さて、今日は畑仕事と森へ行こうと思うんだが その2
散々顔を舐め回された後、ようやくポロッカに解放された俺は、畑へと移動した。
「へぇ……こりゃすごい」
思わず感嘆の声を漏らした俺。
そんな俺の前に広がっている畑には、野菜が大きく実っていた。
昨日植えたばっかりだっていうのに、もう収穫出来そうな物も結構あるな。
「ゲーム内ではすぐに収穫出来るってファムさんも言ってたけど……こうして実際に目の当たりにすると、なんか感動するなぁ」
「パパ、収穫するベア?」
「あぁ、そうだな。収穫時期になっているのは全部収穫しちまおうか」
「わかったベア!」
笑顔で力こぶをつくるポロッカ。
しかしあれだな……でっかい魔獣がそのポーズをしていると、若干違和感というか、怖さがあるというか……知らない人が見たら、これってマジで狩られる1秒前にしか見えないだろうな。
ポロッカは、倉庫に移動して収穫カゴを手に戻ってくると、そのカゴの1つを俺に手渡してくれた。
お互いに籠を手にして、さっそく収穫作業をはじめたわけなんだけど……いや、こりゃ便利だわ。
収穫可能な野菜の周囲って、漏れなく金色に光っているもんだから、金色に光っている野菜だけを収穫していけばいいわけだ。
しかも、光っている野菜に手を触れると、
『収穫可能です 収穫しますか? はい/いいえ』
ってウインドウが表示されるから、そこで『はい』を選択すると、触れた野菜が消滅して、収穫カゴの内容物リストの中に収穫した野菜の名前と個数が追加されるって寸法だ。
昔ながらとはいかないものの、野菜の生産が、コンピュータ制御でほとんど人の手が加わることなく育成・収穫・出荷されている現代社会の野菜市場を考えると、すごく貴重な体験をしている気になれるから不思議なもんだ。
昨日は腹を空かせて俺の畑の野菜を盗み食いしに来たポロッカだけど、今日は鼻歌を歌いながら収穫作業を行っている。
「ポロッカ、今日はお腹はすいてないのかい?」
「大丈夫ベア! ママが昨日ログアウトする前にお肉のお弁当をくれたベア!」
俺の言葉に笑顔で答えるポロッカ。
なんか、嬉しそうなポロッカの笑顔を見ていると、俺とエカテリナの本当の娘のような気がしてくるから不思議なもんだ……いや、どっちかというとペットの方がしっくりくるか……
「よし、とっとと収穫を済ませて、その後で森に行くとしよう」
「はいベア!」
笑顔で頷き合うと、俺とポロッカはせっせと収穫可能な野菜を収穫していった。
◇◇
畑がまだそんなに大きくないのもあって、作業は1時間ほどで終了した。
たかが1時間とはいえ、一日に3時間くらいしかディルセイバークエストにログインしていない俺的には、されど1時間って感じだ。
「収穫した野菜は、カゴに収納したまま置いておけばいつでも取り出せるベア」
そう言いながら胸をドンと叩くポロッカ。
確か、攻略サイトにもそんな事が書いてあったっけ。
で、カゴに収納したままにしておけばずっと新鮮なまま保存されることになるって仕組みらしい。
逆に、金色に光っている野菜を収穫せずに放置したり、収穫した野菜をカゴの外に出したまま放置したりすると、『この野菜は腐ってしまいました』ってウインドウが表示されてしまい、そのまま消滅してしまうんだそうだ。
まぁ、このあたりは妙にリアルな感じだな、うん。
「カゴはまだ収穫物を収納出来るみたいだし、んじゃ、これをかついで薬草採取に行くとするか」
「はいだベア!」
俺の言葉に、再び笑顔で力こぶを作っていくポロッカ。
この時、俺は妙な感覚に襲われていた。
……あれ……なんか足りないような気が……
しばらくポロッカを見つめていた俺なんだけど……足りない何かはすぐに判明した。
「そうだ……今日はファムさんが出現してないんだ……」
昨日は、俺がログインするとすぐに現れてあれこれ教えてくれたファムさんなんだけど……今日は、ログインして以降、一度も姿を現していない。
畑で収穫をしていた際に、雑草なんかを刈り取ったらしい痕跡があったので、俺がログアウトしている間に作業をしてくれていたのは間違いないんだけど……
「俺が昔やってたゲームだと、NPCってのは常に決まった場所に出現してたんだけど……このゲームは仕組みが違うってことなのかな……」
そういえば、攻略サイトにも
『街で屋台販売をしているNPCは時間や日によって出現場所が異なる場合がある』
って書いてあったっけ。
「ファムさんが出現するのを待ってもいいんだけど……今日は出現しない日かもしれないし、何よりログイン時間が限られている俺の時間がもったいないし……よし、んじゃ森へ行くかポロッカ」
