翌日もとりあえずログインしてみたんだが…… その3

 ガラガラガラ……


 今の俺は、荷車の荷台に座っている。


「……あ、あのぉファムさん、やっぱり荷車、俺がひっぱりますよ」

「いえいえ、これぐらい軽いもんですから」


 さっきから何度目かのやり取りなんだけど……街で、農作業的なクエストを探していた俺に声をかけてきたNPCのファムさんは、


『農作業に適した場所がありますのでご案内しますね』


 そう言うと、自分が引っ張ってきたらしい荷車の荷台に俺を乗せて出発したんだ。

 道にそって街を出て、森の中へと入っていく。

 

「いやぁ、でもホント、フリフリさんみたいなプレイヤーさんが現れるなんて思ってもいませんでしたよ」

「そうなんです?」

「はい、サービスが開始になった頃には農作業やスローライフといった内政系をメインにしたプレイを希望される方も結構いらっしゃったのですが、第2次大規模アップデートでモンスター討伐に特化したゲームシステムに変更されてからというもの、内政系をメインで行おうとされるプレイヤーさんは激減されましたので。

 モンスター討伐の片手間に、武具や回復薬なんかを作って販売したりされているプレイヤー様は今でも多数いらっしゃるのですが、農作業となりますとそれなりに手間暇をかける必要が出てきますので、討伐の片手間に行えるようなものではないものですから」

「へぇ、そうなんですか……俺から言わせたら、のんびり出来て楽しそうなんだけどなぁ」

「仕方ない部分もあったのです。第一次大規模アップデートまでは農作業を行って、NPCが運営している市場に販売したり携行食糧やポーションにしてプレイヤーに販売する方も多かったのですが、第2次大規模アップデートで討伐したモンスターが携行食糧やポーションなどをドロップするようになったものですから」

「あぁ……手間暇のかかる農作業をしなくても食べ物や薬が手に入るのなら、そりゃあみんなモンスター討伐に精を出すわなぁ」

「その通りです」


 ファムさんの言葉に頷いていた俺なんだが……しかし、最近のゲームってのはすごいな……ファムさんってNPCなのに、まるでプレイヤーと会話をしているみたいに普通に受け答えしてくれている。

 俺が昔やってたスー○ァミやプレ○テのゲームみたいに、何度「話す」コマンドを使用しても『ここは○○の街です』としか応えてくれなかったNPCとは雲泥というか……



「さ、到着しましたよ」


 ファムさんが前方を指さした。

 そこには、川辺の平地に木の柵を張り巡らせている一角があった。

 その入り口らしき門のところには、


「メタポンタ村?」


 って書かれている木製の看板が掲げられていた。


「はい、ここメタポンタ村は農作業をメインにされているプレイヤー様が集まってお作りになられた農村なのでございます」

「へぇ、農村があるんだ」


 俺は村の中へ視線を向けていった……んだが……荷車が村の中に入ったあたりから妙な感覚に包まれていた。


 ……なんだろう……道の周囲には田畑らしい場所があるんだけど、どこも雑草が生い茂っていてとても農作業を行っているようには見えないというか……その田畑に隣接している家も、一目で無人とわかるというか、思いっきり朽ち果てているようなのばかりだし……


「農村は、定期的に訪問して世話をするかNPCに管理を任せていないと、雑草が生えてきて農作業不能の状態になってしまいます。NPCを雇っていても、契約期間を更新しないといなくなってしまいます。一定期間訪問者がいない農家は権利が消失してしまい、付随している家まで朽ちてしまうんです」


 笑顔で説明してくれているファムさんなんだけど、暗い内容のせいかその笑顔が少々寂しそうに見えてしまった。

 ……しかし、周囲にあるほとんどの家が朽ちているところを見ると……この村で生活しているプレイヤーはほとんどいないみたいだな……まぁ、他にプレイヤーがいないのはあれだけど、まぁ、たかな……じゃなかったエカテリナに付き合わされたついでに、暇な時間を使って遊ぶだけなんだからちょうどいいか」

 正直、ゲーム内で見ず知らずの人達とコミュニケーションを取るとか、いまいちよくわからなかったんで、むしろこの方が気楽でいいな、と、思った俺。

 そんな俺を乗せた荷車は、メタポンタ村の中央近くで停止した。

 

「さぁ、着きました。ここがフリフリさんにお勧めさせていただく物件です」


 荷車から降りた俺は、ファムさんが指さしている方へ視線を向けた。

 そこには……


 正方形に区切られた田畑のスペースが3つ、エル字型になっていた。

 田畑に囲まれている1スペースに小さな家が建っているんだけど……まぁ、当然だけど見事に朽ち果てている。


「ここは、かつて他のプレイヤーが使用されていたのですが、すでにそのプレイヤーが退会なさっておられますので、権利者不在物件になっております。いかがですか? 通常であれば田畑スペース1つからスタートする農作業が、今なら田畑スペース3つに、なんと家までついてきちゃうんです!」

