さて、今日は畑仕事と森へ行こうと思うんだが その3

 ポロッカとの絆が深まったおかげで習得した「調査スキル」のおかげで、俺とポロッカは30分もしないうちにカゴの収納限界まで薬草を収穫することが出来た。

 

「調査スキルで探しやすかったってのもあるけど、なんかすっごく群生してたよな」


 カゴの中身を確認しながら頷く俺。

 そうなんだ……どういうわけか、薬草を1つ発見するとほぼ漏れなくその周囲にかなりの数の薬草が群生してたんだ。

 そのおかげで、短時間で大量に薬草を収穫出来たわけなんだが……あ、もちろん群生してた場所の1割くらいは残しておいた。

 ……まぁ、ゲームの中のことだし、そこまで気にしなくても1日経ったらまたもっさり生えてる気がしないでもないんだけど、これは気持ちの問題ってことで。


「パパ、たくさん取れたベアね。これを畑に植えるベアね」

「うん、そうするつもりだよ。ファムさんの話だと、採取した薬草を畑に植えて育成すれば増えるみたいだしね……あと、これだけ大量にあるんだから、回復ポーションの試作もしてみたいかも」

「わぁ! なんか楽しそうベア! ポロッカもお手伝いするベアよ!」


 そう言うと、すっかりお馴染みになった力こぶポーズをするポロッカ。

 NPCの定番のポーズなんだとわかってはいるんだけど、魔獣なのに表情が豊かだし、声がすごくリアルというか、本当に楽しそうなもんだから、聞いててこっちも楽しくなってくるんだよな。

 小鳥遊をはじめとした多くの人達がこういったVRMMOにはまるのがわかったような気がする。

 ……まぁ、このディルセイバークエストを楽しんでいる人達の大半は、ポロッカのようなモンスターの討伐を楽しんでいるんだろうけどね。


 ま、あんまり斬ったはったなんてのは好みじゃない俺としては、こうして非日常空間をのんびり楽しむのが性に合ってる。

 そういう意味では、小鳥遊には感謝しないといけないな……きっかけはゲームの報酬が欲しかったためだったとはいえ、このゲームに誘ってくれたわけだし。


「……ん? まてよ」


 俺はここであることに思い当たった。

 そういえば……ここ数日、俺がログインすると毎日のように小鳥遊ことエカテリナからプレゼントが届いていたんだが……


「……そういえば、今日はエカテリナからのプレゼントがなかったような……」


 改めて俺個人の持ち物を確認してみたんだが、エカテリナから何か届いていた形跡はない。

 俺が首をひねっていると、


「あ、ママからこれを預かってるベアよ」


 そういって、ポロッカが自分の持ち物の中から何かを取りだして、俺に手渡した。

 それは、丸い石のようなんだが……確認してみると、


『転移石 拠点と街の間を瞬時に移動出来る(1転移石につき1拠点・1街の登録が可能)』


 って書かれたウインドウが表示された。


「へぇ……ってことは、ログインポイントのある街と、俺の家を登録しとけば移動時間なしで行き来出来るようになるのか、こりゃありがたい……しかし、なんでまたポロッカに頼んだんだ、エカテリナの奴」


 そんなめんどくさいことをしなくても、所持品リストから送信すれば一瞬で済むし、実際に今までもそうしてたわけだし……


「あぁ、それならポロッカがママにお願いしたベアよ」

「ポロッカが?」

「そうベア。ママのお手伝いをしたいベア!って言ったら

『じゃ、じゃあこの魔石をぱぱぱパパに渡してくれるかしら? べべべ別に娘を通して渡してもらったら、なんかすごく家族~って感じでいいなぁ、なんて思ってなんかないんだからね!』

