なんか村長になったらしいんだけど…… その5
「ば、バーベキューですか? えっと……NPCのみんなとですか?」
俺の言葉を聞いたファムさんは、なんか不思議そうな表情を浮かべながら首をひねっていた。
「えぇ、そうですけど?」
「あの……こういってはなんですが、プレイヤー同士で強敵を倒した際や、イベントが終了した後にプレイヤー同士で集まって打ち上げをすることはありますけれども、NPCである仲間キャラと一緒にバーベキューをするという話は聞いたことがないといいますか……行ったとしても、特に恩恵があるわけでもないというか……若干やる気ゲージがアップして、作業効率がアップはしますけれども……その、はっきり申し上げまして無駄な行為なのではないかと……」
「うん、確かにそうかもしれないけどさ……」
ファムさんに向って、俺は笑顔を浮かべた。
「無駄でいいんじゃない?」
「はい?」
「例え無駄でもさ、俺がやりたいからやる、みんなと一緒にワイワイしたい……それでいいじゃないか」
そう言うと、俺は大きく頷いた。
……まぁ、あれだ。人間ってのは不思議なものでさ……無駄だとわかっていてもやりたくなる時があるんだよ。そりゃあ、モンスター討伐を効率的に行って、一切の無駄なく討伐完了しちゃうってのもすごいと思うよ。でもさ、こうしてゲームをしている時点で、人生の中では無駄な時間を過ごしているって言えないかな? だったら、とことん無駄を楽しむのも、ありなんじゃないかと思ったりしたわけなんだ。
ま、これは全部後付けの理由だけどね。
頑張ってくれているみんなを慰労したい。
そう思ったから、そうしようと思ったのが最初だ。
「無駄を楽しむ……ですか……うん、そうですね……」
しばらく考え込んでいたファムさんも、大きく頷いた。
「確かに、フリフリさんのご意見にも一理ありますね、はい。正直、ハッとさせられた気がします」
「そんなに大した考えじゃないっていうかさ、まぁ、VRMMOがよくわかってない俺が、好き勝手に楽しもうとしてるだけなんだからさ」
「いえいえ、とても参考になります」
そんな会話を交わしながら、俺とファムさんは村長である俺の家の前でバーベキューの準備をはじめていった。
とはいえ、ゲームのアイテムにバーベキュー用の道具がなかったもんだから、
「そうですね、たき火は野営行為として行えますので、切り分けた肉を直接火で炙りますか」
「そうだな、それで行くか……となると、野菜も串に刺しちまおう」
「パパ、ポロッカも手伝うベアよ!」
俺とファムが作業をしていると、ポロッカが笑顔で駆け寄ってきた。
「そうだな、じゃあポロッカは肉を持って来てくれ」
「わかったベアよ!」
俺の指示を聞いたポロッカは、笑顔で倉庫に向かって駆け出した。
本当は酒も欲しいとこなんだけど……急に思いたったもんだから準備出来てないんだよね。
そんな事を考えていると……
「ん?」
ポロッカが立ち去った場所にグリンが立っているのに気がついた。
「どうしたグリン?」
「あの……私も、手伝いたい……」
引っ込み思案ゆえか、どこかオドオドしながらもそう言ったグリン。
「そうだな……じゃあ、グリンは村のみんなをここに呼んで来てくれるかい? 出来る?」
「う、うん、わかった」
俺の言葉に、気合いの入った表情で頷いたグリン。
俺にお仕事を任されたのが嬉しいのかな、スキップしながら走っていっている。
グリンと入れ替わるようにして、ポロッカが肉を持ってきてくれた。
「パパ! 持って来たベア!」
でっかい肉の塊を両手で持ち上げているポロッカ。
「よし、んじゃ、いっちょやるか」
と、気合いを入れた俺。
こう見えても、肉の解体作業はちょっと得意なんだよな。昔、爺さんと一緒に猪を解体したりしてたからさ。
でもって、気合い満々だったんだけど……俺が包丁を持って肉の前に立つと、
『解体しますか? はい/いいえ』
ってウインドウが表示されて、『はい』を選択すると、肉の塊が一瞬にして切り分けられてしまった。
「確かに便利なんだけど……なんか味気ないよなぁ……やっぱ、せっかくモンスター討伐出来るんだから、肉をさばくのももう少しリアルにやりたいっていうか」
肩すかしをくらって不満な事この上ない俺だったんだけど、そんな事を考えているとグリンが呼んでくれた村のみんなが続々と集まってきたもんだから、
「おっと、早く肉と野菜を串に刺さないと……」
俺は、慌てて準備を進めていった。
肉や野菜を串に刺すのはリアルに作業出来た。
んで、村のみんなも、
「フリフリ村長、僕も手伝います」
「私もお手伝いしますわ」
口々にそう言いながら、俺の周囲に集まってきてくれた。
んで、出来上がった串を、手が空いている村人達で、火にかざして焼いてもらっていったんだけど……
ジュワ~
って、肉の焼けるいい音とともに、香ばしい匂いが漂ってきたもんだから、思わず涎が出そうになってしまった。
「こういったところはすごいよな……本当に料理しているみたいに感じることが出来るんだから」
