エルフ族イベント その1

「……なんか、やれやれな一日だったなぁ……」


 ソファに座っている俺は、昼間の出来事を思い出しながら、脱力したように大きなため息をついていた。


 ひとしきり感情を爆発させた東雲さんはというと……料理が出来上がると、


『あ、あの……これ、今日のお礼ですから』


 作った料理を机に置いて、逃げるように俺の部屋を出ていった。


 ……まぁ、そうなるか……俺自身、あの東雲さんが自分の事を上手く表現出来ない人だなんて微塵も感じていなかったわけだし……それをコンプレックスに思っていた東雲さんが、それを自虐的に暴露しちゃったわけなんだし……


 しかし……東雲さんもだけど……まさか、古村さんにまで、あそこまで好意をもたれていたっていうのは、俺自身もかなりびっくりだったというか……いや、古村さんのアレは、好意というよりも信頼に近いのかもしれない……

 今まで、親身になって接してくれる存在が家族も含めていなかったところに、俺というお節介にも程があるレベルであれこれお説教する、まるで昔の近所の世話焼きおばちゃんみたいな存在が現れたもんだから、思わずそれにすがっている、といった感じなんじゃないかなぁ……


 そう考えると、小鳥遊もそんな感じなのかもしれない。

 人と接するのがすごく苦手なせいで、すごい処理能力を有していたのにまったく評価されないまま、今に至っていたわけだけど……そんなところに、小鳥遊の能力を正当に評価する俺みたいな存在が現れたもんだから……


「……いやいやいや……待て待て待て……」


 そんな事を考えながら、俺は思わず首を左右に降った。


「いくらなんでも、そりゃあ自意識過剰ってもんだろう……俺自身当時の上司や取引相手の暴言に対して拳を振り上げてしまった……いわば、社会人失格といっても過言じゃない欠陥人間じゃないか……そんな俺が、お説教とか、人を正当に評価だとか……おこがましいにも程があるだろう……」


 なんか……冷静になって考えていくと、どんどん自分が惨めになっていくというか……なんつうか……こう言う時に、すぐに話が出来る相手がいないっていうのも寂しいもんだなぁ……


 東雲さんと、古村さんの料理を口に運びながらそんな事を考えていた俺。


 そんな俺が、今日はいつもより早めにディルセイバークエストにログインしたのは、ある意味当然の結果だったというか……


◇◇


「パパ! 今日は早いベアね!」


 ドワーフのフリフリとしてゲームの世界にログインした俺。

 そんな俺に、真っ先に抱きついて来たのは、ポロッカだった。

 

 本来はSSS級のモンスターであるポロッカなんだけど、今ではすっかり愛玩動物的なポジションに収まっている。

 俺のことを『パパ』って呼んでいるのは、ゲーム内の妻であるエカテリナの仕業なんだけど……今では、そう呼ばれるのにも違和感を感じなくなっている。


「ポロッカ、おはよう。今日は早めに時間がとれたんだ」


 ポロッカの頭を撫でながら起き上がる俺。

 ポロッカは、嬉しそうな笑顔を浮かべながら、俺の手に頭をすり寄せている。


「あ、そうだ。パパにお客さんが来てるベアよ」

「俺にお客さん?」

「ベア。今はテテが相手をしているはずベア」


 ポロッカの言葉を聞いた俺は、早速テテの家に向かった。


 そういえば……

 

 このテテって、村人としてのレベルがあがった今では、『メタポンタ村の村長補佐』ってステータスのスキル画面に表示されているんだ。

 察するに、俺がログインしていない間に、メタポンタ村で起きた出来事に対して対処してくれる仲間キャラってとこなのかもしれない。

 テテと同じようにレベルがあがった村人達もいるにはいるんだけど、こんな表示が出現している仲間キャラは他にはいない。


 そう考えると……テテのスキルって、内政系の稀少スキルってことなのかもしれないな。


 そんな事を考えながらテテの家の扉をノック。


「テテ、何かお客さんが来てるって聞いたんだけど……」

「あ、フリフリ村長さん、お待ちしておりました」


 扉が開き、中からテテが元気な笑顔で飛び出して来た。

 その後方で、椅子に座っていた1人の人物が立ち上がるのが見えた。


「ほう、貴殿が、ここメタポンタ村のフリフリ村長であられるか。ワシはウバシーノ。エルフ族の長をしておる」

「エルフ族の長さんですか」


 少し固い感じの口調をしているウバシーノさんなんだけど……見た目はかなり若い感じだ。

 耳が長いのが、エルフって感じを際立たせている。

 まぁ、見た目が若いといっても、エルフ族っていえば人間よりも長命だっていうのが一般的だし、見た目とは裏腹に何百才とかだったりするのかもしれないな。


「それで、そのエルフ族の長さんが、このメタポンタ村にどのような御用なのでしょうか?」

「うむ、そのことなんじゃが、この村がリザード族の村と交易を始めたと聞いてな。ちと、様子を見にお邪魔したのじゃ」


 ドアの外から、村の中を見回しているウバシーノさん。


「しかしあれじゃな。一時は廃村となっていたこのメタポンタ村を、この短期間でよくぞここまで復興させたものじゃ。そんな貴殿に、ひとつ頼みがあるのじゃ」

「頼み、ですか?」

「うむ、ワシが長を務めておるエルフ族の村はシビサオ山の山頂近くにあっての、毎年この時期になると謎の豪雪に見舞われてしまっての、周囲の村々から途絶されてしまい、ほとほと困り果てておるのじゃ。それをどうにかして解消し、豪雪から村を救ってほしいのじゃ」


 ウバシーノさんの会話が終わると、その頭上に、


『エルフ族の村を救えイベント』


 って文字が書かれているウインドウが出現していた。


 ……あぁ、これってひょっとしたら、村のレベルがあがったことによって発生した内政系のイベントなのかもしれないな……なら、返事はひとつしかない。


「わかりました。引き受けます」


 俺がそう言うと、ウインドウの文字が輝きはじめ、


『エルフ族の村を救えイベント スタート』


 文字の内容が、そう変化していた。


「おぉ! 引き受けてくださるか! いやぁ、さすがはフリフリ村長じゃな」


 ウバシーノさんは、笑顔を浮かべながら俺の手を握りしめていた。

 

「いえいえ、これをきっかけに、ウバシーノさんの村とも友好的なお付き合いをさせて頂けたら、俺も嬉しいですし」


 俺も、笑顔で、ウバシーノさんの手を握り返していった。

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