こんな駄女神は嫌……なんだけど…… その4
お祝いしてくれた村のみんなに見送られながらメタポンタ村を出発した俺。
「さぁ、主殿! しっかり捕まっておるのじゃぞ!」
元気満々のラミコが、いつもの荷車を引っ張ってくれている。
荷台には、俺とファムさん、そしてグリンとリサナ神様が乗っていた。
いつものように超高速で街へ向かって進んでいくラミコ。
その荷車の上では、リサナ神様がファムさんの横にべったりと張り付いていた。
「ねぇねぇねぇ、ファムさんって、フリフリさんとはどのようなご関係なのでございますかぁ?」
「私はフリフリさんに雇用されている……」
「あぁん、違うの違うの違うのぉ、そういう事を聞いているのではありませんの。ほら、フリフリさんに雇用されていながらにして、密かに恋心を募らせている片思いのご関係? それとも、奥様のエカテリナさんに隠れて逢瀬を……」
「ちょ、ちょっとリサナ神様ってば、いったい何を言っているんですか!? わ、私とフリフリさんはそんな関係ではありませんから……」
「あらあらあらぁ? それにしては、時折熱い眼差しでフリフリさんの事を見つめておいでのようにお見受けいたしましもがががが」
「あ、あはは……も、もうリサナ神様ったら、何を言っていらっしゃるんでしょうねぇ、あは、あはははは」
ぼそぼそ小声で話をしていたリサナ神様とファムさんなんだけど……いきなりファムさんがリサナ神様のワニの頭の被り物の口の中に手を突っ込んで……って、あれはリサナ神様の本当の口を直に押さえているんだろうな……そんな姿勢をとりながら引きつった笑顔を浮かべていたんだけど……
「ファムさん、何かあったのかい?」
「い、いえいえ、な、なんでもないんです、なんでも……」
「あらあらあらぁ、私はファムさんがフリフリさんとただならぬご関係かもがががが」
「もう、リサナ神様ってば、そんなに喉が渇いていらっしゃったのですかぁ? さぁ、遠慮なくお飲みくださいな。っていうか、飲み続けなさい、この駄女神!」
今度は、水筒を取り出したファムさんが、リサナ神様のワニの頭の被り物の口の中に手を突っ込んで……って、あれはリサナ神様の本当の口に水筒を突っ込んでいるんだろうな……そんな姿勢をとりながら引きつった笑顔を浮かべていたんだけど……おそらくリサナ神様がまた下世話な話をしたんだろうってことは想像に難くないので、あえて知らんぷりをすることにした。
◇◇
ラミコのおかげで、程なくして俺達はログインの街へ到着した。
「もうもうもう、ファムさんに水筒を口に入れられてしまったものですから、窒息してしまうかと思ってしまったではありませんか~」
言葉とは裏腹に、にこやかな口調でファムさんの肩をポカポカと叩いているリサナ神様。
まぁ、ワニの頭の被り物を被っているせいで表情がまったくわからないんだけど……
「……あの、リサナ神様……あなた、湖の中で普通に存在していたわけですし、水の中でも呼吸出来るんじゃないんですか?」
「あらぁ? ……あらあらあら、そう言われてみれば、フリフリさんのお言葉の通り、私、水の中でも呼吸が出来るのでございましたわ」
俺の言葉を聞くなり、ファムさんを叩くのを止めて小首をかしげるリサナ神様。
被り物の下では、おそらくバツが悪そうにペロッと舌でも出しながら照れ笑いをしているのかもしれないな。
ラミコが、蛇の下半身を人型に変化させてから、俺達は街の中央広場の方へ向かっていった。
ログイン用の魔法陣の近くでNPCがアイテムを販売しているんだけど、その周囲でならプレイヤーも品物を販売出来るんだよな。
「……しかし」
俺は魔法陣のある広場の周囲を見回した。
魔法陣の周囲には続々とログインしたばかりのプレイヤーキャラが出現していて、そのプレイヤーに向かってたくさんのNPCが、
「ポーションいりませんか?」
「武器はいりませんか?」
そんな声をかけているんだけど……そんなNPCの後方に建物が建ち並んでいて、その店先や店内にも多くのプレイヤーが集まっているのに気がついた。
それらの店先には、
『**の雑貨屋』
『**の武具屋』
といった感じで、キャラの名前のついた看板が掲げられていた。
お店の中だと、立って販売するよりもたくさんの品物を陳列出来るみたいで、訪れているお客のプレイヤーの数も、立って販売しているNPCより相当多い感じだった。
「そうだなぁ……どうせ販売するのなら、いつかはああいったお店を構えて本格的にやりたいよなぁ」
