こんな駄女神は嫌……なんだけど…… その5

 エカテリナの話題で話題で持ちきりになっている商店街組合の中、カウンターへ移動した俺達。

 そんな俺の前に、一人の女性が移動してきた。

 胸にNPCであることを示す逆三角形のマークが浮かんでいる。

 容姿は、普通の人族で、商店街組合の制服らしいタイトなスーツを身につけている。


「商店街組合へようこそ。今日はどのようなご用件ですか?」

「あ、はい。店を持ちたいと思いまして……」

「店舗の購入ですね? では条件をクリアなさっているかどうか確認させていただきます」


 受付のお姉さんは、そう言うと俺の頭の上のあたりを見つめながらフンフンと小さく頷いていく。


 俺には見えていないんだけど、そのあたりに俺のステータスが受付のお姉さんにだけ見える形で表示されているんだろう。

 ……しかしなんだ……この受付のお姉さんも胸が大きいなぁ……自分でサイズを調整出来るプレイヤーキャラはともかく、NPCのファムさんもリサナ神様もかなりのサイズだし、テテも目立たないけど割と豊満だし、グリンもレベルアップしたら大きくなっていたし……このゲームのNPCの女性キャラってみんな胸が豊満な設定なんじゃ……


 と


 そこまで考えたところで、俺の視界にラミコの姿が入った。

 胸を張って立っているラミコだけど……うん、見事に絶壁だ。

 そうだな……俺の気のせいだな、うん。


「ちょっと待つのじゃ主殿、今何か失礼なことを考えていなかったかの?」

「いや、気のせいだって、うん」


 俺とラミコがそんな会話を交わしていると、受付のお姉さんが大きく頷いた。


「はい、大丈夫です。店舗を所有する条件をすべてクリアなさっておられますので、店舗を紹介させていただきますね」


 受付のお姉さんはカウンターの上に複数のウインドウを表示していった。

 

「これが現在お売り出来る店舗物件です。外観には違いがございますけれども、内部構成はどれもほぼ同じになっています。

 あと、フリフリ様は、まだ販売実績がほとんどございませんので広場に面した店舗はまだ所有出来ません」


 受付のお姉さんの説明のとおり、ウインドウの物件はすべて広場から一本裏にある通りの店舗ばかりだった。

 まぁ、受付のお姉さんが言う通り、俺がこのゲームをはじめて以降、まだ1回しか広場で品物の売買をしたことがないし、それも仕方ないだろう。


「じゃあ、売買実績を積んでいけば、広場に面した店舗に移ることが出来たりするんです?」

「えぇ、売買実績に加えて、いくつかクリア条件がありますけれども、それをすべてクリアすれば可能になります」

 

 そう聞くと俄然やる気になってしまうな。

 物件の中で、俺は黄色い壁が特徴的な二階建ての店舗を選択した。

 まぁ、そんなに大した理由じゃないんだけど……エカテリナが金髪なんで、それに近い色を選んだだけなんだけど……

「あれ、店舗って結構いい値段がするんだなぁ……」

 ウインドウに表示されている値段を確認した俺は眉間にシワを寄せた。

 ……うん、この値段だと、手持ちのお金じゃ足りないんだ……エカテリナから大金をもらったけど、その大半は仕入でもう使っちゃったし。


 ……しょうがない、まずは仕入れた品物を地道に販売してからにするか


 俺がそう思った、まさにその時だった。


『エカテリナさんから贈り物があります』


 軽快なサウンドと共に、俺の眼前にウインドウ立ちあがった。


「な、なんだぁ!?」


 なんかさっきもこんなシチュエーションがあった気がしながらも、点滅しているプレゼントボックスを開いてみると……


『エカテリナさんからのプレゼント ゲーム内通貨……』


 って、またとんでもない大金が送られてきていた。

 例によって、メッセージが添付されていたんだけど、


『なんか旦那様が大きな買い物をしそうな気がしたから、仕方なく送ってあげるんだからね!』


って、お決まりのツンデレ口調のメッセージなんだけど……な、なんでこんなにタイミングよく……


 慌てて周囲を見回したんだけど……エカテリナの姿は周囲にはなかったわけで……これって、マジで直感で、ってことなのか?

 エカテリナの直感のすごさを前にして、思わず背筋が冷たくなる俺だった。


◇◇

 

 で、まぁ……エカテリナのプレゼントのおかげで、どうにか物件を購入することが出来た俺。


「では、これが物件の鍵になりますので、ストレージに直接収納させて頂きますね」

「あぁ、ありがとう」


 受付のお姉さんから鍵を受け取った俺は、みんなと一緒に早速店舗に移動した。

 

「……しかし、あれだな……早く品物を販売して、エカテリナに返さないとな……このままじゃホント、ヒモそのものだし」

「あぁ、でも、そんなに深刻に考えなくてもいいかもですよ」

 俺の言葉に、ファムさんが笑顔で頷いた。

「エカテリナさんくらいのプレーヤーになりますとですね、毎日のようにSSS級モンスターを狩りまくられていますので、毎日のように討伐報酬をすごい額、手にいれているはずなんですよ」

