こんな駄女神は嫌……なんだけど…… その1
慌てて電車を乗り換えて、無事にいつもの駅へと戻ることが出来た俺。
古村さんが降りる駅はもう少し先なので、電車の中で別れたんだけど、
「ホントごめんね、古村さん。いつか埋め合わせするからさ」
そう言った俺に対して、真っ赤な顔をしながら手を振っていた古村さん。
「あはは~、な、なんかもう、十分にごちそう様でしたですってぇ」
なんて事を言っていたんだけど……どこか上の空というか、視線が宙を泳いでいたのが気になったんだけど……無事に戻れたんだろうか……
「とりあえず、メールを送っておくか……」
そう思った俺は、
『さっきは本当にすいませんでした。無事帰れましたか?』
ってメールを送ったところ、送信してから1分も経たないうちに返信が届いた。
『はいはいはい、もうばっちり帰り着いておりますって! 先にINしてお待ちしてます~』
って内容だったんだけど……今時の女性らしく顔文字やハートマークなどが多用されたメールだったもんだから、思わず苦笑してしまった。
なんというか……やっぱり苦手なんだよな、こういったメールって。
以前、部下にもいたんだけど……真面目な打ち合わせをしているメールの中に顔文字を多発してくる部下に、
『こういうのは、真面目な話をしている時は止めたほうがいいぞ』
って注意したら、
『了解しました』
って文書の後に敬礼の顔文字がついてて、なんか、ずっこけてしまったんだよな……
ただ、元部下のケースとは違って、古村さんは空気は読める感じなんだよな。
先日、俺に内政関係で協力を要請してきた時のメールには顔文字や記号は一切入っていなかったしね。
古村さんって、どこか小鳥遊と似た雰囲気があるんだよな。
人と話をするのが苦手というか、他人とどんな距離で接すればいいのかはかりかねているから、わざと過剰におどけている感じがするというか……
「……そうだな、俺が気を使って話しかけてあげないとな」
なんて事を考えながら、家に戻った。
◇◇
んで、今夜は小鳥遊が昼に買ってくれていたおにぎりとサンドイッチの残りで晩飯を済ませた俺。
本当はカップ麺も追加したかったんだけど……古村さんがわざわざ俺に会いに来て
『なるはやでINしてほしい』
って言って来たんだし、小腹が空いたらゲームを終えた後に何か軽く腹に入れればいいだろう。
そんなわけで、早速ヘルメットの機械を被ってログインした俺。
一度、視界がブラックアウトしゲームの名前が大写しに……それから視界がクリアになっていく。
もうすっかり慣れた手順で、俺の視界に天井が広がった。
もちろん、俺の部屋のじゃない。ディルセイバークエストのゲーム内の、俺の家の天井だ。
……さて、古村さんの話だと『メタポンタ村に連れ帰ったリサナ神様の神殿を作る必要がある』って話だったっけ。
頭の中を整理しながら上半身を起こした俺。
「あらあらあら、おはようございます~」
「う、うわぁ!?」
いきなり挨拶をされた俺は、思わず目を丸くした。
いや……挨拶をしてきたのはリサナ神様だったんだけど……びっくりしたのは、ワニの頭の被り物が俺の目の前に出現したからだったわけで……
「っていうか……リサナ神様ってば、なんで俺のベッドの上で正座しているんです?」
……そう……なぜかリサナ神様ってば、俺のすぐ横に正座していて、その姿でログインした俺を出迎えてくれたって言うか……
「あらあらあら、そんなの決まっているではございませんか。フリフリさんとエカテリナさんの夫婦の営みを拝見させて頂こうと思っていたのでございますわ。そう申し上げましたら、エカテリナさんは顔を真っ赤にしながらモンスター討伐に出かけてしまわれてしまったのでございますけれども、フリフリさんがログインされたら、きっとお戻りになられまして、きっとあ~んな事や、こ~んな事を……」
……ワニの被り物の頬を両手で押さえながら、ハァハァと荒い息を繰り返しているリサナ神様……なんというか、ここまで堂々とのぞき見を宣言されてしまうと、むしろ清々しさを感じてしまうというか……この女神さまってばどこまで昼ドラ的展開が好きなんだ……
俺が、そんなリサナ神様を見つめながら唖然としていると、家の中にファムさんが入ってきた。
「あ、フリフリさんおはようございます。早速なのですが、リサナ神様の神殿作りをお願いしてもよろしいですか?」
「あぁ、そうだな……じゃあ、とりあえず外に出るか」
ファムさんの言葉に頷いた俺は、家の外に向かった……んだけど、そんな俺の腕を掴んだリサナ神様ってば、
「あ~ん、もう少しよろしいではないですかぁ。きっともうすぐエカテリナさんもお戻りになるはずですしぃ、私に活力をくださ~い」
って……駄々をこね始めてしまった。
「……なぁ、この人、ホントに女神様なの?」
「えっと……世の中では駄女神様が人気なもんですから、そっち方面でキャラメイクされているもんですから……あはは」
