翌日もとりあえずログインしてみたんだが…… その2
ログイン画面が表示された後…… 俺は、村の中にいた。
間違いない、昨日最初に出現した村だ。
周囲には、昨日と同じ中世のヨーロッパを思わせる石造りの建物が建ち並んでいる。
昨日はゆっくり見る余裕がなかったんだけど、改めて周囲を見回してみると……俺の足元には大きな魔法陣? みたいな物が輝いていた。
そして、俺の周囲が突然輝いたかと思うと、そこに人が出現してくる。
そういえばさっきの攻略サイトに書いてあったけど、ここがログインポイントってやつなんだろう。
このゲームの中には複数のログインポイントがあって、ログアウトした時の一番近くにあるログインポイントに出現するって書いてあったっけ。
これには例外がいくつかあって、ログアウトする前に就寝していればログインと同時に起床ってことになって就寝した場所に出現出来るらしい。
ただし、この就寝が野宿だった場合、同じ場所に出現出来るのは24時間以内に限られるそうで、それを越えると強制的に近くのログインポイントから出現することになるらしい。
例外的に、宿の中や、家に宿泊させてもらって就寝してログアウトしていた場合、あと自宅を所有していてその家の中で就寝してログアウトした場合は、次のログインが24時間以上経過していても、就寝した場所に出現出来る……って、書いてあったな。
……しかし
改めて周囲を見回してみて気がついたんだけど……ホント、このゲームって狩猟メインなんだなぁ、ってのを実感してしまう。
何しろ、俺の周囲に出現してくる人ってば、みんな強そうな武器を持ってるし、身につけている装備なんかも、いかにも『これから戦いに行きます!』って感じなんだ。
俺のような初心者っぽい人もいるにはいるんだが……そんな人は、出現すると同時に魔法陣の近くにある露店に飛び込んで武器を購入していた。
……魔法陣があるここは『ログイン広場』って言われていて、この広場の中に店を出しているのはすべてノンプレイヤーキャラクターっていう、運営が準備したキャラ達なんだよな。プレイヤーキャラと区別するために胸のところに逆三角のアイコンが表示されている……んで、そんなノンプレイヤーキャラの露店で買い物をしているのがプレイヤーキャラってわけか……
ピロリン
「ん? なんだ、今の音は……」
俺の視界の四方には様々な情報ステイタス画面が表示されている。
今いる場所のマップだったり、俺のレベル表示、所持品一覧や、公式チャットなんかもあったりする。
それらのウインドウは、いつもは視界の邪魔にならないように縮小された状態で表示されているんだけど、詳しく見たい画面に意識を集中すると、その画面が拡大して表示される仕組みになっているらしい。
まぁ、全部攻略サイトの情報なんだが……これくらい説明しておいてくれよな、小鳥遊の奴……
……なんて思っていたら右にある画面の1つに、
『エカテリナさんからプレゼントがあります』
って表示されている吹き出し型のアイコンが明滅していた。
どうやら、さっきの音はこれを俺に知らせていたらしい。
そのアイコンをクリックすると、ウインドウが大画面表示されて、
『エカテリナさんがあなたにプレゼントしました
SSSミスリルの棍棒
SSSミスリルの胸当て
SSSミスリルの籠手
SSSミスリルの盾』
って表示された。
ひょっとして……俺がゲームを続けてみるっていったから、小鳥遊がプレゼントしてくれたのかな?
しかし……なんだ、このアイテム名の前についている『SSS』ってのは……
まぁ、よくわからないけど、小鳥遊からのせっかくの贈り物だしな、ありがたく頂いておくとしよう。
「……お、そうだ」
そういえば、このゲームのチャット機能には、プライベートチャット機能ってのがあって、特定の個人だけに向けたメッセージを送信することが出来るんだっけ。
攻略サイトの情報だと、まず公式チャットを拡大表示して、『全体チャット』のところを『プライベートチャット』に変更。そして、ここにメッセージを送りたいプレイヤー名を選択……って、あ、まてよ……この機能って、フレンド登録している相手にしか使えないんじゃあ……って、心配したのも一瞬……プレイヤー名一覧の中には、しっかりと
『エカテリナ』
の名前が表示されていた。
その横には『フレンド』ではなく『配偶者』と表示されていたわけで……あぁ、そうか、昨日のあのイベントで俺と小鳥遊は、ゲーム内の夫婦になっていたんだったな。
……しかし、配偶者ねぇ
リアルじゃ半ば諦めていたってのもあるけどさ、ゲームの中とはいえ配偶者が出来たっていうのは、なんともむず痒いというか、思わずニヤけてしまうというか……
『お帰りなさいあなた、今日も可愛がってくださいね』
なんて言いながら、あのでっかい胸を押しつけてこられたら……って、おいおい、俺ってば何を考えてんだ……
ちょっと脱線しちまったけど……まぁ、とにかく夫婦間でもプライベートチャットが可能ってわけなんだな、うん。
「ん、じゃあ……」
チャットのキーボード機能を起動させて……って、実際に手元にキーボードが出現するんだな。
で、これで文字を入力して……
『プレゼントありがとな。大事に使わせてもらうよ』
って入力して、エンターキーをポチっと。
うん、チャットの中に文字が表示されたから、多分うまくいったんだろう。
って、即座に返事が返ってきたぞ……何々……
『元々捨てるつもりだった装備だからお礼なんていいです。別にあなたのために入手しに行ったんじゃないんですからね』
って……なんだ、これ?
