こんな駄女神は嫌……なんだけど…… その2

「……しかし……綺麗にくっついたもんだなぁ……」


 俺の家にくっついてしまったリサナ神様の神殿を見上げながら、俺は感心した声をあげていた。

 確かにゲームの中なんだし、プログラムをちょちょいっと操作しただけなんだろうけど……


「いやしかし、見れば見るほど……びっくりだな、こりゃ」


 窓から家の中を覗いてみたら、俺の家のリビングの向こうに、神殿の中が丸見えになってるし……って、おいおい、壁までなくなっているし、ここまで一体化されちまったら、もし神殿の中に礼拝に来る奴がいたらもれなく俺の部屋の中まで丸見えになっちまうじゃないか……とは言うものの……つい先日まで廃村だった村の中に、たった今出来たばかりの神殿に礼拝に来る奴なんているわけがないか……


「……そうだな、まぁ、内部構造のことは後から考えたらいいか……」


 突然広くなってしまったリビングの方を見つめながらそんな事を考えていた俺なんだけど……その時だった。


「ちょ、ちょっと、これって……」

「リサナ神様の神殿ではござらぬか!」

「な、なんと! フリフリ殿の村にはリサナ神様の神殿がござったのか!」


 なんか俺の後方から複数の声が聞こえてきた。

 そのどれも、村では聞いた覚えがない声だったんだけど……声の方へ振り向いた俺は目を丸くした。


 俺の視線の先にはリザート族の人達が立っていた。

 昨日お邪魔していたリザード族の村で見かけた顔が……と言いたかったところなんだけど、全員ワニの頭をしているもんだから、正直まったく区別がつかないわけで……


 昨日ザドラスさんが、メタポンタ村にリザード族の交易所を作るために作業員を派遣するって言っていたし、俺の目の前に現れたリザード族の人達って、その作業員の人達なんだろう。


「遠い道のりご苦労様です。俺が村長の……」


 挨拶をしようと思って、リザード族のみんなの元へ歩み寄っていった俺……なんだけど……リザード族のみんなはというと、俺じゃなくて、俺の後方に出来たばかりのリサナ神様の神殿へ駆け寄っていく。


「あぁ、私達の村では湖の中に祠があるだけだというのに……メタポンタ村ってすごいわ!」


 リザード族の先頭に立っていた女性が、両手を胸の前で組み合わせながら感動した声をあげたと思うと、すごい勢いでリサナ神様の神殿入り口に向かっていった。

 その後をリザード族のみんなが追いかけていって……あっという間にリサナ神様の神殿の中に入っていってしまった。


「って、ちょ、ちょっと待てって! 今、入られたら俺の家の中が丸見えじゃないか!」


 いきなりの出来事に唖然としていた俺なんだけど、慌ててみんなの後を追いかけていった。


 神殿の中に入ったリザード族のみんなは、神殿の奥に設置されているリサナ神様の木製の像の前に跪いて祈りを捧げていたんだけど……いや、ちょっと待ってくれ……何人かのリザード族の人ってワニの頭を体の横に置いてないか?


 俺が目を丸くしていると、そこにファムさんが歩み寄ってきた。


「あぁ、リザード族の中には人族との混血の人もいるんですよ。そういう人は顔も人型になっているものですから、リザード族の村の中ではワニの頭の被り物を被っているんです」

「あ、あぁ……そういうことなんですか……」


 ファムの説明で納得した俺なんだけど……ひょっとしたら、人族との混血の人の方が人族の村での作業に向いているからってんで、今回の作業員に選ばれたのかもしれないな。


 ちなみに……


 いきなり神殿になだれ込んでいったリザード族のみんななんだけど、リサナ神様の木像の前でしばらく祈りを捧げたら、


「いやぁ、まさか私達の村以外で、こうしてお祈りが出来るなんて夢にも思っていなかったよ」

「あぁ、まったくだ」

「これは、交易所を建設する気力が沸いてきますな」


 そんな会話を交わしながら、神殿の外へ出て来た。

 ……隣接している俺の部屋の方に興味を示す人は誰一人としていなかったもんだから、内心で安堵した俺。


「……そうだな、交易所を作成するついでに、神殿と俺の部屋の間に壁を作ってもらえば……」

「あらあらあら、そんなことはお許しいたしませんですわよぉ」


 俺の眼前にいきなり姿を現したリサナ神様が、思いっきり不服そうな声をあげながらにじり寄ってきた。


「い、いや……でもですね……この調子だとリザード族のみんながこれからもお祈りに……」

「とにかく、お許し出来ないことは出来ないのでございますぅ!」


 俺の言葉を一向に聞き入れようとしないリサナ神様なんだけど……壁を作ることを嫌がっている理由って、俺とエカテリナの新婚生活をのぞき見したいからとかいう、昼ドラを見たい的な理由なのは、今までのリサナ神様の言動を見ていれば火を見るよりも明らかなんだけど……壁作りを強行したら、神殿の位置を移動させた魔法みたいなのを使って、壁を無くしてしまいかねないし……この駄女神様のせいで、また新しい頭痛の種が出来てしまったわけで……はぁ。


