今日は朝からログインしたんだけど その2
ログインしてから30分……
「……と、言うわけだから、この人はNPCで、条件を満たしたから仲間になったの。わかった?」
剣をおさめ、腕組みをしているエカテリナは、俺の説明をジッと聞いている。
んで、ファムさんは俺の後方に隠れて苦笑してるんだけど……ファムさんが俺の背に抱きつくようにして隠れているもんだから、何度エカテリナの刀の錆びにされそうになったことか……
で、まぁ……
俺の必死の説得と、畑の見回りから戻ってきたポロッカの説明もあって、ようやく話を聞いてくれるようになったわけなんだけど……俺の説明を聞きながらも、エカテリナの奴……ファムさんをジロジロ見つめながらあからさまに警戒しているのがありありな状態で……
「……どうにも納得いかない」
「な、納得いかないって?」
「その女がNPCとして、だん……い、いえ、フリフリさんの仲間になった、その条件よ。最初の条件だった『S級以上の武具を所持した状態で農作業を希望し、私を仲間にする』は、10連回したらS級装備が1個確定している課金ガチャを回せばいいだけだし、『NPCが販売行為をしていることを知っても農業を続ける意思表示を行った』っていうのも、本気で内政をしようとしているプレイヤーなら問題なくクリア出来ると思う。
でも、最後の『初心者支援ボーナスで引き当てる』って、これどう考えても無理ゲーでしょう? ディルセイバークエストの初心者支援ボーナスといえば『半年前のアプデ前ならすごかった装備』とか『荷物持ちにもならない雑魚NPCが仲間になる』くらいしか当たらないっていうので超有名なんだから。それが何? なんでこんなおっぱいフェロモン女が都合良く当たりで出るのよ? これを作為的と言わずしてどう言えばいいっていうのよ!」
エカテリナのプレイヤーである小鳥遊が、他者とほとんど会話が出来ないのを知っているだけに、饒舌過ぎるくらいに話を続けるエカテリナの様子に、思わず苦笑してしまう俺なんだが……
「ま、まぁ……確かに、お前が言うことも一理あるけどさぁ……そういうラッキーがあるからこそ、ゲームも楽しくなるんじゃないのか?」
「そそそ、そうですよエカテリナさん。それじゃあまるで私がなんか裏で細工でもしたみたいじゃないですか。NPCである私にそんなこと出来るわけが……」
俺の言葉に、頷きながら言葉を続けるファムさん。
そんなファムさんの眼前に、自らの顔を近づけるエカテリナ。
「あのですね……あなたホントにNPCぃ?」
顔を間近に近づけられたファムさんは『降参』とばかりに両手を挙げながら苦笑してるんだけど……うわぁ……なんか、オーバーオールからこぼれ落ちそうだな、あのおっぱ……ゲフンゲフン。
「はい、そうですよ……ここにNPCのマークがあるじゃないですかぁ」
そう言ってファムさんが指出している胸のあたりには逆三角形のマークが浮き出ている。
エカテリナの後方に立っているポロッカにも同じマークがあるんだけど、このゲームに登場するNPCには全員このマークが表示されていて、プレイヤーがNPCになりすませない仕組みになっているんだ。
どこかの攻略サイトに書いてあったけど、昔はわざとお決まりのポーズや台詞を繰り返すことで防具を買い取りしているNPCのフリをして、それに騙されて装備を売りに来たプレイヤーから装備を安く買いたたく、なんて悪質プレーをする奴がいたそうで、その防止のために導入されたんだとか……
……なので、そのマークがあるってことは、ファムさんが正真正銘、NPCだって証なんだけど……
「……確かにNPCのマークはあるけど……あなたが運営の中の人って可能性もあるんじゃない?」
「運営の中の人?」
エカテリナの言葉に思わず首をひねる俺。
「昔からこのゲームの中に、運営の中の人がNPCのフリをしてプレイヤーのプレー状況をチェックしたり、プレイヤーの生の声を収集したりしているって噂があるの」
「ああああくまでもそれは攻略サイトで流布されている噂であってですね……」
エカテリナに弁明しているファムさんなんだけど……なんかさっき、『運営の中の人がNPCのフリをして……』って言われたあたりであからさまに『ギクッ』って感じで動揺してたんだよなぁ……
一方、散々俺達が言い合いをしているにも関わらず、NPCのポロッカはほとんど会話に参加していない。ニコニコ笑顔を浮かべながら、待機モードになっている感じなんだけど……うん、これが本来のNPCの姿な気がしないでもない……
「そのNPCらしからぬ慌てぶりも怪しいし……それに、昨日出現しなかったっていうのも怪しくない?」
ギクッ