俺の言葉に苦笑しているファムさんなんだけど……いや、いくらなんでも、これは駄女神過ぎだろう……
ファムさんの言葉に、内心でダメ出しをした俺。
とにかく、リサナ神様をどうにか振りほどいて、家の外へと出た。
「で、ファムさん。リサナ神様の神殿を作るといっても、どうやればいいんだ?」
「あ、はい。実はそんなに難しくはないんですよ。木を伐採してきて、神殿を建てる場所を決めて、そこで『リサナ神様の神殿を建設する』っていうコマンドを実施するだけですので」
「へぇ、そうなんだ……」
ファムの説明をふむふむと聞いていた俺。
すると、そこにポロッカとグリンが駆け寄ってきた。
「パパ、木材はポロッカがグリンと一緒に伐採済みベアよ」
「です!」
そう言うと、お馴染みの力こぶのモーションを一緒に実行するポロッカとグリン。
「おぉ、そりゃありがたい。ホントに助かるよ二人とも」
俺は笑顔を浮かべながら、ポロッカとグリンの頭を撫でていった。
すると、そこに今度はラミコがすごい勢いで駆け寄ってきた。
正確には、蛇の下半身をウネウネ動かしながら近づいてきたんだけど、
「二人とも! 妾も伐採を手伝ったのじゃ! 何を二人だけの手柄にしようとしておるのじゃ!」
「え~、だってラミコは『主殿のためにキリキリ働くのじゃ』って言ってただけベア」
「だよ……伐採したのは私とポロッカばっかり」
「じ、実働は頑張ってもらったとはいえ、伐採に適した木を探したのは妾ではないか!」
なんか……急に言い合いを始めてしまった3人なんだけど……
「ラミコも、自分の出来る事を頑張ってくれたんだな、ありがとう」
そう言うと、俺はラミコの頭も撫でてやった。
「あ、主殿にわかってもらえたのなら、それで満足なのじゃ……うん」
俺に頭を撫でられているラミコは、照れ笑いを浮かべながら俺に頭を撫でられ続けていた。
「あらあらあらあら、これってフリフリさんとラミコさんの禁断の主従愛ってやつですかぁ」
そんな俺とラミコを、家の窓から見つめていたリサナ神様が、興味津々といった様子で目を輝かせていたんだけど……
うん、駄女神様……お前、ちょっと黙れ。
◇◇
ポロッカ達が伐採してくれた木材は、家の倉庫に保存してあった。
ポロッカ達の話を聞くと、ファムさんが指示を出してくれていたみたいだった。
んで、リサナ神様の神殿を建てる場所を、仲間キャラ達のまとめ役的な存在になっているテテも交えてあれこれ探していたところ、
「そうですね、門の近くが一番よろしいのではないでしょうか?」
「そうだな。テテの言う通り、ここなら村が一望出来るし、村の外からやってくる人達にもわかりやすいし、いいんじゃないかな」
テテと言葉に頷いた俺。
ファムさんも、その意見に同意してくれたので、
「じゃあ、ここにリサナ神様の神殿を建設するか」
俺がそんな言葉を口にすると、俺の目の前にウインドウが表示された。
そのウインドウの中には、
『ここにリサナ神様の神殿を建設しますか? はい・いいえ』
って文字が浮かんでいた。
「うん、じゃあ……『はい』っと」
俺は、ウインドウの中の『はい』の文字に意識を集中した。
すると、ウインドウが消え、入れ替わるようにして俺達の前が光り輝きはじめ、そこに木造のこじんまりとした教会風の建物が出現した。
おそらく、これが神殿ってことなんだろう。
「……しかし、これだけの作業で出来てしまうなんて、やっぱゲームなんだなぁ」
出来上がった神殿を見上げながら、感心した声をあげる俺。
「そうでもないんですよ。木をかなりの量、伐採する必要がありますから……今回は、ポロッカさんとグリンさん、それにラミコさんが頑張ってくれましたから」
「そうなんだ。みんな、本当にありが……」
改めてポロッカ達にお礼を言おうとした俺なんだけど……そんな俺の前で、出来たばかりの神殿がいきなり輝きはじめた。
「な、なんだぁ!?」
呆気にとられている俺の前で、光り輝き続けていた神殿が姿を消した。
そして……あろうことか、俺の家の真横に改めて出現したんだ。
「……って、俺の家にくっついてないか、あれ?」
俺が目を丸くしていると……そんな俺の視線の先、俺の家の窓から顔を出していたリサナ神様がにっこり微笑んでいた。
「駄目でございますわよ~。私、お気に入りのフリフリさんの側以外に奉られたくありませんの~」
って……お前か……お前が神殿を移動させたのか……
なんていうか……この駄女神様には、まだまだ振り回されそうだ……
リサナ神様の言葉に目を丸くしたまま言葉を失っている、俺・ファムさん・テテ・ポロッカ・グリン・ラミコ一同。
そんな俺達を前にして、嬉しそうに笑い声をあげているリサナ神様を見つめながら、俺は軽いめまいがするのを感じていた。
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