「でも、武具を買ったりしないといけないんじゃあ……」

「武具にしてもですね、レアドロップアイテムでまかなえますのでわざわざ購入する必要がないんですよ」

「はぁ……強くなると、金にも困らなくなるっていうわけか……」

「まぁ、そこまでのプレーヤーは、ゲーム内でもほんの一握りなんですけどね。で、エカテリナさんは間違いなく、その一握りのプレーヤーで、さらにその中でもトップクラスですから」

 

 ファムさんの説明を聞いていると、改めてエカテリナのすごさを実感する俺なんだけど……まぁ、モンスター討伐に興味が無い俺にとっては、

『金に困らなくていいなぁ』

 的な感想しか出てこなかったんだけどね。


 そんな会話を続けながら、入手した店舗の表示と街道沿いの店舗と見比べていく。

 このウインドウが、俺以外のみんなにも見えているもんだから、他のみんなもウインドウを確認しながら周囲を見回している。

 やっぱ、表通りの店舗の方が一回り大きい感じだな……見た目もお洒落な店が多い感じだし……

 俺がそんな事を考えていると、ラミコが俺の腕を掴んだ。 


「あ、あれなのじゃ! あれに違いないのじゃ!」


 ラミコが指さした先に、黄色い壁の建物が見えた。

 周囲の建物がどちらも3階建てなもんだから、2階建てのその建物は若干目立たない感じになっているけれども……


「……そうだな、悪くないんじゃないかな」


 入り口の左右には商品を展示出来る出窓があり、全体的に綺麗だ。

 鍵を使い、建物の中に入った。

 もっとも、鍵がストレージに入っているので、俺が扉に手を伸ばすだけで解錠されたんだけどね。


「へぇ、店内には備え付けの棚なんかが最初からあるんだな……ってことは、ここに商品を並べるだけですぐに販売を始めることが出来そうだな」


 店内には3段の陳列棚が3つと、壁に備え付けの棚がいくつかあった。

 奥にカウンターがあり、ここで売買することになるようだ。


「所有権がフリフリさんに移っていますので、お店の状態を『開店』にするだけでお店を始めることが出来ますよ」

「へぇ、そうなんだ」


 ファムさんの説明に、頷く俺。

 ……とはいえ、店舗を入手したばかりだし、


「そうだな……今日のところは品物を陳列だけしてみようか。販売は、明日からにしよう」


 メタポンタ村に戻る時間を考慮すると、販売行為を行っていると、昨日に続いて寝不足になってしまいかねないしな。


 そんなわけで、荷車から取り出した荷物を店内に運びこみ、まずはみんなで思い思いに陳列していく。

 ざっと並べて、あとで微調整しようと思っている。


「そうだな……今の目玉商品はここに飾っておくか」


 リザード族の武具を、店の外からでも見ることが出来る出窓のところに陳列していく。

 店内では、ラミコ・ファムさん・グリンたちがせっせと商品を陳列してくれていた。

 ……ただ、リサナ神様は、移動する度にワニの頭の被り物が棚や壁にぶつかって、あちこちに転がっていってしまい、


「あらあらあらあら」


 右手で顔を隠しながらそれを追いかけていくもんだから、邪魔にしかなっていなかった。


◇◇


「リサナ神様は「現場監督」として、ここに座ってみんなの作業ぶりを見守ってくださいね」

「あらあらあら、フリフリさんのお願いでしたら仕方ありませんわね」


 俺の言葉に頷き……その拍子に落下しかけたワニの頭を俺が抑えて、どうにか落下を防ぐ事が出来た。

 んで、リサナ神様にはカウンターに座ってもらい、邪魔にしかなっていなかったリサナ神様の排除に成功した。

 んで、俺達は、店内に持って来ていた商品を陳列していった。


 リサナ神様の邪魔がなくなったおかげで、数十分で作業はあらかた終わってしまった。


「そうだな……あとは村で作成しているレア以上の回復ポーションなんかも陳列してみるか」


 そんな事を考えながら店内を見回している俺。

 真新しい店内に、商品がずらっと並んだ様子って、なんか感動してしまうな。


「みんなご苦労様、じゃあ、今日はこれで村に帰るとするか」


 みんなに笑顔で話しかけた俺。

 そんな俺の肩を、リサナ神様がポンポンと叩いた。


「あのあのあの、フリフリさん」

「リサナ神様、どうかしました?」

「えぇえぇえぇ……あのぉ、お店の外がなんだかすごいことになっているようなのですけれどもぉ……」

「え? 店の外が?」


 リサナ神様が指さしている、出窓の方へ視線を向けた俺。

 ファムさんやみんなも、俺に続いて同じ方向へ視線を向けていく。


 その視線の先……出窓の向こうを見た俺は、思わず目を丸くした。

 出窓の向こうに、すさまじい数のプレイヤーキャラが殺到していた。

 10人や20人どころの騒ぎじゃない……軽く見積もっても、100人以上のプレーヤーが集まっているんじゃないか、あれってば……


「……おいおい、一体全体何が起きたんだ?」


 出窓の向こうを見つめながら、俺は目を丸くしていた。

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