第33話 王都解放戦②
城のバルコニーから、千里眼魔術で戦況を見ていたエルフが告げる。
「アドラー様、奴隷兵の半数以上が死に絶えました」
「ッッ、ヒポグリフ隊、グリフォン隊、ワイバーン隊を予定通り出撃させろ!」
「はい!」
部下が敬礼をして、アドラーは憎らしげに戦場を睨みつけた。
「野猿共で弾薬を使い切るかと思ったが、連中どれだけの弾薬を用意しているのだ……まぁいい、地を這う猿共を遥か高みから滅ぼしてくれる!」
◆
「敵空軍が出現!」
双眼鏡を持った部下の報告に、雲雪は頷いた。
「来たか! 空軍出現! 全射撃部隊は空軍対策を取れぇ!」
ゴブリン軍後方へと撃ちこんでいた砲撃部隊、棒火矢部隊、待機していたガトリング部隊、そして逃げるゴブリンの背を撃っていた銃兵部隊は一斉に空を仰ぎ見る。
王都から編隊を成して飛んでくる騎兵の群れ。
だがエルフ達が乗るのは馬ではなく、下半身が馬で上半身が鳥のヒポグリフ。そして下半身がライオンで上半身が鳥のグリフォン。前足が翼になったドラゴン、ワイバーンだ。
全射撃部隊が絶叫しながら引き金を引き、点火し、クランクを回す。
上空目がけて巻き起こす鋼の嵐の中、さしものエルフ達も次々撃ち落とされていく。
だが、向こうも上空から火炎や雷撃を放ち、ワイバーンは火炎のブレスを吐いて地上の東和兵を駆逐していく。
すぐ隣の仲間が次々焼き殺され、東和兵は涙を流しながら引き金を引いた。
盾兵は射撃部隊を守る為に身を呈して攻撃を受け続ける。
役に立たない接近戦専門の槍や刀などで武装した白兵は王都へ走り続けた。
最前線の長槍部隊は頭上をグリフォンやワイバーンが通過し、背後で死にゆく仲間
達の悲鳴を聞きながら手足を動かす。
背後で指揮官が叱咤する。
「頭上や後ろを気にするな! お前らはお前らの仕事をしろ! お前らが白兵達の道を作るんだ! お前達がゴブリン部隊を突破すれば白兵が助かるんだ!」
後方にいた白兵はまだ何もしていない、射撃戦にも対空軍戦にも加担できていない。彼らの仕事は狭い街の中に入ってからなのだ。
だが、その前に魔術やブレスに焼き殺された白兵もいる。
「死んだ連中の想いを無駄にするな!」
ホビットを串刺しにされた憤怒を果たせず、何もできずにただ死んだ兵の無念を思えば、長槍部隊達の五体に熱い血が流れるのが止まらない。
『雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄‼‼』
後方への砲撃が無くなり、ゴブリン兵達は次々王都へと逃げ込んで行く。
王都への道を塞ぐ障害は無い、もう誰も邪魔しない。
市街戦に持ち込まれた時の戦力差を無くす為に長槍部隊はなおも攻めるが、その足は既に全力で走っている。
東和軍の目に民家が映る。
その横を通り過ぎる。
誰もが悟る。
「王都侵攻完了‼ これより王都解放戦へ移行する!」
王都へ何万という白兵達がなだれ込む。
王都の端では、射撃部隊が空軍を減らそうと奮戦を続けた。
その時、一頭のワイバーンが突っ込んで来た。
ワイバーンは超低空飛行を慣行。
しゃがみ切れなかった東和兵は、体重半トンの体当たりを喰らって即死。
一度に一〇〇人近い東和兵が死んだ。
巨体を生かした大胆な攻撃。敵は上昇すると再度降下。
東和兵達が悲鳴を上げた途端、一発の砲音が、降下したワイバーンの顔面をブチ抜いた。
ワイバーンは地面に胸と腹をこすって急減速。
相棒の死を受け入れる前に、騎手のエルフは撃ち殺された。
雲雪が勇ましい声を張り上げる。
「よくやった砲兵! この調子だ! 連中を全員引きずり落とすぞ!」
『雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄‼』
◆
「アドラー様。野外に展開した奴隷部隊は壊滅。空軍もヒポグリフとグリフォンの殉職率四割、ワイバーン二割!」
別の部下も叫ぶ。
「東、北、南の三方から王都へ敵軍進入。真っ直ぐこの城を目指して進軍中です!」
「奴らにこの城の城門が突破できるものか! 庭園と城門の魔術師部隊は儀式呪文準備! むっ?」
東の広場から一発の光弾が上空に放たれる。
「よし! 空軍は呼び戻せ!」
◆
外の射撃部隊は、空軍が引き揚げていくことに疑問を感じながら、自分達も街へ入ろうとする。
大砲やガトリング、棒火矢部隊を優先的に街へ入れ、銃兵隊は息を整えながら弾を装填する。
「なんだあれは?」
一人の兵が、西の空を指差した。
街の方から太陽のように輝く巨大な光の玉が移動している。
不気味なその玉を誰もが見上げ、敵の儀式魔術だと気付いた指揮官が全員に散るよう指示を出したがもう遅い。
光の玉は空で炸裂。
周囲に無数の光弾をぶちまけた。
一瞬で広がる地獄絵図。熱弾の雨。
半径二〇〇メートル以内の銃兵が一撃で即死か重傷の被害を受けた。
死体の焼ける匂いに吐き気を我慢し涙を我慢せずに流して、生き残った兵は街へと走る。
重傷者を助けてやりたいが、第二波がいつ来るか解らない。
しばらくすれば本陣から馬に乗った輸送部隊が負傷者を回収しにくるだろう。
だからそれまでは我慢してくれと、心の中で言って武士達は仲間に背を向ける。
◆
王都の中は苛烈の一言に尽きた。
東和全軍が真っ直ぐ城を目指し進軍している。
途中のエルフ達魔術部隊と、魔術VS射撃砲撃の苛烈な撃ち合いで道はズタボロ、民家は倒壊。
火薬と鉛と血の匂いで街を浸食しながら、絶叫と怒号と悲鳴がさらに覆い尽くしていく。
砲音と爆音と破砕音うずまく戦場で、彼らは馬に乗っていた。
北から攻め込んだ鷺澤四季男率いる第五師団。
その第二旅団第一連隊第一大隊第一中隊の第三小隊の面々は馬に乗り、万軍に混じって城を目指す。
第三小隊長橋本連夜の後ろを第二分隊長の龍道戦也が。
そして龍道戦徒。四月朔日和太郎。朝倉愛花。中島成美。田中太郎左衛門。村上宗重、斎藤広。高橋勝也。佐々木麻美がいた。
第三分隊の小林美紀も、第四分隊の鈴木四兄弟もいる。
第五師団は騎馬隊が先頭に立ち、王城までの道を作る。
馬は人間の八倍も重たくスピードもある。
その集団が全速力で突貫するとなれば、熟練の猛者でなければ恐怖で道を開けてしまう。
街へ逃げたゴブリン兵は当然の事、魔術師部隊ですら一瞬気おくれしてしまう。
騎馬隊の前衛には、狙撃能力重視で選んで銃兵の騎馬が並んでいる。
怯んだエルフ達に魔術を使われる前に精密射撃で確固撃破。
橋本小隊長が表情を曇らせる。
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