エルフ族イベント その2
早速、エルフ族の村へ向かうメンバーを選び始めた俺。
「あ、フリフリさん! 新しいイベントがはじまったんですね!」
そんな俺の元に笑顔で駆け寄ってきたのは、NPCのファムさんだった。
その顔を見ると、思わずドキッとしてしまった。
……このファムさんって、俺の隣の部屋に住んでいる古村さんが中の人なんだからなぁ……
その古村さんに、昼間キスされたわけなんだし……そんなわけで、ドギマギしている俺。
そんな俺の横で立ち止まったファムさんは、ニコニコ微笑みながら俺を見つめ続けている。
リアル世界では俺の方が背が高いんだけど、ディルセイバークエスト内では俺の方が背が低いもんだから、ファムさんの顔を見ようと思うと下から見上げないといけないわけで……いや、しかし……ホントでかいな、あの胸……古村さん本人も、腰とかは折れそうなくらい細いのに胸だけど~んとでかい印象なんだけど、ファムさんの体型も、それと同等の存在感を持っているというか、下から見上げると……
「あの、フリフリさん……どうかしました?」
「い、いや、何でも無い、何でも……」
ご、ゴホン……思わず咳払いをして、胸に目を奪われていたことをごまかしながら、俺は改めて人選を開始した。
◇◇
それからおよそ1時間後……俺達はウバシーノさんが村長を務めているシビサオ山の山頂近くにあるエルフ族の村へ到着した。
いつもならラミコの荷車で移動するんだけど、シビサオ山って結構標高が高くって、すっごい寒いわけで……
「あがが……な、なんのこれしき……ぐぬぬ……さ、寒くて、体が思うように……」
とまぁ……は虫類に分類されるラミアのラミコってば、その寒さのせいで途中リタイアしてしまったわけで……
そんなわけで、ラミコには途中で引き返してもらったんだけど、今回俺達をエルフ族の村まで運んでくれたのは、メタポンタ村の住人になったばかりの鳥族の女の子だった。
「ウチ、戦闘は苦手やけど、人や物を運ぶんは得意中の得意なんよ~」
笑顔の鳥族の女の子なんだけど……いや、ホントびっくりしたんだ。
『ラミコが駄目となると、どうやって山の上まで移動しよう……』
って悩んでいた俺の元に駆け寄ってきた鳥族の女の子。
『そうないなことやったら、ウチのまかせてぇな』
そう言うと同時に、背中に生えている小さな羽根を超巨大化させたんだ。
鳥族の女の子のステータスを確認してみたら、
『飛行運搬』
ってスキルが表示されていた。
このスキルって、鳥族の女の子が運搬のために羽根を巨大化させた時にしか表示されないみたいなんだ。
これが、亜人のノーマルキャラが所有している内政系のレアスキルなのかもしれないな。
「ありがとう、助かったよ」
「いややわぁ、こないに素敵な名前を付けていただいたんやし、ここでお役にたてへんかったら、駄目駄目やん、なぁ?」
嬉しそうにニコニコ笑顔を浮かべている鳥族の女の子なんだけど……
「……あの、本当にその名前でいいのかい?」
「当たり前やんかぁ、ウチ、メッチャ気に入ってるねんで、この『トリミ』って名前」
鳥族の女の子改め、トリミは、頬を赤く染めながら笑顔を浮かべ続けているんだけど……ホント、ごめん……この程度の名前しか思いつかないポンコツで……
ちなみに……トリミと一緒に村にやって来た土竜族の男の子には、モグオって名前を……本当に申し訳ない……
後ろめたい気持ちに押しつぶされそうになりながらも、改めてトリミが運んでくれた即席の簡易ゴンドラに乗ってきた面々へ視線を向ける俺。
ファムさん
ポロッカ
グリン
俺とトリミを合わせた合計5人でやって来たわけなんだ。
エカテリナもログインしているみたいなんだけど、今日はイベントの最終日だし、そっちに専念させてあげないと、と、思って「エルフ族の村へ行ってくる」ってプライベートチャットを送るだけにしておいたんだ。
さて……
