こんな駄女神は嫌……なんだけど…… その6
商品の陳列を終えて、今日はお終いにしようと思っていたんだけど……宣伝も何もしていないっていうのに、店の前にすごい数のプレイヤー達が押し寄せていた。
「おいおい……いったい何が起きてるんだ……」
プレイヤー達が押し寄せている出窓を見つめながら、唖然としている俺。
「あらあらあらまぁまぁまぁ、これは一体どうしたのでございましょうかねぇ?」
俺の横にやってきたリサナ神様が、ワニの頭の被り物を被っている頭をひねりながら、どこかのんきな声をあげている……群衆に向かって時折、にこやかに手を振ったりしているんだけど……リサナ神様は、リザード族の間では超有名かもしれないけど、ディルセイバークエストを長くやっているエカテリナが知らなかったくらいだから、プレイヤーがリサナ神様を目当てに殺到しているとは思えないし……
とりあえず、出窓の向こうのプレイヤー達の声に耳を傾けてみた。
そのアイテム……いるんだ……
イベントに……毒の沼に入るのに……
ゾンビドラゴンロードが……沼に……
エカテリナが……
商店街組合で聞いて……
なんか、みんな思い思いに言葉を発っしているものの……その言葉を脳内でつぎはぎした結果、だいたいの事情は把握出来た。
「今日はじまった『ゾンビドラゴンの大侵攻を食い止めよ』ってイベントに登場するレアボス『ゾンビドラゴンロード』ってやつが、毒の沼に出現するらしいんだけど、その毒の沼に入るには、以前のイベントで配布されたリザード族の防具がないと非常に困難らしく、しかも、あったとしても毒の効果のせいで通常30分は窒息を防ぐことが出来るリザード族の防具がわずか5分しか効果を発揮出来なくて、ゾンビドラゴンロードを倒す前に時間切れになったり、死亡判定が出てしまう……と」
俺が状況を整理していると、出窓の向こうのプレイヤー達が一斉にうんうんと頷いた。
「……そんな中、イベントで配布されたリザード族の防具とは明らかに違う防具を身につけたエカテリナが毒の効果をほとんど受けずにゾンビドラゴンロードを倒しまくりはじめたもんだから、
『その防具はどうしたんだ?』
って尋ねたら、
『メタポンタ村のフリフリ村長が、ログインの街で売ってるんだからね!』
って言うもんだから、毒の沼に集まっていたプレイヤー達が大挙してこの街に戻ってきて、俺の行方を捜しまくり、商店街組合で俺がここで店をはじめると聞いて……そして今に至る……と」
話の続きを整理した俺の言葉に、プレイヤー達は再びうんうんと頷いていく。
「そっかぁそっかぁそっかぁ、みんなリサナ教に入信したくてやってきたんじゃなかったのでございますねぇ。ちょっと残念」
リサナ神様が、結構本気で落ち込んでいるんだけど……っていうか、その自信はどこからくるのかねぇ……
◇◇
「……事情はわかったけど……さて、どうしたもんか……」
正直、今から店を開けると……2日続けて寝不足が確定ってことになっちまう。
社会人として、さすがにそれは避けないと……と、頭ではわかっているんだけど……
「……そうだよなぁ、エカテリナがわざわざ他のプレイヤー達のために攻略方法を教えてあげたっていうのに、それを台無しにするのもなぁ……」
これはイースさんに聞いた話なんだけど……
エカテリナは、確かに廃プレイヤーで、結構なお金をこのゲームにつぎ込んでいるんだけど、他の廃プレイヤー達と違って、普通のプレイヤー達から好意的にみられているそうなんだ。
というのも、
イベントのレアなモンスターの出現場所
レアモンスターの討伐方法
ポイントが稼げる隠しマップ
そういった攻略情報を、聞かれたら惜しげもなくすべて教えてあげているそうなんだ。