「昨日1日かけて私のだん……じゃなくて、フリフリの初心者支援ボーナスに登場するよう小細工をしてたとも考えられない?」
ギクギクっ
エカテリナの言葉に、ファムさん……すっごくわかりやすく動揺してる……うん、なんかこうして見ていると、エカテリナの言い分もすごく納得出来るというか……いや、言葉だけ聞けば『ファムさんが実は運営の中の人で……』って言われても『それってどこの都市伝説』って一笑に付されるのが関の山な気がしないでもないんだけど……ファムさんのNPCらしからぬ立ち振る舞いをここまで見続けている俺としては、なんかすっごく信憑性が高い気がしてしまうというか……
……でも、だ
「まぁ、エカテリナ。それくらいにしないか? ファムさんを雇用出来たら俺の畑を手伝ってもらえるようになるんだし、毎日短時間しかプレー出来ない俺的にもすごく助かるんだけどな……仮にファムさんが運営の中の人がプレーしているとしても、俺なんかのプレーが情報収集の役に立つのなら、別に役立ててもらってもいいかなって思うんだけど……ほら、お前が楽しんでいるゲームの発展の役にたてるわけでしさ……」
ニカッと笑みを浮かべる俺。
そんな俺の前で、腕組をしたまま黙りこむエカテリナ。
……うん、どうやら頭では納得してくれたみたいだ……ただ、まだ懸念事項があるみたいではあるんだけど……
そのまましばらく考えを巡らせていたエカテリナ。
一度小さく息を吐き出すと、その視線をファムさんへ向けた。
「……ファム、あんたがどんな意図でだん……フリフリに取り入ろうとしているのかはわからないけど……フリフリの役に立ちそうだから特別に見逃すわ……でもね……フリフリは私の旦那様なんだから! 旦那様を誘惑したり寝取ろうとしたりしたら承知しないんだからね!」
高らかに宣言するエカテリナ……っていうか、さっきから俺のことを『だん……』『だん……』って、言いかけては口ごもってたのって、俺のことを『旦那様』って言おうとしていたのか……
「なんか嬉しいもんだな……ゲーム中とはいえ『旦那様』って言われるのはさ」
俺が思わずそんな事を口にすると、
「は、はぁ!? か、勘違いしないでよね! わ、私はただ、あなたを無理矢理ゲームに誘ってレアアイテムを入手するために無理矢理夫婦にさせちゃったから、その責任をとって仕方なく、不本意だけど、恥ずかしいけど、言ってあげているだけであって、ちょっと嬉しいとか絶対に思っていないんだからね!」
……勇ましく宣言しているエカテリナなんだけど……そうだなぁ、こんなにツンデレ全開で会話をする奴が実在したってことに、俺、なんかちょっと感動しているというか……顔面を真っ赤にしながら話をされても説得力がないというか……ねぇ……
とにかく、ファムさんの件は、どうにかこれで解決した……のかなぁ……
◇◇
「と、言うわけで、今日から正式にフリフリさんの農場で働くことになった私ですが、雇用主のフリフリさんにこれを差し上げます」
そう言って右手をあげるファムさん。
すると、俺の所持品リストが光り始めた。
これって、新しい品物が俺の所持品に追加されたってお知らせなんだけど、所持品リストのウインドウを展開してみると『NEW』って文字のついた項目が追加されていた。
「『調合道具一式』って……これって、あれかい? 薬草をポーションに調合するための道具ってことなのかな?」
「はい、その通りです。畑に薬草がたくさん出来ているみたいですから、それをポーションに調合出来るようプレゼントさせていただきました」
ファムさんに言われて窓の外を見てみると……
「ほんとだ……昨日植えた薬草がすっごく増えてる……」
そうなんだ……昨日は一定間隔に植えておいた薬草なんだけど、今は葉っぱがすっごく茂っていて、土の部分がまったく見えなくなっている。
普通の農業だったら収穫までに何ヶ月もかかるなんてことも当たり前なんだけど、ゲームのこういうところは便利でいいな。
「じゃあ早速薬草を収穫して……」
って、言いかけた俺なんだけど……そんな俺の目の前で、エカテリナがすっごい勢いで畑に駆けだしたかと思おうと、あれよあれよという間に薬草をすべて刈り取ってしまった。
その間、エカテリナの体の周囲には、
『スキル:超加速』
『スキル:動体視力超向上』
とかいった、本来戦闘行為で使用するんじゃないのか? っていうスキルを使用していることをお知らせするウインドウがいくつも表示されていた。
「ほうほう……戦闘スキルを農業に使用ですか……なるほど、こういったプレーも……」
俺の後方では、ファムさんがNPCらしからぬ言葉を口にしてるし……
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