なんか村長になったらしいんだけど…… その6

「おい、エカテリナ……そう恥ずかしがらなくてもだな……」


 家の中……ベッドの中に潜りこんで丸くなっているえエカテリナに、苦笑しながら声をかけている俺。


「……だって……あんな姿見られたら、もうお嫁にいけない……」


 消え入りそうな声でそう答えるエカテリナなんだけど……


「おいおい、このゲームの中では、お前は俺の奥さんだろう? これ以上お嫁にいく必要はないんじゃないのか?」


 苦笑しながらそう言うと……しばらくして、エカテリナは布団の中からひょこっと顔を出してきた。


「……嫌いにならない?」

「あぁ、ならないって」

「……か、可愛かった? この服……」

「あの服か? ……そうだな、可愛いというより、セクシーだったかな」

「……そ、そう……」


 顔を真っ赤にしながらそう言うと、エカテリナはベッドの上に立ちあがった。

 布団をどかしているので、スケスケな服装のまま俺の前に立っているエカテリナ。


「……か、勘違いしないでよね……これは、旦那様に気に入ってもらいたくてしているんじゃないんだから……」


 相変わらずなツンデレ口調……でも、今は二人きりなもんだからか、少し声のトーンがおとなしめというか……


「あぁ、綺麗だよエカテリナ」


 俺が笑顔でそう言うと……エカテリナは、顔だけじゃなく、上半身まで真っ赤にしていった。

 たしか、このディルセイバークエストって、プレイヤーの感情を肌の色なんかで表現するシステムがあるんだよな……ってことは、俺の言葉でエカテリナが恥ずかしがっているというか……

 そんな俺の前で、エカテリナは、

「ききき綺麗って……き、綺……きれ……きれ……」

 顔を真っ赤にしたまま、譫言のようにそう繰り返した後、……その姿が俺の前から消えていった。


 後には


『エカテリナさんがログアウトしました』


 って文字だけが残っていた。

 

「……エカテリナのやつ……またキャパオーバーしちゃったのか……」


 俺のために、あれこれ考えて実行しているエカテリナなんだけど……正直どこかずれているんだよな。

 ……でも、エカテリナがすべて自分で一生懸命考えて実行していることなんだし、それがわかっているからあまり嫌な感じはしない……むしろ、嬉しく思っているんだよな。


 その後、俺は、


「んじゃ、まぁ、イースさんのウェルカムパーティを兼ねてお祝いするとするか」


 バーベキューパーティーの会場でそう言った。

 イースさんは、


「そんなに気を使って頂かなくても……私がお世話になるんですから……」


 そういって、恐縮しきりだっただけど、ポロッカとグリンが


「イース、パパの村へようこそベア!」

「ようこそ!」


 笑顔でそう言いながら、バンザイすると、


「イースさんいらっしゃい!」

「イースさんようこそ!」


 仲間キャラのみんなも口々にそう言いながら、バンザイしはじめた。

 そんなみんなに囲まれたイースさん……


「そ、そうですね……こんなに歓迎されてはお断り出来ないといいますか……」


 恥ずかしそうに笑いながら、手に持っていたグラスを掲げ、


「皆様、これからよろしくお願いいたします」


 そう言い、頭を下げていった。

 このあたりは、礼儀正しい東雲さんの真骨頂というか、相手を不快にさせないための対処法が自然と身についている感じだ。


 そんなわけで、みんなでイースさんを歓迎しようとしいていると、


 バン!


 家のドアがすごい勢いで開け放たれて、再びエカテリナが早足で出てきた。


「あれ? エカテリナ……お前、さっきログアウトしたばかりだから、しばらくログイン出来ないんじゃあ……」

 そうなんだ……このゲームは戦闘中に負けそうになると、わざとログアウトして死亡ペナルティ逃れをする人が続出した対策として、短時間の間にログアウトを繰り返すと、30分ログイン出来なくなるはずなんだ。

 そんな俺の前で、エカテリナってば、

「か、勘違いしないでよね! 旦那様に早く会いたくなったから課金してログイン待機時間を短縮したんじゃないんだから!」


  って……おいおい、そんな事のために課金しなくても……

 そんなことを思っていると……


 パンパカパ~ン!