人と直に話すのが苦手なエカテリナなもんだから、例によってとってつけたようなワンパターンなツンデレ口調で、聞かれた内容の答えを一方的に言い放っては逃げる様に立ち去っていくそうなんだけど……そんなエカテリナのおかげで、イベントを楽しめているプレイヤー達が少なからず存在していて、そんなプレイヤー達から神と崇められているなんて噂もあるそうなんだ。
「そうだな……みんなのために頑張っているエカテリナを嘘つきにするわけにはいかないよな。俺、旦那なんだし」
俺がそう言うと、ファムさんが笑顔で頷いた。
「フリフリさんならそう言うと思っていましたよ。私達も手伝いますから、ちゃちゃっと売っちゃいましょう」
「任せるのじゃ主殿、妾も頑張るのじゃ!」
「あ、アタシも頑張るから!」
ファムの横で、ラミコとグリンも力こぶポーズで笑顔を浮かべてくれている。
「あらあらあら、奥様のために頑張るフリフリさん……これは、エカテリナさんが家に帰った後がとっても楽しみですわねぇ……うふうふうふ……」
ワニの頭の被り物の頬の辺りを両手で押さえながら、荒い息を繰り返しているリサナ神様……うん、この駄女神様だけは戦力になりそうにないな……
そんなわけで、リサナ神様を倉庫の中へ閉じ込めた俺は、
「じゃあ、店に並べた商品だけでも、販売するとしよう」
そう言って、店の扉を開けた。
俺の言葉を聞いていたプレイヤー達が、歓喜の声をあげながら店内になだれ込んで来たのはいうまでもない。
◇◇
俺がログアウトしたのは、結局今日も未明近くになってからだった。
ディルセイバークエストの世界は基本的に常に日中なので、視界の中に表示されているリアル世界の時計をチェックしておかないと、えらいことになりかねない。
「……結構時間がかかっちまったけど……でもまぁ、プレイヤーのみんなも喜んでくれたしな」
エカテリナも、他のプレイヤー達が俺が販売したリザード族の防具を使ってレアモンスターを討伐し始めたら、きっと喜んでくれると思うし……
「……ん~……ただ、順位があがってきたエカテリナの足を引っ張ることになりかねないわけだし……実際のところはどうだったんだろう……」
そう考えると、少し不安になってしまう俺。
ピロン
その時、俺のスマホが鳴った。
こんな時間に、メッセージ?
首をかしげながらスマホを確認してみると、エカテリナからのメッセージが届いていた。
『無理させてごめんなさい。あと、ありがとうございました』
その内容からして、どうやら俺の心配は杞憂だったみたいだ。
っていうか、いうものツンデレ口調じゃないところを見ると俺が無理をして販売したことを察して、恐縮しているのかもしれないな。
そんなエカテリナのメッセージを読みながら思わず笑顔を浮かべる俺。
ピロン
すると、再びメッセージの着信音。
『こんな時間にすいませんでした』
……どうやら、メッセージを送信した後で、今の時間に気がついたみたいだな。
謝罪するのはともかく、こんな時間に立て続けにメッセージを送ってくる方があれなんじゃないか……
「……いや……俺にどうしてもお礼を言いたいと思ってくれたんだろうし、それは言わずにおこう」
しかし……コミュ障な小鳥遊が精一杯頑張って送ってきたメッセージなんだし……このまま返事は一眠りしてからっていうのも、なんか申し訳ない気がする。
そう思った俺は、
『俺も楽しかったよ。イベント頑張れよ』
そう返信した。
すると、程なくして再度メッセージが届いた。
『す』
「……は?」
小鳥遊から届いたそのメッセージを見つめながら、俺は思わず目を丸くしていた。
……なんだ、この一文字だけのメッセージは?
何か書きかけで送信してしまったのか?
その後、しばらく待ってみたんだけど、小鳥遊からそれ以上のメッセージは送られてこなかった。
気にはなったんだけど、さすがに限界だったので俺はそのまま寝ることにした。
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