成長と、新人と、相変わらずな、ってなわけで その1

 駅で出くわしたストーカー?的な女性がファムさんの中の人だったことが判明したわけなんだけど……ってことは、ファムさんは、エカテリナが言っていたように運営がテストプレーしているキャラだったってことになるわけで、駅で出くわしたあの女性はディルセイバークエストの運営の人ってことになるわけか……

 なんか……急に話がでっかくなった気がして、思考が若干追いついていないんだけど、


「……まぁ、そんなに深く考えることはないか……俺は、このゲームをのんびり楽しめればそれでいいんだし」


 平日は仕事なんで日中はプレー出来ないし、帰宅した後も寝るまでの間の時間をのんびりゲーム出来れば十分だし……しかし、そう考えると、俺と同じ会社に勤務していて、それでいてモンスター討伐イベントで1位をとってしまうエカテリナって……あいつ、毎日何時間プレーしているんだ? 会社で居眠りをしたり長時間席立ちしたりしている様子はないし……一昔前ならパソコンで仕事をしている振りをしながらゲームで遊んでいるヤツもいたりしたけど……小鳥遊に関しては、そこの線引きはしっかりけじめをつけてくれているみたいなので、詮索するのは野暮ってもんだろう。


 そんな事を考えながら、家の外へ出た俺は、


「……うぉ!?」


 思わずびっくりしてしまった。

 メタポンタ村の中がすっごく様変わりしていたんだ。

 昨日、みんなでバーベキューパーティーをした時は、デフォルトの農家と畑が立ち並んでいるだけって印象だったんだけど……それが、今、俺の目の前には


 壁に農具が並んでいる家

 野菜を干している家

 倉庫が増築された家

 

 とまぁ、デフォルトから明らかに進化した、いかにも農家ですって感じの家が建ち並んでいて、畑の中では村人の仲間キャラ(NPC)達が忙しそうに農作業に精を出していた。

 多分、俺が雇用しているファムさんがみんなを指導してくれたんだろうけど……


「に、しても……1日でこんなに様変わりするとはなぁ」


 こういったあたりは、さすがゲームって事なんだろうけど……でも、成果が短時間で目に見えるっていうのは、なんかいいもんだな。


「パパ、パパ! ちょっと見てほしいものがあるベア」

「うん? 見てほしいもの?」


 村を見回しながら感動していた俺の腕をポロッカが引っ張った。

 ポロッカに連れられて、村のはずれに移動していくと、


「うん? ありゃあ……害獣か?」


 俺の目の前に、罠にかかって身動き出来なくなっている1匹のモンスターの姿が現れた。

 今回のモンスターはでっかい蛇だった。

 村の周囲にしかけている罠にかかって、身動き出来なくなっているみたいなんだけど、そのすぐ近くで、槍を持ったゴブリンのグリンが見張りをしていたんだけど……


「あ、あれ?」


 その姿を見た俺は、思わず目を丸くしてしまった。


 ゴブリンのグリンは女性キャラなんだけど、昨日までのグリンは小鬼の感じがかなり強くてあまり人間キャラという印象がしていなかったんだけど……今、俺の前で槍を構えているグリンは、小鬼というよりも若干萌えキャラな感じが強くなっていて、スタイルもよくなっているような……


「グリン……お前、何かあったのか?」

「……あ、うん。レベルがあがって成長したみたい」


 俺の言葉に、少し恥ずかしそうに応えるグリン。

 グリンのウインドウを確認してみたんだけど……


「モンスター討伐レベルが10になって……種族の表示が『ホブゴブリン』になってるな」


 グリンが言ったように、レベルがあがって存在が進化したってことなのかな……そのおかげで、容姿まで変化したってことなんだろう。

 恥ずかしがり屋なところは相変わらずみたいだけど……


「パパがいない間に、森に採取にいった村のみんな襲おうとしたモンスターを退治してたらグリンちゃんのレベルがあがったベア」

「へぇ、そうなんだ……じゃあ、ポロッカのレベルもあがったのかい?」

「ううん、ポロッカはもう十分強いベア。さらにレベルをあげようと思ったら、こいつみたいな強いモンスターを討伐しないと無理ベアよ」


 そう言って、罠にかかっているでっかい蛇のモンスターを指さすポロッカ。


「というわけでパパ、このモンスター退治しちゃっていいベア?」


 そう言うと、勢いよく両腕をグルグル回しはじめたんだけど……それを受けてでっかい蛇のモンスターは涙目になりながら首を左右に振りはじめた。

 なんとかして動こうとしているものの、罠のせいで尻尾の先くらいしか動かせないみたいだ。


 ……あれ?


