さて、今日は畑仕事と森へ行こうと思うんだが その4

 イースさんは、ポロッカのスクリーンショットを数枚撮影した。

 ポロッカの奴、結構ノリノリでポーズを取ったりしているんだけど……俺の仲間になる前から、ポロッカはこんな思考を持っていたんだろうか……

 撮影の合間にちょっと聞いてみたんだけど、

『パパの仲間になった後の記憶しか残ってないベアよ』

 って返事が返ってきた。

 これは、単純に害獣時代は人間みたいな思考がなくて、本能のままに行動する害獣でしかなかった……と、考えるべきなのかもしれないな。

 そんな事を考えていると、撮影を終えたイースさんが俺の元に歩み寄ってきた。


「……で、フリフリさんは、ポロッカちゃんを罠で捕らえた後、処分しなかったら仲間にすることが出来たんですね」

「ん~……一応そういう流れではあるんですけど……ポロッカが腹を空かせていたんで、食べ物を食べさせてやったのも影響していたかもですね」

「なるほど……ということは、複数の隠し条件が設定されていた可能性があるわけですね……ふむふむ……」

 

 メモ帳がわりのウインドウに、俺から聞いた言葉を書き込んでは考えを巡らせているイースさん。

 右手の親指で下唇をなぞっているんだけど……これって、考えを巡らせる時のイースさんの癖なのかもしれないな……リアルの方のイースさんのって意味だけど。


 その後もあれこれ話を続けてみたものの……ポロッカが仲間になった時には『仲間にしますか? はい/いいえ』のウインドウ以外には特に変わったウインドウが表示されたわけでもないし、仲間になったポロッカも仲間になるための条件なんか全然覚えていなかったので、それ以上話が掘り下げられることが出来なかった。


「う~ん……同じNPCでも、農家の娘のファムさんは、自分を仲間にする条件を教えてくれたんですけどねぇ」

「え? そうなんですか?」

「えぇ……あ、でも、条件をクリアした後で、ですけどね。なので、俺も、『あぁ、そんな条件だったんだ』って、言われてびっくりした感じです」

「そうなんですね……で、そのファムさんは、今、どこに……」

 

 そう言うと、周囲を見回していくイースさん。


「あぁ……それがどういうわけか今日は現れないんですよ。いつもはINしたら向こうから来てくれてたんですけどね。あと、条件を2つクリアしたから、俺がログアウトしている間、畑を管理してくれているはずなんです」

 そうなんだ。畑には確実に手入れをされた形跡があるのでファムさんが約束通り畑仕事をしてくれていたのは間違いない。

 ポロッカが、とも思ったものの……ブラッドベアのポロッカの手で雑草を抜こうとすると、周囲の野菜の苗までえぐりかねないんだ。

 その辺りは、ファムさんが事前に

『ポロッカちゃんは、フリフリさんがいない間は村の警護をしてくださいね』

 って、言いつけてくれていたって、ポロッカから聞いたんだけど……この指示をファムさんがしてくれていなかったらと思うと、なんだか背筋が寒くなってしまう……


「そうなんですね……でも、変ですねぇ……」

 俺の説明を聞いたイースさんは首をひねっていった。

「変ですか?」

「はい……ディルセイバークエストに登場するNPCは基本的に出現場所が固定されているんです。ですので、昨日までフリフリさんがINしたらすぐに近寄ってきていたのでしたら、今日も同じように現れるはずなのですが……」

「あぁ、やっぱりそうなんですね。俺が昔やってたドラゴンマニアっていうゲームもそんな感じだったんで、おかしいなぁ、って思ってたんですよ」

「ドラゴンマニアって……それ、ずいぶん古いゲームですね」

 

 イースさんは、思わず苦笑していた。

 それもそうか……ドラゴンマニアってディルセイバークエストみたいなVRMMOじゃなくて、コントローラーで画面の中のキャラを動かして遊ぶ2Dスクロール型のRPGゲームだもんな。

 そんな超レトロなゲームと、最新のVRMMOを同列に扱ったら……そりゃ、笑われもするか。


「……それで、今日はフリフリさんはこれから何をなさる予定なのですか?」

「さっきポロッカと森で収穫してきた薬草を畑に植えようと思ってるんですよ」

「薬草を植えるんですか……あぁ、なんだか懐かしいなぁ」

「え? 懐かしいんですか?」


 おかしいな……確かイースさんは内政中心のサイトを運営しているプレイヤーなんだから、薬草の栽培もやってるもんだと思ってたんだけど……


「えぇ、最初の頃はやってたんですよ。モンスター討伐に行くプレイヤーに結構いいお値段で買ってもらえたりしていましたので……でも、モンスター討伐に特化したアップデートがはじまってから、NPCがポーションを安く大量に販売しはじめたもんですから……」

