので、問題ないだろう。


「じゃあ、これからよろしくお願いします」


 トリミが持ち上げたゴンドラの中から手を振る俺。

 そんな俺達に、


「こちらこそ、よろしくなのじゃ!」


 ウバシーノをはじめとしたエルフ族の村のみんなが笑顔で手を振ってくれていた。

 

 来た時とは違い、晴れ渡った空の中を飛行していくトリミ。

 成長したことで、羽根がかなり大きくなったもんだから、乗り心地もかなり良くなっていた。


 ……しかし


「……結局連れてきたけど、こいつをどうするか、だよなぁ……」


 そう言った俺の足元には……ロープでグルグル巻きにされているユキハナの姿があった。

 こいつ、エカテリナ達が倒しても姿が消えなかったんだけど……そのまま放置して帰ったらまた豪雪を巻き起こしかねないし……そう思った俺達は、みんなで相談して、メタポンタ村に連行することにしたんだけど……


 苦笑しながらユキハナを見つめている俺の耳に、シビサオ山の方から、


 ♪雪に覆われたつ~シビサオ山よ~


 なんて歌声が聞こえていた。

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