そんな俺達がやってきたシビサオ山なんだけど……
「こりゃあ……想像していた以上だなぁ……」
俺達の周囲には、吹雪が渦巻いていた。
ただ、この吹雪が不思議なのが、エルフ族の村からシビサオ山の山頂に向けてすごい猛威なんだけど……エルフ族の村を少し南下すると、嘘のように好天なんだ。
「ウチも、あの吹雪の中はよう飛べへんわぁ」
山頂の方へ視線を向けながら首を左右降っているトリミ。
「確かに……あの吹雪は相当だもんな」
エルフ族の村からシビサオ山の山頂までは、すぐ近いらしいんだけど……山頂の方角へ視線を向けても、吹雪の雪しか見えないんだ。
山頂方面へ視線を向けている俺達。
そんな俺の元に、自分が乗ってきたトナカイ風のモンスターに引かせていたソリから降りたウバシーノさんが歩み寄ってきた。
「これじゃ。この吹雪が豪雪を呼び、村の周囲を雪の壁で覆い尽くしてしまうのじゃ」
困り果てた表情を浮かべているウバシーノさん。
中性的な顔立ちをしているけど、どうやら男性らしい。
年齢は、エルフ族の村の村長だけあって、三桁らしいんだけど、それでも人間に換算すると30代前半ってことになるらしい。
「しかしまぁ……普通に考えたら、山頂方面に原因がありそうだよなぁ……」
「そうですね、警戒態勢で向かうのがいいと思います」
俺の言葉に、ファムが頷いた。
ファムが、わざわざ警戒態勢って口にしたってことは……山頂の方に何かモンスターがいるってことかもしれないな……
となると、ポロッカとグリンが頼りになる。
SSS級のモンスターが人型化しているポロッカはともかくとして、グリンの成長ぶりがかなりなんだよな。
元々ゴブリンのノーマルキャラであるグリン。
最初の頃は幼女に近い容姿をしていたんだけど、俺がログアウト中に、森に薬草の採取なんかに出向く村人達の護衛任務をこなし続けた結果、相当なレベルアップをしていて、それにともなってお姉さんって言葉がしっくりくる容姿に成長しているんだ。
かつてはまな板だった胸も、今では相当豊満になっていて、ラミコが時折ジェラシーのこもりまくった視線で見つめているくらいで……
「じゃあ、先頭はポロッカ。グリンは俺達を警護しながら進んでくれるかい?」
「わかったベア!」
「任せて!」
俺の言葉に、力強く頷くポロッカとグリン。
早速、みんなでシビサオ山の山頂方向へ向かって移動を開始した。
◇◇
吹雪が相当ひどいものの、目を凝らせば前方の様子を見ることが可能だ。
「ポロッカ、くれぐれも足元には気を付けて」
「パパ、任せるベアよ。それよりも、何か妙な反応が前方にあるベア」
「妙な反応?」
「ベア。何なのかよくわからないベアけど、山頂の方に何かがいるみたいベア」
ポロッカの言葉を受けて、俺のスキルを駆使して山頂方向を調べて見ると、
「……本当だ、微弱だけどモンスターの反応があるな」
吹雪のせいで、詳細まではわからないんだけど、何かがいるのは間違いなさそうだ。
山頂に近づいたから、その存在に気がつけたわけなんだけど……
「……うん? これはどういうことなんだ?」
その反応を見つめながら俺は首をひねっていた。
通常、俺達に対して敵意を持っているモンスターは赤い点、友好的なモンスターは青い点で表示されるんだけど……山頂付近のモンスターって、黄色い点で表示されていたんだ。
「……信号なら『注意』だけど……これっていったいどういう意味なんだ?」
ウインドウを見つめながら首をひねり続けていた俺。
……その時だった
俺の足元の雪がいきなり隆起したかと思うと、俺の周囲を取り囲んだ。
「う、うわぁ!?」
「パパ!」
「フリフリ村長!」
ポロッカやグリン達の声が聞こえた。
ただ、それも一瞬で、周囲を雪で覆われてしまった俺には、すぐに何も聞こえなくなってしまった。
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