今日は朝からログインしたんだけど その4

「とりあえず、今日作成したポーションを街へ売りに行ってみるか」

 

 俺の提案で、これから全員で街へ向かうことになった。

 エカテリナからプレゼントされた転移石でちゃちゃっと移動してしまおうと思ったんだけど、


「その転移石は一度に一人しか転移させられないわ」


 エカテリナにそう教えられたもんだから、今日のところはみんなで街道を歩いて街へ向かうことにした。

 生成したばかりのポーション<初級>81本とポーション<中級>5本をカゴに収納して、それを背負って街道を歩いていく俺。


「エカテリナ、無理にポーション販売に付き合わなくてもいいんだぞ。せっかくログインしたんだからモンスター狩りに行きたいんじゃないか?」


 俺の横にぴったり寄り添って歩いているエカテリナに、そう言ったところ、


「何、気を使ってるのよ。あ、アタシは……ま、毎日飽きるくらいモンスターを狩ってるから、たまにはこんなプレーもいいかなって思って付き合ってあげているだけであって、別に旦那様といちゃいちゃしながらお散歩プレーしたいなんて思っていないんだからね!」


 腕組みしながらそっぽを向いていくエカテリナ。

 それでいて、俺との距離を更に縮めているあたり……なんか、すっごいツンデレだよなぁ……

 今時、こんなわかりやすいツンデレっているんだなぁ……なんて事を考えながら、苦笑してしまう俺。


「……しかし、あれだなぁ……せっかく売りに行っても、NPCが安く売っているとなると、売上はあんまり期待出来そうにないか……ま、今日のところは様子見を兼ねてるわけだし、売上に関しては気にしないことにするつもりだけど……」


 口ではそう言っているものの……やっぱり自分の力で生成したポーションなわけだし、多少安くしてでも完売させたいなぁ、と、思ってしまうわけで……


 俺・エカテリナ・ポロッカ・ファムさんの三人と一匹で街道を移動していた俺達は、ほどなくして見慣れた街へと到着した。

 そう、普通にログインしたら最初に出現する、あの街だ。


 街の中央に設けられているログイン用の魔法陣からは、次々とログインしたばかりのプレイヤーが出現している。

 んで、出現したプレイヤーの多くは、すぐ近くに設置されている依頼掲示板の前に移動していって、掲示されている依頼内容を確認していた。


「……とはいえ、あの掲示板に掲載されている依頼って、ほとんど全部モンスター討伐系だったんだよなぁ」

 

 先日の事を思い出した俺は、ログイン用の魔法陣の近くへと移動していった。

 そこには、結構な数のNPCが立っている。

 そいつらの大半は道具屋で、ログインしてすぐのプレイヤー達に向かって、


「ポーションあります」

「ポーション売ります」


 そんな声を上げながら、右手を挙げる動作を繰り返している。

 その動作が、物売りをしているNPCの固定動作ってことなんだろう。

 

 そんなNPC達と少し離れた場所に立った俺は、


「内政プレーで作成したポーションなんだけど、よかったら買ってくれないか?」


 そう、声を上げていった。


◇◇


 そうこうするうちに、10分少々時間が経過した。


「……うん、まぁ、こうなるか」


 俺が背負っている籠のリストの中には、


 ポーション<初級>が81本


 って表示されている。

 幸い、中級ポーションはNPCの売値より1G安くしたこともあってすぐに全部売り切れたんだけど……初級ポーションは見向きもされない。


「NPCの売値の半値にしても、問い合わせすらなし、か」


 思わずため息をつく俺。


「……そうなのよねぇ……ポーションは最低でも中級でないと役に立たないから、初級なんてまず購入するプレイヤーなんていないのよ」

「そうなんだ?」

「モンスターを狩ってる最中にポーションを飲むとすると、飲む動作を行っている間は無防備になってしまうわけ。で、初級ポーションは一度に回復出来るHP量が少ないから、体力を安全圏まで回復させようと思ったら何本も飲まないといけないわけ」

「あぁ、そっか……モンスターの前で繰り返しそんな動作を行っていたら……モンスターに『どうぞ攻撃してください』って言ってるようなもんだもんな」

「それに、プレイヤーが一度に所持出来るアイテムの数も限られているから、みんな少しでも持ち物を減らしておきたいって思うわけ」

 