 なんか、あの蛇のモンスターってば、俺の方を見つめていないか?

 そんな事を思いながら、でっかい蛇のモンスターを見つめ返していると、


『ポイズンスネークが仲間にしてほしそうに見つめています 仲間にしますか? はい/いいえ』


 ってウインドウがいきなり出現した。


「え? こ、こいつも仲間に出来るのか?」


 ウインドウの文字にびっくりしていた俺なんだけど……そんな俺の前で、でっかい蛇のモンスターの尻尾の先がしゅるしゅるっと伸びてきて、ウインドウの『はい』の部分を自分でポチッと押した……


「……って、うぉい!? 何、自分で勝手に仲間になってんだよ!?」


 思いっきり突っ込みをする俺。

 そんな俺の目の前で、でっかい蛇のモンスターってば、その姿がみるみる小さくなっていき……下半身が蛇で、上半身が女性の姿に変化していった。

 ポロッカが俺の仲間になったときとは別で、さっきまで蛇だったモンスターが、半身半蛇のモンスターに変化したみたいだ。


 ……んで


「は、はやく罠をはずすのじゃ! 妾はもうお主の仲間なのじゃから、相応の待遇を要求するのじゃ!」


 ……なんか、上半身が女……と、いうか、女の子の姿になった元でっかい蛇のモンスターは、相変わらず涙目のままなんだけど、どこか上から目線で罠から解放するよう要求してきていた。

 とりあえず、ウインドウでステータスを確認してみると、


『ポイズンスネーク→ポイズンラミア(発育不良)』


 ……ん? なんだ、このポイズンスネークからポイズンラミアに名前が変更になっているのは?

 俺の仲間になったから種族が変わったってことなのかな?

 グリンも、ゴブリンから成長してホブゴブリンになったわけだし、あながち無きにしも非ずかもしれないな。

 かなり幼く見えるのは、発育不良のせいなのかもしれないな……ってことは子供だから幼く見えるってわけじゃないのかもしれないな……


 俺がそんな事を考えていると、ポイズンスネーク改めポイズンラミアの女の子が、俺に向かって怒気のこもった声を張り上げてきた。


「とっとと解放するのじゃ! うら若いレディをこのような罠で拘束するなど許されないのじゃ! このチビドワーフめが!」


 って……おいおい、このポイズンラミアってば、ずいぶん汚い言葉を使うなぁ……俺は思わず眉をひそめていったんだけど……そんなポイズンラミアの背後に、いつの間にかエカテリナが立っていたんだ。


「……旦那様がINしたから駆けつけてみれば……何、このクソ生意気な生き物は? あ? 私の旦那様に向かって何、罵詈雑言浴びせてるのかしら? ねぇ、知ってる? ラミアって結構高値で売れるのよ……でも、そうね……旦那様に暴言を吐いた罪、万死に値するから、この場で即座に素材に切り分けてもいいわよね、もう決定事項ってことで」


 なんか……目の奥から怪しい光を放ちながら、手に持った解体用のナイフをポイズンラミアの女の子の首筋にあてがっているエカテリナ。

 んで、ポイズンラミアの女の子はというと、


「ひ、ひぃぃぃぃぃぃぃぃ、ごごごごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……」


 さっきまでの威勢の良さはすっかり消え去り、顔面を真っ青にしながら謝罪の言葉を繰り返していたわけで……

 まぁ、もし俺が、今のエカテリナに解体用のナイフを突きつけられていたら、今のポイズンラミアの女の子と同じ行動をとっただろうなぁ……


 そんな事を考えながら、今にもポイズンラミアの女の子を解体してしまいそうなエカテリナを止めにいった俺だった。

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