第31話 世界最強の首狩り戦闘民族

 人は死を恐れる。

 故に死体を恐れる。

 痛々しい、残酷で猟奇的なものを恐れる。

 串刺し死体など、正気の人間が見られるものではない。


 なるほど、確かにアドラーの策は素晴らしく優秀だった。


 人間を貫いた杭を五万本も並べて作った森。

 そんなものを見れば人間は恐怖で動けなくなり、逃げだし、こんな事をする軍とは戦いたくないと思うだろう。


 戦意を失い王都に辿り着く前に軍が空中分解という可能性もある。


 だが、アドラーの誤算はただ一つ。

 それは敵が東和人であり、武士であった事だ。


 武士。

 それは大陸における汚れ仕事や肉体労働ではなく、崇高なる使命を帯びた人種だ。


 ものごころつく前から戦闘訓練を積み、行住坐臥戦闘に備えた。


 己を磨き強くなる素晴らしさ、敵と戦い国を守る素晴らしさ、命をかけ武勇を世に知らしめる素晴らしさを教えられた。


 最強を目指し、戦場で生き、戦場で死ぬ事を誉(ほまれ)とし、一番槍を誉とし、死への先陣を誉とし、仲間の為に死ぬ事を誉とし、自身の腹をさばく切腹を誉とする。

 

そんな、世界最凶の異常戦闘首狩り民族、武士達にとって串刺し死体の森を見て思う事はただ一つ。


 許すまじエルフ‼


 おそらくは、全世界の全民族が串刺し死体の森を見て思うだろう。

 怖い、嫌だ、逃げたい、戦いたくない、許してくれ。


 だが武士は違う。


 よくもやりやがったな!

 この恨み晴らさでおくべきか!

 仇は取る!

 あいつら人間じゃねぇ!

 百倍返しだ!

 生まれて来た事を後悔させてやる!


 町を一つ解放して串刺し死体を見る度、武士達の血潮が煮えたぎった。

 家族を殺された町の人達を見る度、闘争心が噴火した。

 串刺し死体の森を見た時、魂が咆哮を上げた。


 七〇万人の大行進が王都を目指して進む。

 七〇万の足が大地を鳴動させ、七〇万の怒気が大気を震わせる。


 近くの森の動物は巣穴に隠れ、軍勢が歩く平原の小動物は地震の前触れのようにして集団大移動を始めた。


 七〇万の鋼の意志がエルフの蛮行を憎んだ。エルフの非道を恨んだ。


 どんな気持ちだ?

 無力な民が逆らう事もできず、誰も助けてもらえない中、圧倒的な力に蹂躙される気持ちとはどんな気持ちだ?

 何故彼ら彼女らが串刺しになっている?

 彼らが何をした?

 余程の重罪を犯さない限り、串刺しなどという残酷な刑は執行されないだろう。

 では何故執行された?


 理由は単純な見せしめだ。

 エルフに逆らえばこうなるという示威行為。


 死んだ人達一人一人に親兄弟や子がいて、友がいて、好きな人がいただろう。

 死んだ人達一人一人に過去と未来があり、夢や希望があっただろう。


 なのに、なのにだ。

 それら全てを奪い踏みにじった理由が人殺しでも放火でも謀反でもなく、窃盗でも傷害でも詐欺でもなく、まして横領や陰口や仕事の失敗でもなく、ただの示威行為。


 自分に逆らえばこうなると民に、自分達の敵軍に見せつける為。

 自分達の威光を知らしめる為。

 最悪の示威行為、まさしくただの自慰行為。そうだ、最低最悪の自慰行為だ。

 人類史においてこれほどに凶悪な自慰行為があるだろうか?


 ただ自分達の凄さを見せつけたいが為に、民衆を串刺しにして晒すなどという悪が容認されていいはずが無い。

 七人の軍団長が、彼らに率いられる七〇万の軍勢が共通の想いを抱く。


『待っていろエルフ』


 七〇万の軍勢は真っ直ぐ、王都を目指す。


『この国に来た事を、末代まで後悔させてやる‼』


 エルフは今、滅びへの一歩を自ら作り出した。



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 みなさん、本作、【ホビット戦争】をこの31話まで読んでいただき、まことにありがとうございます。


 すでに、お気づきの読者様もいるかもしれませんが、本作のキャッチコピー、青地で表示されているアレですが、変えさせてもらいました。

 残念ですが、本作は多くの読者に愛されているとは言い難く、マイナー属性のホビットのほうが戦いは優勢、というのをアピールしてみようかと思い、

『このホビットさん滅茶苦茶エルフ殺しますやん!』


 と、無双らしさを出してみましたが、需要は微妙だったようです。

 もうしわけない。今は、

『ホビットの根性はエルフ千人分!』


 と、しましたが、あまり印象が変わらなかったらすいません。

 これも、しばらくして微妙だったら変えると思います。


 ファンタジー作品は、今年の二月に【無双で無敵の規格外魔法使い】という状態異常魔法だけで成り上がる作品を書きましたが、戦記物を皆さんにお届けするのは本作が初めてです。

 一応、デビュー作の【忘却の軍神と装甲戦姫】は戦争ものなのですが、舞台が兵士養成学校で、学園モノ要素が強いですし。


 本作のような純粋な戦記物は登場人物の多さ、大人数同士が戦う合戦シーンなど、他のジャンルにはない難しさがある一方で、書きごたえは十分どころか二十分でした。


 あ、ご安心を。最終回ではありませんよ。もう少し続きますよ。

 本作は、ぶつ切りにはせず、ちゃんと一区切りつくところまで投稿する予定です。


 ではまた次回、32話でお会いしましょう。

 


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