「はいだベア!」
俺の言葉に、改めて力こぶを作っていくポロッカ。
同じ仕草を繰り返しているのを見ると、このポーズはポロッカの基本動作なのかもしれないな。そう考えると、やっぱりポロッカはNPCなんだなぁ、って改めて実感してしまう。
んで、俺はポロッカの案内で森の中へ移動しいていった。
一応、畑の周囲には昨日の初心者支援ボーナスでもらった罠を仕掛けておいた。
ありがたいことに、使い捨てではなく、しばらくは使用可能みたいだ。
「あの罠が消滅したら、また新しい罠をどうにかして入手したいところだなぁ」
「パパ、そんなことをしなくても大丈夫ベア」
「え?」
「ポロッカが番熊として、パパがログアウトしている間中、畑を守るベア。罠は不要ベア」
そう言って、再び力こぶポーズを取るポロッカ。
確かに、これはすごくありがたい申し出だ。
罠を購入したりしなくてすむわけだもんな。
「……でも……なんか申し訳ないな……それをお願いしちゃうとポロッカは俺がログアウトしている間中、起きて畑を見張ることになるんだろう?」
「そうベア。それがお仕事ベア」
「……うん、それは確かにありがたいけど……けど……うん、なんか申し訳ないから、いいや」
「べ、ベア!?」
俺の言葉を聞いたポロッカは、両手を広げながらびっくりした表情とポーズをとっていく。
これもNPCとして決められている動きなんだろうけど……現実世界で人がびっくりしているように見えるって、マジですごいな……
「あぁ、俺がいない間はしっかり寝て、置いておいた食べ物をしっかり食べて、あとの時間は好きなことをしてていいよ。でも、危ない場所には行かないように気を付けてほしいかな」
「……べ、ベア!? そ、それだけベアか?」
「うん、それで十分だよ」
「でも、ポロッカはNPCだベア。寝なくても大丈夫ベアよ」
「うん、それはわかっているんだけど……なんか、申し訳ないっていうか、お願いしたくないんだよな。ポロッカには好きなことを好きなようにしてほしいっていうか……俺の大切な仲間っていうか、大切な家族だし」
森を歩きながら笑顔でそんな事を口にした俺だったんだけど……そんな俺をポロッカがいきなり抱き上げた。
リアル世界の俺は結構背が高い方なんだけど……ディルセイバークエスト世界の俺はちんちくりんなドワーフのフリフリさんだから、2m近い体躯を誇るブラッドベアのポロッカにあっさりと持ち上げられてしまった。
「パパ、すっごく優しいベア。ポロッカ、パパのこと大好きベア!」
俺を肩にのせ、嬉しそうに微笑んでいるポロッカ。
すると、ファンファーレが鳴って、同時に豪華なウインドウが表示された。
そのウインドウには、
『ポロッカとの絆が深まった』
って書かれていた。
「『絆が深まった』って……何か起きるのか?」
俺は首をひねりながらそのウインドウを見つめていた。
ポロッカは、そのウインドウに気がついていない……というか、ゲームの設定でウインドウに反応しないことになっているのかもしれないな。
……って、あれ? ……でも、ファムさんは俺のウインドウをのぞき込んでなかったっけ?
俺がそんな事を考えていると、
「ポロッカは薬草を探すの苦手ベアけど、パパのために目一杯頑張るベア!」
今日だけですっかりお馴染みになった力こぶポーズを作ると、森の中を早足に進んでいくポロッカ。
「……ん?」
よく、見ると進行方向にウインドウがいっぱい表示されているような……
「パパ、あのあたりベア! あのあたりに薬草がいっぱいある気がするベア」
ウインドウがいっぱい表示されているあたりを指さしていくポロッカ。
よく見ると、そのウインドウには『薬草 N』って文字が書かれていた。
……って、おかしいな……俺って薬草を見つけるようなスキルなんて持ってなかったはずなんだけど……
俺が首をひねっていると、眼前に新しいウインドウが表示された。
『ポロッカとの絆が深まったおかげで以下のスキルが付与されました
調査スキル/ポロッカ フリフリ
危険察知スキル/フリフリ』
「ってことは、この調査スキルのおかげで薬草のありかが表示されたってわけか」
ウインドウの表記で、事態をようやく把握した俺は、
「よし、薬草を採取するか!」
ポロッカの肩から飛び降りると、薬草が群生している方へ向かって駆け出していった。
ポロッカも俺を追いかけてくる。
森の中の作りがすごくリアルで、ポロッカと一緒に本当の森の中を走っているみたいだ……これはちょっと癖になりそうな気持ちよさだ。
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