今日は朝からログインしたんだけど その1
朝起きて気がついた事がある。
「……あぁ、そうか……今日って祝日か……」
朝、いつものように目を覚まして、朝飯を作りながらテレビをつけたところで、その事実に気がついた俺。
……危なかったというか、なんというか……朝の情報番組のお姉さんが
『今日は祝日ですけど……』
って言ってくれてなかったら……俺、普通に朝飯食って、家を出てたかしれない。
休日出勤したところで、しなきゃならない仕事なんてないし……そうだな、無駄に会社と家を一往復しなくて済んだことを喜ぶことにするか。
ってなわけで、目玉焼きにトースト、それに低脂肪牛乳の朝飯を準備した俺は、それを口に運びながらノートパソコンを開いていた。
テレビをBGM代わりにして、まずはネットニュースをチェック。
煽り運転だの、政治家の不祥事だの……なんか、俺が社会人になってすぐの頃と、起きてることは大差ないよなぁ……って、まぁ、20年や30年で、人間そんなに変わるわきゃないか。
一通りニュースサイトをチェックした俺は、検索欄に
『ディルセイバークエスト 攻略』
って入力した。
最近じゃ、攻略サイトのチェックもお馴染みの作業になってるんだよな。
「……ん?」
表示された画面を見た俺は思わず首をひねった。
「……おかしいな、いつもなら「ディルセイバークエスト超速攻略」がトップに来るはずなのに……」
検索エンジンの上位に来るのはヒット数の多いサイトだ。
ディルセイバークエストの攻略サイトも、情報量のが多く、なおかつ常に最新の情報が掲載され続けているお馴染みのサイトが並んでいるのがいつもの光景なんだけど……今日は、見慣れないサイト名がトップに来ているぞ……
「ふ~ん……「イースのディルセイバークエスト攻略サイト<内政メイン>」……って」
サイト名を口に出して、ようやく俺は気がついた。
「これ、イース・クラウドさんのサイトじゃないか!? え? それが検索1位って……え!?」
俺自身も目を疑ってしまったんだけど……クリックしてみたら、間違いなく先日見つけたイースさんのサイトが開いたんだよな。
丁寧な作りで、内政中心に記事が充実していて、モンスター討伐関連の情報も扱ってはいるものの、すべてイースさんが自分で経験したことを元にして記事を作成しているためか、情報が偏りまくっている上に、モンスター討伐情報も中級レベルのモンスターのものしか公開されていないもんだから、本気でプレーしている人には物足りないこと請け合いのはずなんだが……
「……カウンターの数字が昨日の1000倍近くになっているし……どうやら間違いじゃないみたいだな……」
ってか……たった一晩でなんでこんなに閲覧者が増えたんだ?
イースさんのサイトの最新記事を開いてみたら……いきなりポロッカがピースサインしているスクリーンショットが現れて、俺の方がびっくりしてしまった。
そのスクリーンショットは、ブラッドベアのポロッカが二足で立ってピースサインをしているやつで、記事の題名には、
『害獣の中に、仲間に出来るモンスターを発見しました』
って書かれていた。
スクリーンショットの下には記事が書かれているんだけど、
・罠で捕らえた害獣を処分せず餌を与えると仲間に出来た
・ただし、実例はこの1件しか今のところ確認出来ていない
・仲間にすると人間の言葉を話す事が出来るようになる
といった具合に、俺が昨日イースさんに話した内容が簡潔かつ読みやすくまとめられていた。
記事にする際にはプレイヤーが特定されるようなスクリーンショットは使わないようにお願いしてたんだけど……うん、きちんと守ってくれてるな。
「ディルセイバークエストで害獣指定されているモンスターを仲間にした人が現れたっていうのがインパクトでかかったってことか……」
まぁ、そりゃあみんなもびっくりするよなぁ……討伐対象でしかなかったモンスターが仲間に出来るかもしれないってなったら……
イースさんの記事にはコメント欄がないんだけど、問い合わせメールを送信出来るようになっているから……相当な数のメールが届いているんじゃないかな……
イースさんには、なんか悪いことをしちゃったかな、と、思ったものの、イースさんも大なり小なり話題になることはわかっていたはずだろうし……
「うん、まぁ、後はイースさん頑張ってってことで……」
