第28話 ドラゴンVS霊長類最強

「町人の串刺し死体とかよー」


 部下から一本の槍を受け取り、投げの姿勢に入る。


「つまんねーことしてんじゃねぇぞ‼」


 大砲でもそこまではないだろうという勢いで射出される槍。

 それは正確にワイバーンの脳天を貫き、また一頭のワイバーンが落ちた。


「全員地上のゴブリンを駆逐しろ! クソトカゲ共は俺が殺す」


 神羅は大きく良く通る声で高らかに告げる。

 皆は戸惑いつつも、上官の命令に従った。

 数では圧倒的にこちらが優位。


 銃兵たちも銃剣で白兵戦をすれば、ゴブリン達に勝ち目はない。


 その間に神羅は死んだ武士の腰から鞘だけを抜くと投擲。

 空を駆る騎兵の一人に命中して、騎兵は手綱を操縦出来ずに大きく高度を落とした。


 神羅は近くの家の屋根まで一気に壁を登ると、煙突の上から跳躍。

 ワイバーンの上に跳び乗った。


 あまりに見事な動きに誰もが息を吞んだ。


「邪魔だ!」


 神羅はワイバーンの騎手を素手で投げ飛ばし、代わりに手綱を握る。


 駄目だ。ワイバーンはエルフでないと乗りこなせない。

 ホビットの神羅が乗ったところで、誰もがそう思った。


「おいてめぇ」

 神羅が、地獄の悪鬼がごとき眼光でワイバーンを射ぬく。

「てめぇの主人が誰か言ってみろ」


 ワイバーンは突如味方のワイバーンに向かって大きくブレスを吐いた。


 また一騎撃墜して、神羅は口の端を歪める。


「ワイバーンよりも俺のがつぇええええええええええええええ!」


 そのまま神羅はワイバーンに乗り、まだ二〇騎以上が残る敵を相手に空中戦を始めた。


 当然敵からは、

「有り得ない!」

「嘘だ!」

「あいつは本当にホビットか!?」

 などと言って動揺が走っている。


 呆気に取られる戦徒。

 その時、戦徒が所属する第四師団の師団長、鷺澤四季男が話しかけてくる。


「これで分かったかお前ら。あれが二〇年前の内乱で天宮公を勝利へ導いた稀代の英雄。史上最強の生物鬼龍神羅だ。あの人だけは、常識では計れん」


 四季男の言葉に、戦徒は息を吞み、兄の戦也は素直に『すげぇ、やっぱ神羅すげぇ』と驚嘆した。


「では、我らは我らの仕事をするぞ!」

 四季男は両手に長刀を握り駆けだした。


「待って下さい、師団長自らなんて」

 戦徒の制止も聞かず、四季男はわざわざゴブリンのもとまで走り寄って長刀を振るった。

「生憎俺は根っからの武断派でな! 戦いながら部隊を指揮するのがこの俺だぁ!」


 四季男は三〇台後半だが、まったく年齢を感じさせない、むしろ十四歳の戦徒よりも機敏な動きで次々ゴブリン達を葬っていく。


「よし、行くぞ戦徒! 俺らも乗り遅れるな!」

「お、おう! もちろんだ兄貴!」

「ふぅ、私は白兵戦は苦手なのですが」


 和太郎がゴブリンと武士が入り乱れる乱戦の中、巧みに小銃を操った銃剣術でゴブリンの喉を貫いた。


「命の限り、戦いましょう」


 和太郎を見て、愛花もさすがにこの乱戦では、と射撃ではなく白兵戦を開始する。


 その時、神羅のワイバーンがブレスで敵を一頭、また一頭を落とす中、一頭だけ不自然な動きで墜落するワイバーンがいた。


 師団長の四季男が叫ぶ。

「そいつは降下中だ! かわせ!」


 遠くから一頭のワイバーンが自ら地上へ降下、神羅を無視する作戦らしい。


 四季男は自らワイバーンを討ち取るべく向き直る。だがそれよりも早く、一筋の影が飛び出した。


「俺は、英雄になる!」


 戦徒の兄であり、第二分隊の分隊長、龍道戦也がワイバーンに跳びかかる。


「雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄‼」


 ワイバーンの翼が戦也の体を弾き飛ばした。


 人形のように薙ぎ飛ばされた戦也は受け身を取って、地面から跳び起きる。

 さほどケガは負っていないらしい。


「みんな! このトカゲ野郎は俺に任せて自分の仕事をしてくれや! あの鬼龍神羅がワイバーンを屈服させたんなら、俺は最低でも一人でワイバーン殺すぐらいしなくちゃな! いくぜトカゲ野郎!」


 地上に足を付け、翼と尾を、そして牙を唸らせながらワイバーンは威嚇してくる。

 背中に乗る騎手も、


「馬鹿め! 地上なら勝てるとでも思っているのか!?」


 と言ってワイバーンに鞭を入れた。

 ワイバーンの全長は約一〇メートル。首の上げ方にもよるが、頭の高さは約四~五メートルと言ったところだ。


「兄貴! っ」


 戦徒は助けに入ろうとするが、背後のゴブリン達に気付き、そちらの対応に回った。

 一方、戦也は嬉しそうに口角を上げる。


「一騎当千のワイバーン騎兵! てめぇを倒せば俺様も一気に大英雄だぜ! そんじゃあ俺の踏み台に」

 戦也が俊足の踏み込みで距離を詰める。

「なってくれやぁああああああああああ!」


「島猿がなめるなぁあああああああ!」


 ワイバーンが真上からブレスを吐く、戦也は横に跳んで回避。

 素早く態勢を立て直した所へ尾の一薙ぎが迫った。


「おらよっと」

 跳躍。

 空中で無防備になった戦也を、今度は翼が襲って来るが両手の刀で綺麗に受け止め受け流す。


 堅い。

 刃とウロコを交えた感触はまるで鋼。だが、


「こちとら鋼の鎧を断ち割る東和刀だぜ? そのウロコごと」

 ワイバーンの懐に潜り込んだ戦也が、居合の構えでワイバーンの腹を狙った。

「させぬ!」


 エルフが魔術でワイバーンを操作。ワイバーンは翼で腹を守る、その一瞬前に、戦也は一歩引いて上に跳んでいた。


「なぁっ!?」


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500PV達成感謝です。


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