第16話 ホビット無双!おかわり!

「僕らが大勝できたのは、あくまでも敵が油断していたから。それにエルフ達は南からセン帝国を攻めるのが目的だから、この南小国群を侵略するのに使った戦力はセン帝国との国境線、アーム王国に集めているんだと思う。油断している上に大した戦力も無いんじゃ、十万の戦力を持つ僕らが勝って当然だよね。でもこれからは違う。僕らが勝てば勝つほどエルフ達は油断しなくなるし、僕らは街や村を一つ解放するごとにその街や村の管理や防衛の為に兵を置いて次の解放地へ行かないと行けないから兵力は減る。勝利の数だけ、敵と僕らの戦力は反比例する。これに勝つ方法は一つ」


 人差し指を立てて、橋本はやや声を強めた。


「とにかく素早く解放する事。勝てば勝つ程僕らの兵力は減るけど、相手の油断が消えるには少し時間がかかる。僕ら東和も所詮ホビットだとあなどっている間に、それこそ僕らの戦果を聞いても信じなかったり、信じても軍備を整える前に攻略しちゃえばいいんだ。単純に聞こえるだろうけどこれが一番いい。五日後の援軍を待てば僕らの戦力は上がるけど、五日の間にこの港の出来事がどれだけ広まるか考えれば、悠長に待ってはいられない」


 それからの橋本の説明で、この港町には五〇〇〇の兵を残し、残る兵はそのまま北上して、主要農業町を解放して回るらしい。


 南小国群は東和と違い工業化や近代化が進んでいない為、首都以外に都市と呼べるような街は少ない。


 エルフが多くいるであろう主要地帯を解放すれば、噂を聞いた農村や地方のエルフ達は簡単に逃げるだろうと、とにかく国の主要地を電撃戦で全て解放していく作戦だ。


「じゃあみんな、明日も早いから、今日はもうゆっくり休んでね」



   ◆



『雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄‼』


 十日後の夕方、東和軍は五つ目の農業町へ侵攻した。


 ここで力を発揮したのはやはり九六式小銃だった。


 南小国群は未だ弓矢を使い、単発式の火縄銃でさえ満足な数が揃っていないが、東和は違う。


 軍事力が低くおとなしい国民性の南小国群を蹂躙した奴隷ゴブリン兵達は、東和軍の前衛横列銃兵の弾幕に壊滅。


 弾の装填時間は数で補う。


 まず横列銃兵隊は常に一人飛ばしで撃ち、隣の兵は弾を装填して待機する。


 つまり、横一列に並んだ銃兵はまず奇数番号兵が前方の敵を、弾を惜しまず撃ち殺し、弾が無くなると同時に今度は偶数番号兵が敵を撃つ。


 その間に奇数番号兵は新たに九発の弾を装填する。


 港街よりも開けた場所の多い地形のせいか、飛び道具として銃を持つゴブリンもいたが、数が違い過ぎる。


 東和軍は銃兵部隊を前衛に据え、容赦なく町の中へ侵攻した。

大きな通りを瞬く間に制圧し、民家には刀を持った兵士が突撃して白兵戦にて敵を討ち取った。


 とにかく勢いを大事にしながら戦いは進んだ。

 ちょっと様子を見て、深追いはするな、なんて考えない。


 町の中にはホビットがいるので、大砲や棒火矢を撃ちこむような事はできないが、武士達は自身の武器の他に手榴弾を積極的に使い電撃戦を進めて行く。


「前方! エルフ、無し! 銃兵弓兵、無し!」

「良し! 長槍隊前へ!」


 大きな通りを戦場とする部隊の指揮官が、今後の戦いを考え、長槍部隊へ経験を積ませようとする。


 前衛の銃兵達は銃を縦にして下がると、長さ六三〇センチ、いわゆる三間半の槍を持った集団が前に出て、一斉に長槍を前に突き出し槍衾を作った。


 横列長槍隊は三列に並んで突撃した。


 こうすると、二列目三列目の槍は穂先が遠くなる。敵は仮に初撃をかわしても二列目三列目の槍に刺し殺される事になる。


 長槍兵の、懐に潜り込まれると弱い、という弱点を補う戦法だ。

 無数の穂先が敵前衛のゴブリン達を串刺した。指揮官が叫ぶ。


「抜けぇ!」


 ゴブリンの死体の肉が締まる前に槍を引き抜き、ゴブリン兵が倒れ伏す。


「刺せ!」


 足を進めながら、引いた槍をまた突き出す。

 まだ無事なゴブリン達をあっさりと刺殺し、また引き抜く。


 長槍兵はまるで一つの生き物のように、指揮官の指示に従って槍を突き、引き、足を進め、突貫し、時には一斉に槍を横に振るって敵を薙ぎ倒す。


 高い練度だからこそ実現できる、一糸乱れぬ統制された動き。


 これが、ただ奴隷として酷使される烏合の衆と、本物の戦闘集団との差だ。


 町のそこかしこから銃声と爆発音が響き、武士達は空気の振動を肌で感じながら、あるものは刀で敵を斬り殺し、あるものは槍で刺し殺す。


 見つけたホビット達は保護して後衛の部隊に任せる。


 育てた農作物を保存管理売買する商業地区を抜けて、田園地区も制圧。


「きゃっほーい♪」


 中島成美が愛馬のヒポグリフに乗って空を駆ける。


 魔術で動物を操れるエルフと違い、ホビットは純然たる乗馬力で乗りこなさなければならないので、騎馬武者はいくらでもいるが、ヒポグリフ乗りは希少だ。


 エルフのような大軍団を形成できるだけの数はいないので、東和軍のヒポグリフ騎兵は伝令や偵察任務が主な役目だ。


 しかし、敵の混乱を誘う為、成美を含めた一〇〇人のヒポグリフ騎兵が空から手榴弾を落とし、全て落とすと九六式小銃で空からゴブリン達を撃ち殺した。


「前方にエルフ発見! 退くぞ!」

「アイアイサー!」


 隊長の指示でヒポグリフ騎兵はそれぞれの小隊や分隊に帰り、偵察情報を通達した。

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