今日は朝からログインしたんだけど その3

 エカテリナがすごい勢いで間に収穫してくれた薬草を使って、早速ポーションの調合してみることにした。


「とりあえず、調合道具と薬草を使って……」


 持ち物リストの中の『調合道具』と『薬草』をチェックしたら、新しいウインドウが表示された。

 この後どうしたらいいんだ? って疑問に思っていたら、


『回復ポーションを調合しますか? はい/いいえ』


 って表示が浮き上がってきた。

 なんていうか……やっぱここはゲームの世界なんだな、って実感してしまう。


 で、まぁ、ここは当然『はい』を選択だよな。

 俺が『はい』を選択すると、ウインドウがぱぁっと光り輝いた。

 で、調合するかどうか聞いてきたウインドウが消えて、新しいウインドウが表示された。


『回復ポーションの調合に失敗しました 薬草は消滅しました』


「……は?」


 そのウイドウの文字を見た俺は思わず目が点になった。

 次の瞬間、俺の調合の様子を後ろで見守っていたエカテリナが、ファムの首根っこを掴んでガクガク揺さぶりはじめた。


「ちょっとファム! あんた、私のだん……じゃなくて、フリフリに粗悪な調合道具を掴ませたんじゃないでしょうね!」

「ちちちちがいますぅ……ちょちょちょ調合の成功確率は100%じゃないんですよぉ」

「こんなことなら、私が町でSSS級の調合セットを購入してくるんだったわ!」

「ああああの、お言葉ですけど、調合セットにSSS級は実装されていなくてですね……」

「きー! もう、使えないわねあなたってば!」

「そそそ、それは私のせいではなくてですねぇ……あばばばば」


 なんかもう、理不尽この上ない切れ方をしているエカテリナを、どうにかなだめる俺。

 しかし、会社ではいつも猫背で、小声で最小限しか会話が出来ない小鳥遊が、ゲームの中ではこんなに活き活きとしているんだなぁ、って、なんか妙な感動を覚えてしまった。


 ……っていうか……そうか……調合ってのは絶対に成功するわけじゃないのか……

 調合に関する詳しい情報はイースさんの攻略サイトにも載ってなかったし……これはある意味貴重な情報をゲット出来たってことなのかもしれないな。


 そんな事を考えながらも、どうにかエカテリナをファムさんから引き剥がし、落ち着かせることに成功した俺。


「ちなみにファムさん、調合の成功確率を教えてもらうわけにはいかないんですかね?」

「あ~……っとぉ……それは禁則事項になっておりましてぇ」


 俺の質問に、アハハと笑いながら答えるファムさん。

 すると、すかさずエカテリナがファムさんの首根っこを再度引っつかんで前後に振り回しはじめた。


「あんたねぇ、私の旦な……じゃなくって、フリフリのお願いが聞けないっていうの! どうせ知ってるんでしょ! ちゃちゃっと教えなさいよね!」


 ……って、おいおいエカテリナ……そんなことをしてもだな、さすがに教えてもらえるはずが……


「わわわわかりましたわかりました教えます教えますから……」

「……って、え? お、教えてもらえるの!?」


 降参とばかりにバンザイしているファムさんを見つめながら唖然としている俺。

 そんな俺の前で、エカテリナは、


「ふん、最初からそう言えばいいのよ」


 って言いながら、なんかドヤ顔してるんだけど……っていうか、さっきもう言っちゃったんだから大人しく『旦那様』って言えばいいんじゃないかって思うんだけどなぁ……俺も悪い気はしないし……


「……そ、そこまで言うのなら善処してもいいけど……」

「え? あ、俺、言葉に出して言ってた?」

「ででででもね、誤解しないでよね! ああああなたがどうしてもそう呼んで欲しいって懇願するから!あくまでも!仕方なく!妥協して!可愛そうだから!」

「い、いや、あの……そこまでじゃあ……」

「とにかく!そういう訳だから、今日からあなたの事を旦那様って呼んであげるんだからね! 実はリアルで一度も彼氏なんか出来たことがないもんだから、好きな人が出来たら、いつかはそう呼びたいって、ずっと夢見ていたなんてことは全然ないんだからね!」

「……あ、あぁ……はい……」


 腕組してそっぽを向いているエカテリナ……ただ、その顔は見事に真っ赤になっているわけで……あぁ、このゲームの世界では照れると顔が赤くなるギミックも搭載されているんだなぁ、って、妙な感心をしつつ……なんつうか、ツンデレってのもここまでくるとなんか芸風みたいだよな、なんて考えていたりして……


 ……んで、改めてファムさんへ向き直る俺。

 そんな俺の前で、ファムさんは一度咳払いをすると、改めて俺へ向き直った。


「薬草をポーションの調合の成功確率は、使用する薬草の種類によって変化するんです。

 薬草<ノーマル>を使用すればポーション<初級>が調合出来ますが、この際の成功確率は90%です。

 薬草<レア>を使用すればポーション<中級>が調合出来ますが、この際の成功確率は50%になります。

 あと、ごく希にですが突然変異が発生する場合もあるのですが、これによって精製されるポーションはとても貴重といいますか……すいません、これはエカテリナさんにいくら脅されてもお教え出来ないんです。ホント、許してください」


 ファムさんの首に手を伸ばしかけていたエカテリナに対して、先手を打って頭を下げながら謝罪しているファムさん。


「も、もう……先に謝罪されたら無理矢理聞き出せないじゃない……」


 エカテリナも、渋々ながら手を引っ込めている。

 その時、俺の方を申し訳なさそうに見つめていた気がするんだけど……なんていうか、エカテリナってば、俺の前だから張り切って俺の役に立とうとしてくれてるのかもしれないな。