◇◇


 神殿でのお祈りを済ませたリザード族のみんなは、


「さぁ、みんな! リサナ神様の神殿を作っている村なんだ! 気合いを入れて作業しないとリサナ神様の天罰が下るからね!」

「「「オー!」」」


 リーダーらしい女性の、威勢の良い声を合図に、交易所の作成作業を開始していた。

 そのせいで、リサナ神様が俺と言い合いをしていたのにも気がつかなかったみたいなんだよな。


 ちなみに、俺が神殿を設置した時は一瞬で出来たんだけど、リザード族が交易所を作成する際には、リアル世界で大工の人が家を建てるみたいな作業を行いはじめたんだ。


「神殿の時みたいに、一瞬では出来ないんだなぁ」

「そうなんですよ。そこはプレイヤーキャラで、内政レベルが高いキャラだと一瞬で作成出来るんですけど、NPCや内政レベルが低いプレイヤーキャラだと、あのように一から作業を行うモーションが一定時間発動することになるんです」


 リザード族のみんなの作業を眺めていた俺の横に歩みよってきたファムさんが説明してくれたおかげで、作業の状況の違いに納得出来た。


 リザード族の交易所は、最初に神殿を建てた場所に建設してもらっている。

 ここだと門に近いので、リザード族の村から荷物を運んで来た人達が荷物を運びこみやすくていい場所だった。


「……あくまで結果的にだけど……まぁ、リサナ神様もごくごくたまには良いことをするってことか……」


 そんな事を考えながら、思わず苦笑した俺。


 ……しかし


 交易所を作成しているリザード族のみんなを見ていて、俺は思わず首をひねってしまった。

 なんか……リザード族の人達の体の周囲が気のせいか発光しているような気がしたんだ。

 リーダーらしい女性のステータス画面を確認してみると……


『リザード族の長ザドラスの娘ザミナス 超やる気モード』


 ステータスウインドウの中にそんな文字が浮き出てきた。

 そうか、あの女性ってザドラスの娘さんなんだ……っていうか、名前の後にある『超やる気モード』って文字が発光しているところを見ると、リザード族のみんなの体が発光して見えているのは、みんながこの『超やる気モード』っていうのになっているからなのか……

 その事が気になった俺は、交易所の作成作業の指示を出しているザミナスさんの元へ歩み寄った。


「ザミナスさん、ご苦労様です。皆さんすごいやる気ですね」

「そりゃそうですよ。アタシ達の神であるリサナ神様の神殿を作ってくれている村なんですからね。そんな村と交易が出来るなんて、アタシ達にとっても嬉しいことですもの」


 俺の言葉に、ワニの頭を大きく上下させるザミナスさん。


 ……そうか、リザード族のみんなが超やる気モードになっているのは、俺の村にリサナ神様の神殿があったからなのか……ん? 待てよ……ひょっとして、古村さんがわざわざ俺に会いに来て


『なるはやでINしてください』


 って言ったのって……リザード族のみんなが到着するまでにリサナ神様の神殿を作って、リザード族のみんなを超やる気モードにするためだったんじゃあ……


 古村さんが中の人をしているファムさんへ視線を向けると、そのファムさんは、


『ご名答』

 

 とばかりに、俺に向かって親指をグッと立てながら笑顔を浮かべていた。

 確かに、このペースだと1時間もすれば交易所が出来上がりそうだもんな。

 俺が満足そうに頷きながら交易所の方へ視線を向けていると、


「ねぇねぇねぇ、エカテリナさんがいつお戻りになられるのかしら? 私、早くお2人のあんなことやこんなことやそんなことを拝見させていただきたく思いますのにぃ」


 俺の背後に歩み寄ってきたリサナ神様が、俺の肩を前後に揺さぶりながらそんなことを口にしたんだけど……俺の後方にリサナ神様が現れたことに気がついたザミナス達が、


「り、リサナ神様!?」

「おぉ! リサナ神様だ!」

「リサナ神様!」


 一斉にリサナ神様の前に集まったかと思うと、その場で片膝をついて頭を下げていった。


 そのせいで、交易所の作成作業が完全に中断してしまったわけで……いやほんと、この駄女神様ってば、邪魔にしかなってない気がするんだけど……

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