店の建物を眺めながらそんな事を呟いた俺。
すると、そんな俺の元にファムさんが歩み寄ってきた。
「出来ますよ」
「……え?」
「だから、フリフリさんならこの街にお店を持てますよ」
「……え? 本当に?」
「はい。村のレベルが3になっていますし、フリフリさんの内政レベルが30を超えていますので、街にお店を持つための条件をクリアしています」
「そ、そうなんだ!?」
ファムの言葉に、思わず目を丸くする俺。
しかし……村のレベルが3になったのってリザード族のみんなが移住してくれたおかげだし、俺の内政レベルが30を超えているのも、俺がINしていない間にテテをはじめとした村のみんなが頑張ってくれたおかげだし……
「……俺、何にもしていないのに、なんか申し訳ない気がするなぁ」
俺がそんな事を口にすると、俺の前にグリンが歩み寄ってきた。
「そんなことない……フリフリ村長がいなかったらアタシは消えてた……今、こうして頑張れているの、フリフリ村長のおかげ」
「そうなのじゃ! 妾やポロッカが毎日楽しく暮らせておるのも、主殿が妾達を仲間にしてくれたおかげなのじゃ」
グリンに続いて、ラミコも俺に顔を近づけながら力説してくれた。
その後方で、リサナ神様が、
「えぇ、えぇ、えぇ、フリフリさんが頑張ってくれたからこそ、私もこうして外の世界に出ることができたのでございますもの。
フリフリさんがおられませんでしたら、内政イベントの一環だった私のイベントをクリア出来る方なんていなかったと思いますわ。
ですから、フリフリさんは何もしていないわけではありませんわ」
そう言って、大きく頷いた……んだけど、その表紙にワニの頭の被り物が脱げてしまって、
「あらあらあら……」
右手で顔を隠しながら、転がっていく被り物を慌てて追いかけていった……って、相変わらずこの女神様はしまらないんだよなぁ……
でも
「そうだな……みんなにそう言ってもらえて、俺も嬉しいよ」
そう言って俺は笑顔を浮かべた。
ゲームのキャラとはいえ、感謝してもらえているっていうのは、なんか嬉しいもんだなぁ、うん。
そんなわけで……ファムさんに連れられて、俺達は広場の一角へと移動していった。
「ここが街の商店街組合の事務所なんですよ。ここで店を持つ手続きを行うんです」
ファムさんが指さした先には、茶色い煉瓦で作られている2階建ての建物があった。
入り口の上には、
『商店街組合』
って書かれた看板が掲げられていた。
ファムさんを先頭に、建物の中に入っていく俺達。
商店街組合の中にはたくさんのプレイヤーの姿があった。
「ここでは、NPCが販売している商品の情報がリアルタイムで表示されているんです。その情報を求めて多くのプレイヤーが集まっているんですよ」
「商品の情報というと……相場値とか?」
「それもあるんですけど、街の中でどんな品物が販売されているかの情報の方が貴重なんですよ。イベントに登場するレアモンスターを討伐するのに必要なアイテムが販売されているかどうか確認する、というのが一番ポピュラーな利用方法ですね」
あぁ……そういえば、今日から新しいイベントがはじまっていたんだっけ。
ひょっとしたら、今、商店街組合に集まっているプレイヤー達って、攻略に必要なアイテムが売りに出されるのを待っているのかもしれないな。
俺の推測を裏付けるように、建物の中のプレイヤー達は壁に表示されている商品の掲示板をジッと見つめ続けていた。
まぁ、俺はイベントには興味がないし……壁の前に集まっているプレイヤー達をかき分けながら、商店街組合のカウンターへ移動していった。
その時、俺がかき分けてきたばかりのプレイヤー達が一斉に声をあげた。
「お、おい、見ろよ……今、更新されたイベントのランキング……」
「おいおい……エカテリナが、100人近くごぼう抜きにして一気にトップに躍り出たって、まじか……」
「今回のイベントは結構ポイント稼ぐのが難しいって評判なのに……」
プレイヤー達の視線の先には、商品の掲示板の横に表示されている、イベントのランキング掲示板に注がれていた。
……いや……エカテリナがすごいのは知ってたけど……急にどうしたっていうんだろう……まさか、村を出発する前に俺が送った激励のメールが効いているとか……いや、いくらなんでもそんなはずは……
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