なんか、村が賑わっていて…… その4

 ログイン広場へ向かっている俺とイースさん。


「……そういえば、イースさんをはじめとした攻略サイトを見ていて思ったんだけど、どこのサイトもレア以上の仲間キャラの情報は充実しているんだけどノーマルキャラの情報ってほとんどないよね」

「そうですね。私のサイトはそれなりに充実しているとは思うのですが、それでもキャラの名前と初期値とMAX値の掲載くらいしか出来ていませんので……」

「MAX値を掲載されているってことは、そこまでノーマルキャラを育てたってことなんだ」

「えぇ、そうです。でも、これってそんなに難しいことじゃないんですよ」

「え? そうなの?」

「えぇ、ノーマルキャラはレベルの上限が20までしかないんです。ですからS級モンスターの討伐に2、3回同行させるだけですぐにMAX値になりますので。ただ、そんな検証を行う人もそんなにはいないと思います。仲間キャラを同行させるとなると所持品枠を1枠使う必要がありますので……」

「あぁ、そっか……貴重な所持品枠を使用して、戦闘の役にたたないノーマルキャラを連れていくプレイヤーって、そんなにはいないか」

「えぇ……ただ、囮として同行させて、高レアモンスターの情報収集に使用したり、モンスターの攻撃対象にしてその隙にモンスターを攻撃するプレイヤーもいたりしますけど、そういった役にしてもレア以上の仲間キャラの方が役にたちますので、一度の攻撃で即死がほぼ確定なノーマルキャラをわざわざ同行させるプレイヤーは、そんなに多くはないですね」

「なるほどなぁ……」

「稀少なスキルを所持していれば、そのスキルを上位のレアリティのキャラに移譲するための素材としての価値もあるのですが、ノーマルキャラでそんなスキルを持っているキャラは確認されていませんし、高レアリティのキャラの経験値として消費するにしても、得られる経験値に対して移譲にかかるコストが割高なもんですから、そっちの利用価値もあまりないといいますか……」

「……それで、NPCに売却して、ゲーム内通貨に変換するってわけかぁ」


 イースさんの説明を聞いている俺。

 その目の前では、今日もノーマルの仲間キャラを売りに来ているプレイヤーがいた。


 昔のゲームであれば、所持枠の中で一括指定して、


『これらのキャラを削除しますか? はい/いいえ』


 って画面で『はい』を選択すれば、一瞬で終わる行為だろうけど、やっぱりこういう光景を見ているとちょっと複雑な気持ちになってしまうな。

 まぁ、これもモンスターの討伐を推しているディルセイバークエストのゲームの一部なんだって言われればそれまでなんだけど、モンスターの討伐に興味を持っていない俺からすると、ちょっとなぁ……


 そんな事を考えながら、今日もNPC達の横に立って仲間キャラの買い取りを行おうとした俺。


「あんた、メタポンタ村の村長をしているフリフリさんだね?」


 そんな俺に、プレイヤーから仲間キャラの買い取りを行っているNPCの一人が声をかけてきた。

 フードを深々と被っている小柄なキャラ。

 その声からして、男性みたいなんだけど……俺の記憶では、


『仲間キャラの買い取りかい?』

『総額で***になるよ。それで買い取らせてもらっていいかい?』

『ありがとな、またよろしく』


 といった、定型の台詞以外を口にしているところを見た覚えがないんだけど……


「え、えぇ、確かに俺はメタポンタ村の村長をしているフリフリですけど……」


 おっかなびっくりで返事を返す俺。

 そんな俺の方へ向き直る買い取り人のNPC。


「オレは、この広場で買い取りをしているNPCの元締めでフオドーハって言うんだけどさ。あんた、よかったらオレから仲間キャラを買わないか?」

「え? あんたから仲間キャラを?」


 確かに……オレは、フオドーハ達よりも若干高めのゲーム内通貨で買い取りを行っているので、その申し出もわからないでもない。

 

