第23話 戦場の休日

 戦徒達第一陣、十五万の兵が大陸に上陸してから一ヶ月。


 フィンガー王国には七五万の東和軍が集結していた。


 三〇〇隻の戦艦の内一〇〇隻は海上戦に使っていたが、制海権を東和軍が取ったのが大きかった。


 戦艦二〇〇隻に兵と物資を積み込むだけではなく、巨大貨物船を動員。


 大量の兵と物資を積み込んだ貨物船の周囲を戦艦が守る方法で、少ない戦艦でも毎回十五万の兵を運び続けられたし、大量の軍馬を運べた。


 今、東和軍には、二五万の軍馬がいる。

 この軍場の存在が重要であった。


 東和軍は、とにかくエルフが本気になる前に少しでも多くの町を解放させなくてはいけない。


 二五万の軍馬は二五万の騎兵隊となり、フィンガー大陸を駆け廻る。


 基本的に、騎兵は歩兵より強い、だが、最大の特徴はやはりその移動速度と持続力だ。

 物資の運搬には解放した町の農耕馬を使わせてもらった。


 だが軍馬は、力では農耕馬に敵わないものの、その速度と持久力は驚くべきものがある。


 各地の隊の動向、解放状況などの連絡を密なものにしたし、歩兵よりも先に町へ行ってもらい、先に戦闘を始め、歩兵は援軍のようにして参戦し敵軍にトドメを刺したりもした。


 解放軍の編成を騎兵中心に変え、人を高速で運搬する軍馬の活躍で、フィンガー王国東部解放はまたたくに完了した。


 フィンガー王国王都のある西部へ繋がる大湾は、すでに東和軍の海軍が制圧済みなので、次から来る東和本国からの援軍残り二五万は大湾の西側へ上陸する事となった。


「ついに王都侵攻かぁ、なんかとうとう来たって感じよね戦徒」


 戦徒達の所属する軍勢は今、フィンガー大湾を目指し行軍中だ。


 その途中、愛花に続き成美が、

「でもさ戦徒、なんで東部に三〇万も残して行くの?」

「フィンガー王国の北にはエルフの勢力圏のリスト王国があるからな。東部の防衛に三〇万の兵を置いて、残る四五万で大湾を渡って援軍二五万と合流。七〇万の軍勢で王都攻略を目指すんだってさ」

「ふ~ん」


 日が沈み、夕焼け空の赤みが黒く染まり始める頃、前方から指揮官の声が聞こえる。

「今日の宿泊予定地まであと四半刻(三〇分)だ! 止まらず歩けぇ!」

『はい!』


 そうして、戦徒達が以前に解放した町へ入る。

 町は歓迎ムード一色だった。

 町のホビット達が皆で出迎えてくれて、


『東和軍ばんざーい!』

『解放軍ばんざーい!』


 と諸手を上げて喜んでいる。


 今、このフィンガー王国で東和の武士達は英雄扱いだ。


 東和軍の夕ご飯は町の方から無償で提供されて、町中の宿泊施設と空いている部屋という部屋を進んで貸してくれた。


 正直なところを言うと、万軍を受け入れるだけの宿泊施設が無い為、下っ端は野営の予定だった。


 だが、町ぐるみで東和軍の宿泊を歓迎してくれたおかげで、ほとんどの兵がベッドで休む事ができそうだった。


 ちなみに、東和は布団を直接床に敷くので、ベッドの存在には皆驚いた。

 このような歓迎はどの町でも続いた。


 戦徒達東和軍は、大湾へ向けて二日、三日と行軍を続けて、その度に通る町全てで歓待されて、兵は誰もが自分達のしてきた事の正しさを噛みしめる。


「愛花、早く南小国群全土を解放してあげたいな」

「もちろんよ戦徒」


 戦徒と愛花は、そんな会話と笑みを交わし合い、最後に大湾の港町に到着した。


 到着は午前。


 町に到着した部隊から順に、船で反対側の湾、フィンガー王国西部、もう一本のほうの指に渡る予定だ。


 戦徒達第三小隊は夜の船に乗る為、それまでは宿場で自由行動が許された。


「というわけで暇なんだけど、手伝える事あるか?」


 戦徒達第三小隊に割り当てられた部屋の一つ、そこで算用方の静樹は戦徒をジト目で見た。


 部屋の壁際では、鍛冶方の八重が小隊全員分の武器の手入れをしている。


「貴方が手伝えるような仕事なら私はいりませんよ」


 言っている間も、静樹の左手は卓上のソロバンを弾いていた。


 第三小隊の算用方である静樹は、資料と帳面と書類を並べ忙しそうだ。


 資料を見ながらソロバンを弾き、ソロバンを弾きながら帳面に数字を書き込み、そして書類に何か色々と書き込んでいた。


「暇なら許嫁の愛花さんと逢引でもしたらどうですか? 今は戦時中、明日はどうなるか解らない身なのですから。隊内の風紀が乱れるのは良くありませんが、今なら子作りしちゃっても目をつぶってあげます」

「いいねぇ、あたしはあんたの刀を磨いてやるから、あんたは槍を愛花に磨いてもらいな」


 八重はちょうど、戦徒の刀を研ぎ石で研いでいるところだ。


「我が小隊の算用方と鍛冶方はきっついなぁ。ていうか正直言うと、今あいつといたらそういう事しちゃいそうだからあえてここに来たんだよ」


 静樹と八重の顔が青ざめた。


「え? 戦徒さんあなたそれ本気で言っているんですか……?」

「甲斐性が無いとは思っていたけどまさかここまでとは、恐れ入るね……」

「流石はゲス侍です」


 いつのまにか背後に立っていた忍びの涼香。

 さらに後ろには同じく忍びの黒沢が立っている。


「うお!? なんだよ、忍びだからって気配消して後ろに立つなよな」

「私が思いますに、愛花さんは今日一日は戦徒さんと過ごしたいと思っていると思うのですが」

「え、なんで?」


 無口無表情無感動な黒沢が戦徒の肩に手を置いた。


「死にそうになったら、正直に生きろ」

「へ?」


 戦徒は小首を傾げて口を開けた。

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