おいおい小鳥遊 その1
朝、スマホを確認しても小鳥遊からのメッセージは来ていなかった。
「……結局、あの「す」ってメッセージはなんだったんだ?」
疑問には思ったものの……肝心な小鳥遊から返信が来ていないわけだし、かといってわざわざ確認するほどのことでもないか……そう思った俺は、いつものように出勤の準備を整えていった。
◇◇
いつもの通勤電車に乗り、スマホを開く。
最近は、通勤途中にディルセイバークエストの攻略サイトを確認するのが習慣になっている。
「最大手の攻略サイトは、やっぱりイベントの攻略情報が満載だなぁ」
呟きながら更新内容を確認していく。
内政系の情報が何かないかと思いながら更新されたページを確認していくものの……そういったページはやっぱり1つもなかった。
「……ん?」
そんな中、俺の手があるページで止まった。
そこには、どこか見覚えのある顔が……
「って……これ、俺か?」
そう……そこには、笑顔の俺……といっても、もちろん現実の俺じゃない。
ディルセイバークエスト内での俺、つまりドワーフのフリフリのスクリーンショットが掲載されていた。
内容を確認してみると……
「……今回のイベントのレアモンスター『ゾンビドラゴンロード』が潜んでいる毒の沼に突入するのに有効なアイテム『リザード族の防具・SSS級』を販売しているプレイヤーショップが出現……」
続いて、俺のインタビュー記事が載っていた。
……そういえば、昨日リザード族の防具を販売している時に、スクショの撮影と攻略サイトへの掲載の許可を求めてきたプレイヤーキャラがいたっけ。
店の宣伝になるかと思って許可して、ついでにインタビューも受けたんだけど……あのプレイヤーって、このサイトの運営者の人だったんだ……
インタビューといっても、
『Q:このお店はどうやって入手されたんですか?』
『A:内政系のプレイをしていたら、たまたま入手条件を満たしたみたいで』
『Q:この武具はどうやって入手なさったんですか?』
『A:仲良くなったNPCの方から購入させてもらってます』
とまぁ、こんな感じで当たり障りのない返答に終始していたんだよな。
というのも、リザード族のことや店の入手の方法といった詳細な情報は、イースさんのサイトに一番に掲載させてあげたいと思っているからなんだけど……この記事、結構話題になっているみたいだし、インタビューも断っておいて、イースさんに独占させてあげた方がよかったかな……う~ん……
昨日インタビューしてきた、このサイトのプレイヤーさん的には、リザード族の防具を具体的にどうやって入手したのか知りたかったみたいで、もっと俺に質問したそうだったんだけど、昨日はお客さんが殺到していてそれどころじゃなかったから、インタビューは早々に打ち切らせてもらったんだけど……
「あのプレイヤーさん、天使みたいな格好してたけど……またインタビューに来るかもな……ん?」
そんな事を考えながら、サイトのページをスクロールしていくと……そこで俺は目を丸くした。
俺のインタビューに続いて、リサナ神様へのインタビュー記事が掲載されていたんだ。
「……ってか、あの駄女神……いつの間に……」
リサナ神様って、確か倉庫に閉じ込めておいたはずなんだけど……いつの間にインタビューを受けたんだ?