「えぇ、モンスター討伐で遠征したプレイヤーが空腹や疲労状態を解消するために、狩ったモンスターを調理するモーションなどが実装されていますので」
俺の手伝いをしながら、丁寧に説明してくれるファムさんなんだけど……なんていうか、モーションとか実装とか言われちゃうと、ちょっとがっかりしちゃうっていうか……まぁ、ファムさんが言っていることは事実なんだけどさ。
「とにかく、みんなお疲れさん。これを食って、また頑張ってくれよな」
「「「おー!」」」
俺の言葉に、仲間キャラのみんなは一斉に腕を挙げ、歓声をあげていった。
腕をあげる仕草がみんな一緒だったのはご愛敬だけど……でも、ゲームの中のNPCとはいえ、みんなと一緒に楽しい時間を過ごすっていうのも、なんかいいもんだなぁ。
俺がそんな事を考えていると、
「あれ? 何をなさっているのですか?」
そう言いながら顔を出したのは、荷物を取りに行っていたイースさんだった。
「あぁ、イースさん、ちょうどいいところに。みんなで慰労会を兼ねたバーベキューをはじめたとこなんですよ。よかったらご一緒しませんか?」
「え、えぇ!? ば、バーベキューですか?」
「まぁ、ゲームにバーベキューの道具などが実装されていないので、たき火で焼いた肉をみんなで食べてるだけなんですけどね」
苦笑している俺。
そんな俺の前に立っているイースさんに、仲間キャラの一人が、
「さぁ、焼けましたよ」
そう言って、肉串をイースさんに差し出した。
イースさんは、最初戸惑っていたようなんだけど、
「……そうですね、せっかくですし、楽しまないと損ですね。じゃあ、私はお酒を提供しましょうか」
笑顔で肉串を手に取り、自分の収納スペースの中から酒樽を取りだしたイースさん。
「うぉ! こりゃありがたい。酒がなかったんで、正直あきらめていたんですよね」
俺はイースさんにお礼を言うと、酒樽とセットになっていたジョッキに酒を注ぎ、それをみんなに回していった。
「あら、NPCのみんなにも……ですか?」
「えぇ、こういうのはプレイヤーもNPCも無関係でいいじゃないですか。楽しいのが一番ですって」
俺が笑顔でそう言うと、イースさんも、
「そうですね……確かに、その方が楽しいかも」
笑顔を浮かべながら、ジョッキをみんなに手渡すのを手伝ってくれた。
「フィールドでプレイヤーの体力を回復させるために調理したことはありましたけど……こうしてNPCのみんなと一緒に慰労会を行うという発想がなかったです……」
「まぁ、なんていうか、俺がやりたかっただけなんですけどね」
俺が苦笑していると、イースさんはそんな俺を見つめながら笑顔を浮かべていた。
「いえ……たかがゲームですけど、されどゲーム、ですね」
「そう言ってもらえると、なんか嬉しいです、はい」
気がつくと、俺達の周囲では、NPCのみんなが楽しそうに酒を飲み、肉串を食べていた。
決まった動作しか出来ないせいか、動作がどこかぎこちない気がしないでもないけど、みんなの笑顔と歓声のおかげで、それもあまり気にならない感じだ。
「いつもそうですね、フリフリさんは……自分のことよりみんなの事を考えて行動されていて……」
「おっと……それはフリフリの中の人のことじゃないのかな?」
「あ、そ、そうでしたね。申し訳ありません」
俺の言葉に、慌てた様子で頭をさげていくイースさん。
なんか、イースさんも自然な笑顔を浮かべているし……そんな笑顔を見ていると、バーベキューをしてよかったな、と思っていたんだけど……
バタン!
俺の家の扉が勢いよく開け放たれたかと思うと、そこからエカテリナが駆け出してきた。
どうやら、再ログインしたみたいだな。
「旦那様! さっきは予想外の攻撃をくらって思わずログアウトしてしまいましたけど、今度はそうはいきませんからね! べ、別に、もっとイチャイチャしたいとか、そういうんじゃないんだから、勘違いしないでよね!」
相変わらずのツンデレ口調で、俺に向かって駆けてくるエカテリナなんだが……その服装が……
なんか、スケスケで布地面積がすっごく薄い衣装を身につけているエカテリナ。
「お、おいおいエカテリナ、そんな格好でみんなの前に出て来て……」
「みんなって……どうせみんな農作業をしているのでしょう? すぐにベッドに戻れば……って……え?」
そこまで言ったところで……エカテリナは、俺の周囲に村のみんなが集合していることに気がついたらしい。
みんなの視線を一身に浴びていることに気がついたエカテリナは、顔を真っ赤にしながら、両手で胸と股間を隠すと、
「ななななんでみんな集まっているのよおおおおおおおおお!? ここここの衣装は旦那様に楽しんでもらうために気合いを入れて購入した『魅惑のネグリジェ』なんだからね! アンタ達に見せるために着たんじゃないんだからね!」
なんか……支離滅裂な言葉を口にしながら、家の中に駆け戻っていくエカテリナ。
なんというか……手のかかる嫁さんだなぁ、ホント。
俺は苦笑しながら、焼き上がった肉串をエカテリナに手渡すために、家に向かって歩いていった。
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