 いきなり、エカテリナの周囲にファンファーレが鳴り響いた。

 同時に、紙吹雪が舞いはじめている。


「な、なんだぁ!?」


 俺が目を丸くしていると……エカテリナの頭上に、


『『魔竜の谷の大討伐戦』イベントが終了しました

 ランキング1位おめでとうございます』


 って文字が躍っていた。


「あぁ、イベントが終了したんですね」

「イベントって、エカテリナの頭上に書かれている、魔竜の谷の大討伐戦です?」

「えぇ、ちょうど今、イベントが終了して、エカテリナさんが1位だったんですよ。イベントが終了すると、ランキング上位者の回りではあんな風にファンファーレが鳴ってお祝いされる仕組みになっているんです」


 イースさんの説明を聞いていると、そんなエカテリナの周囲に、まずポロッカとグリンが駆け寄っていき、


「ママ、1位おめでとうだベア!」

「おめでとう!」


 バンザイしながら、何度もお祝いの言葉を口にしていった。

 その後に、仲間キャラのみんなも駆け寄っていき、


「エカテリナさんおめでとう!」

「1位おめでとう!」

「さすがエカテリナさん!」


 口々にそんなことを言いながら、ポロッカとグリンと同じようにバンザイしはじめたんだ。


「イベントの上位入賞者の近くにいるNPCは、ああやってお祝いしてくれるんですよ」

「へぇ、そんなサプライズもあるんだ」


 イースさんの説明に頷いていると……その言葉を聞いたファムさんが、食べていた肉串を片付けながら、慌てながらエカテリナの側へ駆け寄っていき、


「エカテリナさんおめでとう!」


 って言いながら、他の仲間キャラ達と同じように飛び跳ねはじめた。

 ……っていうか、イースさんの言葉を聞いて慌ててNPCらしい行動を取ったように見えなくもなかったんだけど……まぁ、今はエカテリナをお祝いしてくれてるんだし、深く追求しないでおこうか。


 そんなファムさん達に囲まれているエカテリナは、


「ま、まぁ、これくらい、私にかかれば当然の結果じゃない……でも、ありがと……」


 相変わらずの言動をしながら、頬を赤く染めていた。

 

「いつもはお祝いされるのが恥ずかしいから、イベント終了と同時にログアウトしてたのに……」


 そう言うと、エカテリナは俺を睨み付けてきた。


「それもこれも、全部旦那様のせいなんだからね! この責任、一生かけて償ってもらうんだから!」


 そう言うと、俺を右手の人指し指でビシッと指さしてくるエカテリナ。


「償うも何も、夫婦なんだから一生一緒じゃないのか?」


 ゲームの中とはいえ、俺とエカテリナが夫婦なのは事実だしな……まぁ、自分で言っておいてなんなんだけど……ゲームの中の結婚をそんなに重く捉えるのも如何な物かと思ってしまったんだけど、その言葉を聞いたエカテリナは、


「わ……わかってればいいのよ、わかってれば……その……ふつつか者ですが末永くよろしくされてあげてもいいんだからね!」


 顔を真っ赤にしながらそう言うと、ふいっとそっぽを向いていくエカテリナ。

 その周囲では、相変わらず仲間キャラのみんながお祝いの言葉を口にしながらバンザイし続けていた。


 その光景を、俺は笑顔で見つめていた。


◇◇


 楽しい時間ってのはあっという間に過ぎてしまうわけで……


 俺の週末はディルセイバークエストで遊んでいるうちに終わってしまった。

 危うく、クリーニングを回収し忘れるところだったけど、どうにか閉店ギリギリで思い出すことが出来、そのおかげで、週明けの今日、ピシッとしたシャツと背広で通勤電車に乗ることが出来ているわけだ。


「そういえば……出勤前のディルセイバークエストのサイトをチェックしたら、今日は臨時アップデートがあるって書いてあったっけ」


 詳しい内容は書かれていなかったんだけど……どんなアップデートが実施されるのか、ちょっとワクワクしている俺……まさか、この年になってゲームのことで一喜一憂することになるとはなぁ……

 まぁ、でも、おそらくは新しい討伐イベントなんだろうから、俺には関係なさそうだけど、それでもエカテリナのお祝いを出来るかもって思うと、なんか自分の事のように嬉しくなってしまうんだよな。


 そんな事を考えながら苦笑していると、そんな俺のことをチラチラ見ている女性がいることに気がついた。

 その女性……ひょろっと背が高くて、眼鏡をかけているんだけど……やたらと胸だけ大きいというか……


 ……あれ? あの人、どこかで見たことがあるような……

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