 エカテリナの説明のおかげで、初級ポーションが何故売れないかの理由はわかった気がする。

 まぁ、今日のところはあくまでも様子見のつもりだったわけだから、そのことがわかっただけでもよしとしよう……


 そう思った俺なんだけど……まてよ……エカテリナの奴、その事を知っていたのに、なんで俺が街へ初級のポーションを売りに行くのを止めなかったんだ? ここまでポーション事情を知り尽くしているのなら、エカテリナの性格なら先に止めてくれる気が……


 俺がそんなことを考えながら首をひねっていると、


「わかった? これ以上初級ポーションを売ってても、誰も買わないわ……だから、私が全部買ってあげるから感謝なさい」

「え? エカテリナが?」

「べ、別に、旦那様がはじめて作ったポーションだし、記念に買っておいてあげようなんて思ったんじゃないんだからね!」

 

 そう言うと、俺のカゴの商品リストから直接初級ポーションを自分の持ち物へ移動させたエカテリナ。

 同時に俺の所持金も増えていた。


 って、いうか……エカテリナが、俺が初級ポーションを売りに行くのを止めなかったのは、これが理由だったのか……つまり、最初から売れ残った商品を全部購入してくれるつもりだったっていう……なんだろう……エカテリナが気を使って残り物を全部購入してくれただけなんだけど……でも、このゲームの中ではじめて作成したポーションが売り切れたもんだから、なんかすっごく嬉しいというか……思わず小躍りしてしまいそうになっていた俺なんだけど……

「ありがとな、エカテリナ」

「べ、別に旦那様のためじゃないのよ。あくまでも気まぐれよ、記念よ、夫婦の共同作業よ」

 そっぽを向いてあれこれ言葉を発しているエカテリナなんだけど、その顔が耳まで赤くなっているので、その真意はバレバレというか……ははは。


「……ん?」


 その時、俺はあることに気がついた。

 NPCの一人に、自分が連れているキャラを渡しているプレイヤーがいたんだ。

 連れているキャラもNPCみたいなんだけど……NPCに引き渡されているNPC達は、気のせいかみんな暗い顔をしているような気がする……


「あれは、何をしているんだい?」

「あれ? あぁ、あれはガチャの外れを処分しているのよ」

「ガチャの外れ?」

「課金ガチャにはね、「装備ガチャ」と「仲間ガチャ」の二種類が常設されているの。イベントに合わせて様々なガチャが追加されるのがディルセイバークエストの特徴なんだけど。その仲間ガチャを回すと、一度に1000個の荷物を預けることが出来る荷物持ちや、高速でマップ上を移動出来る馬を仲間にすることが出来たりするの……でもね、はずれとして準備されているのが、あそこでNPCに売り渡されて処分されている通称「村人A」なのよ。NPCごとにランダムで名前が設定されているんだけど、あの外れキャラ達は荷物もほとんど持てないし、一緒にいたら荷物扱いになって所持品の枠を1つ使用されちゃうから全然いいことが無いの。だから、所持品枠を浪費しないために、課金ガチャで出現するとすぐに処分されちゃうわけ」

「へぇ……そうなんだ……エカテリナもそうやっているのかい?」

「アタシはしないわ」

「え? そうなの?」

「だって……なんだか可哀そうじゃない……NPCとはいえ、キャラを処分しちゃうなんて」


 エカテリナの言葉を聞いて、ちょっと意外に思ってしまった。

 村の畑を全部購入出来るくらいのお金をモンスター討伐で稼いでいるエカテリナだけに、仲間ガチャも引きまくっていて役に立たないNPCキャラは売り飛ばしているもんだとばかり思っていたからなぁ……


 ……ん、待てよ……


 俺はその時、あることを思いついた。


「あのさ、ファム……あの処分されているNPCって、俺が買い取ることも出来るのかい?」

「え? ……はい、それは可能です……ゲーム内通貨で仲間ガチャで出現した仲間を取引することは認められていますので……でも、フリフリさん、何をなさるつもりなんですか?」

「ん? あぁ、ちょっと思いついたっていうかさ……で、村人Aを買い取るのって、どうすればいいか教えてくれないか?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る