俺は俺で、今日は朝からログインしてみることにした。
◇◇
早速ヘルメットを被ってベッドに横になった俺。
すぐに、俺の意識がブラックアウトしていき、
『初心者支援ボーナス』
んで、それに続いて、
「農家の娘ファム×1」
って表示がされたんだけど……
「え? これってファムさんのこと?」
って、びっくりしながら飛び起きた俺。
ムニュ
そんな俺の目の前に、なんだか巨大でやわらかい物体が……
「うわぁ、び、びっくりしたぁ!?」
俺がやわらかい物体に押し戻されるようにしてベッドに倒れこむと、その物体が女の子のような声をあげながら後方に下がっていって……
「……って、あれ? ファムさん!?」
そう、そこにいたのはファムさんだった。
ファムさんは、すっかりお馴染みになったつなぎの服を着ているんだけど……あぁ、そうか……さっき俺の顔がぶつかったのは、ファムさんの胸だったのか……しかし、こうしてみると……ホント、スイカ並というか……
「ちょっとフリフリさん、さっきからどこを見ているんですか?」
「あ、あぁ……ごめん……」
悪戯っぽく笑いかけられた俺は、慌てながら返事をしたんだけど……
「あ、そ、それよりもですね……今日の初心者支援ボーナスが……」
「はい、今日のログインボーナスは私ですよ。えへへ、びっくりしました?」
「は、はい!?」
ファムさんの言葉に目を丸くする俺。
「実はですね、私を雇用出来るのは初心者の方だけなんです。それも初心者支援ボーナスの支給対象者に選ばれた上で、なおかつ『農家の娘ファム』こと私が当たらないと駄目っていう、結構厳しい3つ目の条件だったわけなんですけど……さすがフリフリさんですね、こんなに早く私を引き当ててくださるなんて」
そう言うと、ファムさんは俺に向かってペコリと頭を下げた。
「と、言うわけで、農家の娘改め、フリフリさんの農場の娘ファムをよろしくお願いいたします」
「え、えぇ……こ、こちらこそよろしくお願いいたします」
思わずベッドの上で土下座してしまった俺なんだけど……まさか、3つ目の条件がそんなことだったとはなぁ……
「ってか、ファムさん、さっきは何をしてたんです?」
「はい、フリフリさんの農場で働くことになったので、まずはフリフリさんのベッドのシーツを交換しておこうかなぁ、と、思っていたんですけど……うふふ、昨夜はお楽しみだったんですか?」
「さ、昨夜?」
「はい、ベッドで可愛い寝間着姿の奥様が……うふふ」
なんか、噂話を楽しんでいるウチの課の若い女性社員みたいな表情をしているファムさん……あ、若い女性社員といっても小鳥遊は除外ってことで。
「そう言えば、昨夜ログアウトする寸前にエカテリナがベッドに飛び込んできたような気がしたけど……」
「え~……あれ、フリフリさんがログアウトした後だったんですかぁ? エカテリナさんが布団にくるまってスーハースーハーなさっていたので、私てっきり……」
なんか……エカテリナの問題行動を俺に教えてくれているファムさんなんだけど……って、いうか……エカテリナの奴、俺のベッドで何をしてやがったんだ……
そんなことを考えながら苦笑していると、
「そそそそこまでにしてもらうわよ!」
絶叫に近い声をあげながらエカテリナが出現したんだけど……エカテリナの奴、すごい勢いでファムさんに斬りかかって……
「って、うぉい!? いきなり何をやってやがんだ、エカテリナ!?」
「邪魔しないでよね! 昨夜は早めにモンスター討伐クエストから戻ってこれたから旦那様にお休みのキスをしてあげようと……こ、これはあれよ、無理矢理ゲームに誘った埋め合わせというか、ゲームの中の夫婦とはいえ奥さんらしいことを何もしてあげられてなかったから、少しはそれっぽいことをしてあげようと思っただけなんだからね! でも、ベッドに飛び込んだところでログアウトされちゃったから、せめて残り香を嗅ごうとなんかしてなかったんだけど、そんなとんでもない勘違いをしているNPCの口を塞ごうとしているだけなんだから!」
そんなとんでもない事を口走りながら、剣を振るっていくエカテリナ。
なんというか、昨夜の行動の真意を包み隠さず全て話してくれてありがとうって、心の中でお礼を言いながら、俺はエカテリナを止めるべく、ベッドから飛び出していった。
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