 って、言いいながらポロッカに魔石を預けてくれたベアよ」


 うん……エカテリナの台詞部分では、エカテリナの口調や態度を真似しながら再現してくれるもんだから、思わず苦笑してしまった。

 なんていうか……メールの内容だけじゃなくて、会話でも同じようにテンパってるのか、エカテリナの奴。


 プライベートチャットでお礼を言おうと思った俺だったんだけど、


「じゃあポロッカ、次にママに会った時に伝えてくれるかい? 『プレゼントありがとう、すごく嬉しいよママ』って」

「うん、わかったベアよ!」


 笑顔で力こぶポーズをとっていくポロッカ。

 そんな会話を交わしているうちに、俺達は森を抜けて家へとたどり着いた。


「……ん?」


 すると、家の前に誰か立っているのが見えた。

 ファムさん……じゃないか、背が低いし、すごく細いし、それに耳が長くて髪が長い……あれはエルフ族かな……


 俺がそんなことを考えていると、そのエルフ族の女性は、俺とポロッカが帰ってきたのに気がついたらしく、振り向いて近づいてきた。


「あなたがフリフリさんですか?」

「えぇ、そうですけど」

「よかった、昨日お邪魔した時はログアウトされた後だったものですから……私、メールを頂きましたイース・クラウドと申します。イースとお呼びください」

「あぁ、あなたがイースさんですか。俺の方こそ、昨日はせっかく訪ねて来てくださったのに、ログアウトしちゃっててすいません」

「あぁ、それはお気になさらないでください。お互いにリアルの方の生活のリズムがありますもの、仕方ありませんわ」

「そう言ってもらえると助かります。何分若くないもんですから、夜更かしは苦手でして……」

 

 そう言ったところで、イースさんは俺の口に人差し指を当ててきた。

 なんか、いきなりだったのでドキッとしてしまったんだが……


「駄目ですよ、そういったリアルを想像出来る言葉を不用意に口にしては。この世界でのあなたはドワーフのフリフリさんなのですから、ドワーフのフリフリさんとしての発言を心がけてください」

「あ、あぁ……そうですね、なんかすいません」

「ふふ……老婆心といいますか……はじめてお会いした方にはいつも同じような事を言わせて頂いているんです。リアルを迂闊に話してしまったためにゲームを辞めざるを得なかったプレイヤーさんもいますので……」


 そう言うと、悪戯っぽくウインクするイースさん。

 うん……なんて言うか、すごく面倒見のいいお姉さんって感じだな……


「ありがとうございます、肝に銘じておきます」


 お礼を言い、頭をさげる俺。


「改めまして、俺がフリフリ。こっちが仲間の……」

「娘ベア」

「……い、いや、仲間の……」

「娘のポロッカだベア」


 俺が仲間として紹介しようとしていたのだが、強引に『娘』で押し通してしまったポロッカ。

 すると、俺達のやり取りを聞いていたイースさんが目を丸くしていた。


「あ、あの……仲間って……え? でも、この魔獣、NPCですよね? そもそも害獣指定されている魔獣のはずですよね……」


 ポロッカの胸のあたりに出ている逆三角形のマークを見つめているイースさん。

 このゲームに登場するNPCには全員このマークが表示されていて、プレイヤーがNPCになりすませない仕組みになっているんだ。


「えぇ、そうですけど」

「え? え? ど、どういうことですか? 実装されている仲間キャラは人族とエルフ族しかいないはずじゃあ……」

「え? そうなんですか?」


 イースさんの言葉に、今度は俺が目を丸くした。


「こいつは、害獣捕縛用罠にかかっていたのを助けてやって、その後あれこれあった後、自分から仲間になってくれ……」

「仲間じゃないベア! 娘ベア!」

「あ~もう! 話の腰を折るな!」


 俺が「仲間」と口にする度に、俺に抱きつきながら訂正していくポロッカ。

 そんな俺達のやり取りを見つめながら、イースさんはさらに目を丸くしていた。


「あ、あの……仲間になったのは理解しましたけど……なんでポロッカは私達と普通に会話が出来ているのですか? 私の記憶では、このゲームに登場する魔獣の中に、人と会話出来る種類はいなかったかと……」