「あぁ、そういうことですか」


 そう言えば、そんな情報もどっかのサイトに書いてあったっけ。


「それで、私もいつしかモンスター討伐がメインで、内政は片手間で、みたいな今のプレースタイルになったといいますか……」

「それでも内政は続けているんですね」

「えぇ……サイトでも公開していますけど、私っていつも深夜にINして一日一時間くらいしか遊べないんですよ。レアなモンスターを狩ろうと思っても、そういったモンスターの棲息地域ってだいたい遠方なんで、移動するだけで時間切れになってしまうんです。

 だから普段は、拠点の近場に出現するコモン系のモンスターを狩って、入手した素材を売って、そのお金で街で苗を購入して栽培しているんですよ……ちょっとした別荘気分とでも言いますか……」


 そう言って笑うイースさん。

 なんか……私生活でもあれこれストレス溜まってそうだなぁ……で、このゲームでモンスターを討伐して憂さ晴らしをしているとか……

 しかし、だ……今のイースさんの話で、わかったことがある。

 エカテリナが、INしていても滅多に拠点に姿を現さない理由。

 がっつりモンスター討伐をしているエカテリナだけに、毎日INしてはレアなモンスターを討伐しに、そういったモンスターの生息域へ向かっているんだろう。

 で、そういった場所が遠方なせいで、モンスターを討伐して戻ってきた頃には、俺がログアウトしているってことなんだろう。

 まぁ、こればっかりはプレイスタイルの違いというか……最近の俺は、深夜過ぎまで起きてると、翌日が辛いんだよなぁ……ってか、ゲームの中でまで加齢を痛感することになるなんて夢にも思わなかったよ。


「でも、確かにこのゲーム世界は楽しいですね。さっきもポロッカと一緒に森を歩いていたんですけど、それだけでなんだか楽しくなりましたから」

「同感です。このゲームは景色や風景、それに風や水までしっかり作りこまれているので、ただログインして風景を眺めているだけでも楽しめるんです……大半のプレイヤーさんは、モンスター討伐ばかりに夢中になっていて、このゲームのいいところを忘れているんですよ……って、あ、ご、ごめんなさい……なんだか暑苦しく語っちゃいましたね」


 恥ずかしそうに頬を赤く染めながら口を手で押さえているイースさん。


「いえいえ、俺も同じ思いを共有出来て嬉しいですよ」


 俺はそう言うと、イースさんに向かって笑顔を向けた。

 すると、イースさんも嬉しそうに笑っていた。


 ……で


 その後、イースさんは

『ファムさんが現れたらまた連絡ください』

 と言って、俺と友人登録をしてから、自分の拠点に戻っていった。


 彼女が拠点にしている家は、ログインの街に近いところにある、森の中の一軒家なのだそうだ。

 スクリーンショットを見せてもらったけど、家そのものは巨木の上にあるらしい。

 そのあたりは、森の民って言われているエルフらしいなぁ、って、妙に納得してしまった。


 俺は採取して来た薬草を畑に植えていったんだけど、


「なんか面白いな、この薬草って……同じN(ノーマル)なのにいろんな色のがあるなんて……」

「そうベアね。いろんな色の薬草がいっぱい育って、畑が綺麗になってほしいベア」

 

 俺でカゴを抱えて、嬉しそうに笑うポロッカ。

 こうして見ると、害獣のブラッドベアの姿が気にならなくなってくるから不思議なもんだ。


「さて……そろそろ深夜だし、今日はここまでにしておくか」


 エカテリナからもらった魔石で街へ行ってみようかとも思っていたんだけど、イースさんとあれこれ話をしていたもんだからその時間がなくなってしまった感じだ。

 まぁ、楽しい時間を過ごせたから良いんだけどね。


 で


 ログアウトする前に、エカテリナにプライベートチャット。

 一応、ポロッカにも伝言をお願いしたけど……やっぱ、お礼は早めに伝えておいた方がいいかな、と思ったわけです。


『魔石ありがとな。ポロッカから受け取ったよ』


 そう入力して送信……っと。

 いつもなら、すぐにツンデレ気味な返事が返ってくるんだけど……あれ? 今日は違うみたいだな……


 しばらく待ってみたものの、一向に返事が返ってこない。


「ん~……仕方ない。今日はここまでにするか。んじゃ、ポロッカ、また明日な」

「はいベア。待ってるベアよ、パパ!」

 

 そう言うと、ベッドに横になった俺。

 ポロッカは、そんな俺の横に寝そべっていく。

 ベッドがでかいおかげで、ブラッドベアのポロッカが一緒でも全然狭くないんだよな……って、俺が小柄なドワーフだからってのもあるんだろうけど。

 んで、俺はログアウトボタンを押して、徐々に意識がブラックアウトしていったんだけど……そんな俺の上に誰かが飛び乗ってきたというか……


「あれ!? え、エカテリナか!?」


 なんか、エカテリナがベッドの上の俺に向かって飛び込んで来るのが見えたんだけど……気のせいか、妙に色っぽい寝間着を着ていたような……


 ってところで、ゲームの感覚がすべて無くなった。


「……なんだったんだ、あれは?……」


 小鳥遊にメールしてみようかとも思ったものの、もう深夜だし……うん、まぁ、明日の休憩時間にでもそれとなく聞いてみるか……

 

ーつづく

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