頭の中にクエスチョンマークが乱舞していたものの……内容的にはリサナ教の勧誘的な内容に終始していたので、まぁ問題ないだろう……最後の写真が、転がってしまったワニの頭の被り物を追いかけている姿っていうのがなんともらしいんだけど……
「……ん?」
その時、俺ちょっとしたことに気がついた。
通勤電車の中は結構混雑しているんだけど……俺の斜め前に立っている女の子が真っ赤な顔をしたままうつむいていた。
最初は気分でも悪いのかと思ったんだけど……よくみたら、その女の子の真後ろに立っているおっさんの動きがどうにも挙動不審だったんだ。
どうにも、その女の子に腰を押しつけているような……合わせて、時折女の子のお尻にタッチしているような……そんな動きを繰り返していた。
ずいぶん手慣れた感じだな……あの程度だと、偶然当たったと言い張られかねない。
そんなギリギリの動きをさりげなく行っているあたり……おそらく常習犯なんだろう……
……そうだな、とりあえず
俺は、電車の動きに合わせて体を大きく動かすと、
「おっと、すいません」
わざとらしく声をあげながら、おっさんと女の子の間に割り込んでいった。
おっさんはサラリーマン風の格好をした50代に見えた……俺よりも年上なのは間違いない。
んで、俺が間に割り込んできたことで、小さく舌打ちをすると次の駅で下車していった。
女の子はと言うと……俺の前で、安堵のため息を漏らしていた。
この様子だと、やっぱり痴漢被害にあっていたみたいだな……やっぱりとっ捕まえるべきだったか。
そんな事を考えていると、その女の子は自分のスマホを俺の顔の前に突き出してきた。
そこには、
『助けてくれてありがとうございましにゃ』
最後噛んだみたいな感じになっているメッセージが書き込まれた画面が表示されていた。
うつむいたまま、顔を真っ赤にしながら画面を突き出しているところを見ると、人と接するのが苦手なのかもしれないな。
俺は、
『困った時はお互い様』
ってな感じで笑顔を浮かべながら右手を軽く振った。
そんな俺に、その女の子は何度も頭を下げていた。
制服を着ているところをみると学生なんだろうけど……かなり小柄で童顔なもんだから、高校生なのか中学生なのかちょっと区別がつかない。
このあたりの学生の制服にもあまり詳しくないしなぁ。
しばらくすると、俺の降りる駅に到着した。
俺が軽く手を振ると、その女の子は笑顔を浮かべながら再度手を振り返していた。
朝から人助けが出来たもんだから気持ちがいいな。
そんなわけで、少しご機嫌な様子で会社へ向かって足を向けた俺。
ギュ
そんな俺の袖が、後方から握られた。
振り返ると……そこに小鳥遊が立っていた。
っていうか……小鳥遊ってば、生気のない瞳で俺の顔を凝視しているんだけど……
「……あのJKとは、どのようなご関係なのですか?」
って……まるで地獄の底から響いてくるような声で俺に話しかけてくるんだけど……
「あの子は、今朝はじめてあった子だよ。変なヤツに絡まれていたから助けてあげただけだって」
「……ほんとに?」
「ホントだって。こんなことで嘘を言ってもしょうがないだろう?」
俺の顔をジッとのぞき込んでいた小鳥遊なんだけど……しばらくすると、ようやく普通の表情に戻った。
同時に、安堵のため息を漏らしている。
「……よかった」
「ん? よかったって、何がよかったんだ?」
「あ、い、いえ……な、なんでもないんです、はい」
「そうか? なら良いんだけど……あ、そういえば小鳥遊、今朝のあのメールは、一体なんだったんだ?」
「ふぇ!? ……あ、あのメールって……ま、まさか、一文字だけの……」
「そう、それ……なんか、意味がわからなくてさ、どう返事を返していいかわからなくて……」
俺が苦笑しながら話を続けていると、小鳥遊の顔がみるみる真っ赤になっていった。
「わわわ忘れて!」
「は?」
「忘れて! 今すぐ忘れて! あああ、あれは気持ちが高ぶっちゃってありえない言葉を送信しかけて慌てて削除したはずが……い、一文字だけ送信しちゃっただけであって、そ、その……お、送るつもりじゃなかったというか、わわわ私なんかにす……」
「す?」
慌てた様子でまくしたてていた小鳥遊んまんだけど……そこで黙り込んでしまった。
俺の前で、まるで茹で蛸のように耳まで真っ赤になっている小鳥遊。
うつむくと、小鳥遊は無言のまま会社に向かって小走りで進みはじめた。
「ちょ、おい小鳥遊、どうしたんだ?」
そんな小鳥遊を慌てて追いかけていく俺。
まったく、一体どうしたっていうんだ?
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