「……やれやれ、あいつのやることはいまいち理解出来ん……けどまぁ、お礼の気持ちは伝わったっことで、よしとするか……」
その後、ひょっとしたら小鳥遊がやってくるかと思って周囲を見回していたんだけど……10分待っても現れる気配はなかった。
フレンドが今どこにいるのかっていうのもマップに表示されるらしいんだけど、
『エカテリナ シークレットモード』
って文字だけがマップ上に表示されているところを見ると、多分、自分の居場所を俺やフレンドに見られない設定にしているんだろう。
チャットで呼びかけてみようかとも思ったんだが、あいつがモンスター討伐している最中だったら悪いかなとも思い……とりあえず、俺は改めて周囲を見回していった。
俺がいる公園の中には、露店の他にいくつか掲示板が設置されていた。
掲示板の前にはどこにも、たくさんのキャラが集まっていた。
「……確か、あの掲示板に貼られている依頼書のクエストをこなせば、金を稼げたりアイテムをもらえたりするんだっけ……」
この依頼は運営が準備した物だけでなく、プレイヤーが依頼書を掲示することも出来るらしい。
早速掲示板の前に移動し、掲載されている依頼書の内容を確認してみたんだが……
「……討伐・討伐・討伐・討伐……どれもこれも討伐ばっかだなぁ……」
そう……そこに掲載されていたクエストは、ほとんど全てがモンスターの討伐依頼だった。
まぁ、そりゃそうだよなぁ……このゲームはモンスター討伐に特化したゲームなんだから。
キャラクターのレベルによって受領出来るクエストが制限されているらしく、掲示板に掲載されている依頼書の大半に赤い×印が浮き出ていた。
つまり、今の俺じゃあ受けることが出来るクエストがないってことか……って、そりゃそうだよなぁ……なんせ、昨日はじめて、小鳥遊……じゃなかった、この世界ではエカテリナだったな、そのエカテリナのクエスト達成のためにゲームに付き合わされたばかりなんだし……
それでも、いくつかは受領出来るクエストがあるらしく、×印が浮き出ていない。
「何々……『ゴブリン討伐』『スライム討伐』『パーティの荷物持ち』……」
やっぱこのゲームでもゴブリンやスライムってザコ扱いなんだなぁ……俺が昔ちょっとやったことがあるテーブルトークRPGなんかだと、スライムに襲いかかられただけで大ダメージをくらってたし、ゴブリンにしても集団で襲ってこられたらひとたまりもなかったもんだが……あ、でもゴブリンの方は最近ちょっと見直されているって聞いた事が……
荷物持ちっていうのは、モンスターを討伐した際のドロップアイテムを収納したり、回復アイテムなんかを持っていったりする役回りらしい。
キャラが一度に所持出来るアイテム数に限りがあるんで、そのアイテム所持枠を使用して荷物持ちをしてくださいって依頼らしい。
この依頼は同行するだけで経験値がもらえるもんだから初心者サポートの意味合いもあるらしい。プレイヤーもそれを理解しているので初心者キャラを見つけたら積極的にこの荷物持ちクエストに誘ってくれるって、攻略サイトに書かれていたっけ。
ひょっとしたら俺も声をかけてもらえるかも、なんて思っていたんだけど……今日は周囲に低レベルのプレイヤーしかいないみたいで、そんなこともなさそうだ。
「……しかし、農作業っていうか、スローライフ的なクエストって、全然ないんだなぁ」
攻略サイトの様子からして、ある程度予期はしていたものの……まさかここまでとは……
サービス開始当初は狩猟ものんびり生活も両方楽しめる仕様だったって聞いてたから、少しくらいはって思っていたんだけど……どうやら俺の認識が甘かったみたいだ。
でも、だからといって、モンスター討伐に行く気にもならないしなぁ。
そもそも小鳥遊に無理矢理やらされてなかったら絶対に手を出さない系だからな、こんな戦闘メインのゲーム……
と、まぁ、そんなわけで、掲示板の前で途方に暮れていた俺。
「あのぉ……フリフリさん」
「ん?」
そんな俺に、何やら話しかけてくる声。
振り向くと、そこには大柄な女の子が立っていた。
胸のところに逆三角のマークがあるしているので、ノンプレイヤーキャラクターだな。
「えっと……フリフリって、俺のことか?」
「はい、そうです。フリフリさん」
そう言うと、その女の子はペコリとお辞儀をした。
「先ほどの発言を確認いたしました。農業的なクエストをお探しなのですよね?」
「あ……あぁ、まぁ、そうなんだけど……」
「それでしたら、私、農家の娘ファムがお手伝いさせていただきますわ」
「……はい?」
その女の子~ファムって言ったっけ……そのファムは、俺に向かってにっこり微笑んでいる。
その姿はというと……オーバーオールに麦わら帽子、手には三つ叉鍬とバケツという……うん、見るからに農家の人って姿をしているわけだけど……いや、なんでこんなキャラがこんなとこにいるんだ?
ってか、さっきまで確実にいなかったぞ、こんな女の子……
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