 よく考えたら、いつもはプレー時間やプレースタイルがなかなか合わなくて、こうして同じ時間に同じ場所でプレーするのって、はじめてな気がするし、だから余計に張り切っているのかも……


「エカテリナ、その気持ちだけで嬉しいよ、ホントありがとね」


 お礼を言った俺。

 そんな俺の前で、エカテリナはモジモジしながら体をくねらせはじめた。


「そそそ、そんな、お礼を言ってほしくて頑張ってるんじゃないんだからね……もぅ……そんなこと言われたら、もっと頑張りたくなっちゃうじゃない……」


 なんか……俺的にはすごく頼もしい一言なんだけど……俺の前に立っているファムさんは真っ青になって苦笑していて……うん、やっぱりこれって普通のNPCの反応じゃないよな……


 ◇◇


 んで……それからの俺は、エカテリナが収穫してくれた薬草を全部使ってポーションの精製を繰り返していった。

 調査スキルを駆使すると、薬草のレベルまで確認することが出来たんだけど、


 レアが10本

 Sレアが2本

 SSSレアが1本

 これ以外はすべてノーマルだった。


 残念ながら突然変異は発生しなかったんだけど、


 ポーション<初級>が81本

 ポーション<中級>が5本


 ちなみにポーション<初級>は5G、<中級>は10Gで街のNPCから購入出来るので、俺が販売するとなるとこの値段が基準になるわけなんだけど……全部売っても455Gにしかならないわけだ。

 ノーマルランクのモンスターを1頭狩れば平均で1000Gがドロップアイテムとして入手出来て、さらに死骸を冒険者組合に販売出来るのでプラスアルファの収入も期待出来るところを考えると、やはり割はよくない気がするな。


「……薬草は森で無料で入手出来るとはいえ、もっと畑を広げないと駄目ってことか……」


 しかし、畑を新たに購入するとなると金が必要になるはずだよな……今俺が所有している畑は、ファムさんがタダでくれたけど、これはあくまでファムさんを仲間にしたボーナスなんだし……

 俺がそんな思考を巡らせていると、エカテリナがファムさんの肩を叩いた。


「ねぇ、ファム、ちょっと確認したいんだけど」

「はい、なんでしょう?」

「このメタポンタ村って、だ……旦那様……以外にプレイヤーは居住しているの?」

「いえ、今現在、農家の所有権を保有しているプレイヤーは一人もいません」


 このメタポンタ村に限らず、ディルセイバークエストの世界では、拠点を入手しても一定期間以上ログインしなかったり、拠点を利用しなかったりすると強制的に所有権が剥奪されて空屋扱いになるんだっけ。

 実際、俺が拠点として使用しているこの農家も、元は他のプレイヤーの持ち物だったんだよな。

 そんな事を思い出していた俺の前で、エカテリナはファムと会話しながら、自分のウインドウを開いて何やら作業を行っていたんだけど……そのうち、ファムさんがにっこり笑みを浮かべて、


「……では、これでメタポンタ村の中にあります全ての農家はエカテリナさんとフリフリさんのものになりました」

 

 俺とエカテリナを交互に見つめながら頭を下げてきた。


 ……って


「……え? え? ファムさん……今、なんて言いました?」

「はい? ですから、メタポンタ村の中にあります全ての農家がエカテリナさんとフリフリさんのものになりました、と……」

「そうよ、今、この村に存在している農家をすべて買い取ったのよ。べべべ別にだだだ……旦那……様……の、農作業がやりやすくなるように、なんて思っていないっていうか、ただの気まぐれっていうか、内助の功っていうか……なんだからね!」


 相変わらずツンデレな発言をしながらそっぽを向いているエカテリナ。

 俺はファムさんへ視線を向けた。


「ファムさん……ちなみに、この村って、農家が何戸くらいあったんです?」

「はい、全部で20戸です。そのうちの1つがフリフリさんとエカテリナさんの農家になります」

「……ちなみに、1戸っていかほど……」

「そそそそんなこと聞かなくていいから!」


 エカテリナが慌ててファムさんの口を塞ぎに来たんだけど、


「ポロッカ、ちょっとママと全力でじゃれ合って!」

「わかったベア! ママぁ! ポロッカとじゃれ合うベア!」


 俺の命令を聞いたポロッカは、エカテリナに抱きつくと、そのまま床の上をゴロゴロしはじめた。


「や!? ちょ!? い、いきなり何をするのよ! この……」

「ママぁ じゃれ合おうベア~」

「ももももう……モフモフな体で抱きつきながら、そんな可愛い声を出されたら……こここ断れないじゃないの……」


 ポロッカのモフモフ攻撃の前にとろけた笑顔を浮かべているエカテリナ。

 うん……咄嗟に思いついた作戦だったけど……これは使えるな……


 んで、その隙にファムさんから一戸あたりの農家の値段をお聞きしたところ……一戸あたりだいたい1000万G……つまり、19戸買い占めたってことは1億9千万G……


「毎日SSS級モンスターを狩りまくっているエカテリナさんだからこそ出せる金額ですけどね」


 にっこり微笑むファムさん。

 いや……俺の内政プレイのためにエカテリナが気を利かせてくれたわけだし、出来上がった薬草なんかを地道に販売して返そうと思ったんだけど……こりゃとてもじゃないけど返しきれないというか……



  

 

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