「あ、そうなんだ……最初田畑スペース1つからなんだ……家も、本当はすぐにはもらえないんだね」

「はい、本来ですと家や田畑を購入するにはゲーム内でお金を稼いで、そのお金で購入する必要があるのですが……」


 ここでファムは腰に手をあてて胸を張った。



「私、農家の娘ファムを仲間にしたボーナスとして、私のお勧め物件をプレゼントさせていただきます」

「え? そ、そんなボーナスがあるんだ」

「はい、私ならではのボーナスです。さらに、私と雇用契約を結ぶことが出来ると、もっとすごいボーナスをプレゼントしちゃいます」

「雇用契約……って、それは仲間とはまた違う関係なのかい?」

「はい、仲間は農作業のアドバイスをさせていただいたり、農作業に関する情報をお伝えさせていただくだけですが、雇用契約を結びますとフリフリさんの農作業をお手伝いすることが出来るようになるんです」

「そうなんだ、そりゃ助かるな。で、その雇用契約ってのはどうやったらいいんだ? 契約書的な物を準備するのかな?……」

「いえいえ、そういうのではないんです。私と雇用契約を結ぶためには3つある隠し条件を達成しないといけないんです」

「隠し条件?」

「はい、その条件をすべて達成なさると、私と雇用契約を結ぶ権利が発生いたします……ちなみに」


 ファムさんが右手を前にかざすと、そこにファムさんのステータスウインドウが表示された。

 スリーサイズと体重が???表示になっているのは……まぁ、お約束みたいなもんなんだろう。

 んで、備考欄に

『フリフリの仲間』

 って表記がされていて、その横に3つの○印が浮かんでいるんだが、そのうちの1つが明滅していた。


「隠し条件の1つ

『S級以上の武具を所持した状態で農作業を希望し、私を仲間にする』

 をクリアしていますので、残りは2つということになります」

「え? そうなんだ……っていうか、S級以上の武具なんて、俺、持ってたっけ……」


 腕組みをしながらあれこれ考えていた俺なんだけど……あぁ、そういえばエカテリナから武具をプレゼントされてたんだっけ。

 ……あの武具って、名前の最初に全部『SSS』って文字が入ってたけど……あれって、S級って意味だったのか? ……しかもそのSが3つもあるってことは、あの武具ってすっごく高価なものだったりするんじゃあ……


 俺がそんな事を考えている横で、ファムさんは家と田畑を交互に見つめていた。


「では、フリフリさんがこの家と田畑を所有されたので、初期化して所有者の変更を行いますね」


 ファムさんがそう言うと草ボウボウの田畑と荒れ放題だった家が光りはじめ、ほどなくすると、真っ新な田畑と出来たての家に変化していった。


「1週間放置されると、田畑に雑草が生え始め、家が荒れはじめます。1ヶ月ログインされないと所有権を消失しますのでお気をつけください。また、データを消去された際にも、所有権は消失します。再度ゲームを再開なさっても所有権は復活しませんのでお気をつけください」

「まぁ、要するに適度にログインして田畑の世話をしてればいいってことなんだな?」

「はい、そういうことです。では私は、あなたのお仲間として気まぐれに様子を拝見に参りますので頑張ってくださいね」

 

 笑顔で手を振ると、ファムさんはどこかへ移動していった。

 そんなファムさんにお礼を言いながら手を振り返していた俺。


「……まぁ、隠し条件がめんどくさそうだけど、出来たらファムさんを雇用したいもんだな、優しそうだし、何より最初に仲間になってくれたNPCだしな」


 家の前に移動した俺。

 木製の玄関の扉の横に表札があって、触ったら文字を入力するウインドウが開いた。


「あぁ、名前を入力出来るのか……」


 そこで俺は、


『フリフリ』


 って、名前を入力した。

 ……んで……ちょっと考えた後に、その横に、


『エカテリナ』


 って名前も入力しておいた。

 まぁ、その、なんだ……一応、この世界では結婚しているわけだし、これくらいエカテリナも許してくれるんじゃないかな……ま、文句を言われたら消せばいいか。

 って……なんか、こういうのって小っ恥ずかしいもんだな……思春期の学生がやるような事を、こんなおっさんがしちゃってさぁ……


 表札に並んでいる


『フリフリ

 エカテリナ』


 の文字を見つめながら、とりあえず俺は家の中に入っていった。

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