「あぁ、こいつは普通の魔獣とは違うっていいますか、俺と仲間契約をしたら人の言葉を話せるようになったんです」

「そうベア。ポロッカは、パパの娘になれたから人の言葉を話せるようになったベア。以外に優秀なブラッドベアだベア」


 そう言うと、すっかりお馴染みになった力こぶポーズをとるポロッカ。

 イースさんは、そんなポロッカを、目を丸くしながら見つめ続けている。

「え? と、討伐対象のモンスターが仲間に……しかも会話が出来るように、って……え? え?」


 俺の横で力こぶポーズをしているポロッカ。

 そんなポロッカを見上げながら、イースさんはさらに目を丸くしていた。


「び、びっくりです……討伐対象のモンスターが仲間になるだけでも驚きですのに、更に人の言葉まで話せるなんて、運営はアナウンスしていませんし、どの攻略サイトにも掲載されていませんでしたし……」

「え、そうなんです?」


 イースさんは、カメラウインドウを表示させて、ポロッカを撮影しようとしていたんだけど、そこでハッと我に返ると、


「あ、申し訳ありません。関係者の方に許可を取らずに勝手な事を……あの、もしよろしかったら私の攻略サイトで画像付きで紹介させていただいてもよろしいでしょうか?」


 深々と頭をさげるイースさん。


 大手の攻略サイトにも記載されていたけど、このディルセイバークエストって公式が隠し設定をたくさん盛り込んでいるそうなんだ。

 で、そういった設定を、プレイヤー同士で交流しながら見つけてくださいってスタンスらしい。

 噂じゃあ、隠し設定があまり長く発見されないと、運営のテストプレーヤーがわざと情報を漏らしたり……なんてこともやってるらしい。


 大手とは言えないものの、ディルセイバークエストの攻略サイトを運営しながらプレイを楽しんでいるイースさんも知らないどころか、大手の情報掲示板にも掲載されていない情報って、これって結構すごいことなんじゃないか?


 ……ただ、俺的にはのんびりプレーをしたいだけなんで、あんまり目立つようなことはしたくないんだよな……それに、ポロッカを見世物にするみたいで、ちょっと気が乗らないっていうか……


 一度は断ろうと思った俺だったんだけど……イースさんの姿を見ると、ちょっと気持ちが揺らいでしまう。


 写真撮影をする前にきちんと許可を求めてくれたイースさん。


 公式サイトにも

「スクリーンショットやプレイ動画を外部公開する際には、写っているプレイヤーの許可を取ってください」

 って書かれているものの、有名無実化しているというか、プレイヤーが攻略が難しいモンスターを討伐している動画を勝手に撮影して勝手にアップするプレイヤーが後を絶たないらしいって、攻略サイトにも書いてあったっけ……

 

 そんな中、きちんと筋を通してくれているイースさん。

 なんか、この律儀なまでの対応の仕方……気のせいか初対面な気がしないんだよな。

 そうそう、会社の東雲課長が、こんな感じですっごく生真面目で几帳面っていうか……


「……そうですね。目立ちたくないので顔を載せないのであれば問題ありません。あと、俺とわからないように配慮してもらえれば……」

「えっと……」


 俺の言葉を聞いたイースさんは、急に困り顔になってしまった。


「あの……大変申し訳ないのですが、フリフリさんのようなドワーフでプレイされている方はすごく少ないものですから……顔を隠したくらいじゃあ、すぐに特定されてしまうといいますか……」

「あぁ……なるほどなぁ」


 イースさんの言葉に、思わず納得した俺。

 

 そんなわけで、イースさんとも相談した結果、撮影するのはポロッカだけで、俺のスクショは撮影せず、「プレイヤーFさん」として掲載してもらうことにした。


 ブラッドベア姿と、獣人姿のポロッカを撮影し終えたイースさんに、ポロッカを仲間にしたいきさつを説明した俺。


「なんだか申し訳ありません。ご質問にお答えしに来たのに、逆にあれこれ教えて頂くことになってしまって」

「いえいえ、そこはお互い様ってことで。初心者なんで色々教えてください」

「はい、私でお役に立てるのでしたら」


 俺とイースさんは笑顔を浮かべながら握手を交わしていった。


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