「いや、それは確かにありがたい申し出なんだけど……なんでまた急にそんな事を言ってきたんだい?」

「それは、あんたがLv5の村の村長になったからさ」

「あぁ……そうなんだ」


 フオドーハの言葉に、思わず頷く俺。

 そうか……村のレベルがあがるとこんな恩恵もあるんだ。


 イースさんもはじめての体験らしく、ゲームのメモ機能を駆使して、俺の状況を書き留めているようだ。


「そういうことなら、ぜひお願いします。俺の村で暮らしてくれる仲間キャラを集めている最中なんで」

「譲渡価格はオレが決めさせてもらうな。あと、販売出来るのはオレ達が買い取りした仲間キャラのうちで譲渡条件を満たしているキャラのみになるから、そこんとこよろしく」


 そう言うと、フオドーハはオレの前にウインドウを展開した。


 そのウインドウの中には、譲渡可能なキャラの種族と今のレベル、所有しているスキルと、譲渡価格が明記されていた。


「このウインドウは商談相手のあんたにしか見えない設定になっているんだけど、アンタの要望があれば連れの女性にも開示してもかまわないよ」


 フオドーハの言葉を聞いた俺が振り向くと、イースさんがどうにかしてウインドウを見ようとして、自分のコンソールやボタンを操作しまくっていた。


「あぁ、じゃあイースさんにも見えるようにしてください」

「わかった……じゃあ、これで」


 俺の言葉を受けたフオドーハが右手を動かすと、


「……うわぁ……こ、こんな画面があったんですね……始めてみました」

 

 感動した様子のイースさんが、感嘆の声をあげていた。


「そりゃそうだ。何しろ、交渉条件を満たしたプレイヤーがこの広場に現れたのは、はじめてだからな」

「そ、そうなんだ……」


 フオドーハの言葉に、思わずびっくりしてしまう俺。


「確かに、内政に少し手を出すプレイヤーは今までにもいましたけど、村をまるごと買い取ってしまって、村長にまでなってしまったプレイヤーって、聞いたことがありません……」


 イースさんも納得した表情を浮かべなから頷いている。


「い、いや……俺は、好き勝手にプレーしているだけだから……」


 なんか、2人にあれこれ言われて照れくさくなってしまった俺は、苦笑しながら頭をかいていた。


◇◇


 そんなわけで……


 フオドーハが提示したウインドウの中から、一日に譲渡してもらえる最大値10人を指定して譲渡させてもらった。


 このウインドウに表示されているキャラ達って、フオドーハ達が買い取りした中で、一定の条件を満たしているキャラだけがストックされているんだとか。

 今まで消去されるしかないと思っていたキャラ達が、こんな形で残っていたってことが、なんだか嬉しくなってしまった。


 フオドーハから今日購入させてもらったのは、


 亜人が2人


 人間が8人


「……そういえば、亜人のノーマルキャラって、案外少ないんだね」


 新たに仲間になったみんなと握手を交わしていた俺は、そんな事を口にしていた。


 そうなんだよな……鍛冶師として頑張ってくれているドワーフのオドワとアドワや、村の用心棒として成長しているゴブリンのグリン達のように、亜人のノーマルキャラ達って結構有能な気がしていたもんだから優先的に選択させてもらおうと思っていたんだけど……今日のリストには2人しか名前がなかったんだ。


「あぁ、以前はもう少しいたんだけどさ。ストック出来るキャラが1000人までなんだ。それを超えたら古い順に抹消されてしまうんだけど……」


 ここでフオドーハが俺の耳元に口を寄せた。


 ディルセイバークエストのゲーム内で、こうして耳元に口を寄せて話をすると、周囲のプレイヤーに会話内容を閲覧されにくくなるんだよな。


「ここだけの話だけどさ……ノーマルキャラの亜人は、実は稀少種なんだ。モンスター討伐に関してはからっきしなんだけど、アンタのように内政系をメインにしているプレイヤーにとっては貴重な存在だと思うよ」

「え? そ、それってどういう具体的にどういった意味で……」


 続きを聞こうとした俺なんだけど、フオドーハはそんな俺の肩をポンと叩いた。


「オレが話せるのはここまでだ。後は自分であれこれ試して確かめるんだな」


 そう言うと、フオドーハは元いた場所へ戻っていった。

 そんなフオドーハにお礼を言いながら手を振る俺。

 

 ちなみに、今日新しく仲間になった亜人のキャラって、背中に羽が生えている『鳥族』ってキャラと、手がスコップみたいになっている『土竜(もぐら)族』ってキャラの2人だった。

 鳥族のキャラが女の子で、土竜族のキャラが男の子だ。


 俺が顔を向けると、2人は嬉しそうに笑いながら、ぺこりと頭を下げてくれた。

 その後方に並んでいる8人の人間達も、笑顔で頭を下げてくれている。


「またメタポンタ村が賑やかになりますね」

「あぁ、ありがたいことだよ」


 イースさんの言葉に、俺も笑顔で頷いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る