第15話 解放、そして戦後処理

「なぁ愛花。エルフが俺らをナメているうちに、少しでも解放するために戦力大量投入しまくって電撃戦しまくるらしいけどさ」

「うん」

「そういうの関係無く、早くみんなを解放してあげたいな」


 愛花の顔が、弾けるような笑顔を浮かべた。

「当たり前でしょ♪」


 愛花が急に手を握り身を寄せて来たので、戦徒はちょっと照れた。


 今は仕事中で、そういう事をしてはいけないと分かっているししないが、戦徒の気持ちの上としては、凄く愛花と接吻がしたい気分だった。


 ――そう言えば俺らこの戦争が終わったら結婚するんだよな。ていうことは戦争終わらないと結婚できないわけで、そういう事もできないわけで、いやでも子作りしたいから戦争頑張って早く終わらせるって、なんだか南小国群の人に失礼な気が。

 

 悶々としていると、兄であり分隊長の戦也が手を振って呼ぶ。

「おーい、この役場、まだ調べてないっぽいぞ」


 呼ばれて役場に入ると、中は手榴弾で燃えたり焦げたり、粉々になった床や調度品で荒れていた。


 激しい戦闘があったらしく、ゴブリンやエルフの死体も転がっている。後で回収班が死体を運び出すだろう。


 ここの探索には、生き残った敵がどこかに隠れている事を考慮する必要がある。

戦徒達は、同じ分隊である戦也、戦徒、愛花、成美、和太郎、広、勝也、麻美、宗重、太郎左衛門の十人で固まって一部屋ずつ確認していく。


 部屋は、戦闘があったであろう死体の転がる部屋と、部屋から外に出て戦ったであろう無傷の部屋に分かれた。


 二階も見て回り、廊下の奥、最後の部屋は大きな扉になっていて、なんだか重要そうな場所に思えた。


『!?』

 近づくと人の気配を感じて、全員戦闘態勢に入る。


 分隊長の戦也の合図で、宗重が前に進み出て長刀を構える。

「破ッ!」

 一瞬の閃きが扉にいくつもの刃を入れ、扉は崩れ落ちた。


 戦徒達は窓の無い部屋に突入して、我が目を疑った。

 愛花や成美、麻美は青ざめ一歩退く。

 逆に戦徒は頭に血を昇らせ、両手の刀を強く握りしめる。


 二〇畳程の広い部屋には、何人ものホビットの女性が横たわっていた。


 ただし、全員裸で、下着すらつけていない。

 うつろな目でぐったりと横たわる女性達の近くには、ゴブリンの男達が動揺した顔でこちらを見ている。


 性奴隷の女性ホビット達を犯している途中で東和軍が攻め込んできて、逃げるタイミングを失いこの部屋に隠れていた。そんなところだろう。


 戦徒は深く考えていなかった。

 ほとんど反射で踏み込み、ゴブリン達を斬り殺す。


 刃越しに伝わる、肉を斬り骨を断つ感触を味わいながら、戦徒は感情を晴らす。


 戦也や太郎左衛門達も同じだった。


 まだ襲ってきていない、もしかしたら無抵抗に投降したかもしれないゴブリン達を、有無を言わさず黙って殺した。


 間違っているとは思わない。


「尋常ではない殺気を感じたので来たら、貴方でしたか」


 廊下の窓から入って来たのは涼宮涼香。戦徒達が所属し橋本が小隊長を務める第三小隊の忍びだ。


 涼香は部屋の惨状を見ると、絶対零度の瞳でゴブリンの死体を見下ろす。

「私は普段、スケベな戦徒さんを豚の汚物だと思って見ていますが、コレは肥料にもならない害物ですね」

「涼香、女性医療班を回してくれ」

「御意」


 涼香が姿を消すと、戦徒はもう一度愛花に、強い言葉で言った。

「愛花、さっさとこの戦争終わらせるぞ!」


 彼女は青ざめた顔で、だが力強く頷いた。



   ◆



 ドラコハンド半島には、二本の指がある。


 半島からさらに伸びた二つの半島、それがフィンガー王国の国土であり、二本の指が作る大きな湾は、フィンガー王国交易の中心である。


 海兵を乗せた一〇〇隻の戦艦は必要な物資と陸兵を下ろすと、そのまま二本の指が作る湾の制圧に向かった。


 そこに停泊中であろう多くのエルフ船舶や戦艦を全て破壊し、さらにフィンガー王国周辺の制海権を取るのが目的だ。


 ドラコハンドを四等分する南小国群はフィンガー王国、リスト王国、エルボー王国、アーム王国の四つ。


 今、東和軍のいるフィンガー王国はサクソニア。リスト王国はラテニア、エルボー王国はレヴニアの植民地で、セン帝国と国境を共有する北のアーム王国は三国で共同支配しているらしい。


 サクソニアは、エルフ三国でもっとも国力のある国だ。

 その船舶や戦艦を叩く意義は大きい。


 残る二〇〇隻の戦艦は、五日以内に十五万の援軍と物資を運んでくると約束してすぐ東和に取って返した。


 つまり、戦徒達第一陣は五日間、十万の兵力だけで一つでも多くの街や村を解放しなくてはならないのだ。


 戦徒達は、所属する第五師団師団長、鷺澤四季雄の全体説明を受けた後、とある宿場で小隊長橋本の前に座った。


「はい、じゃあみんないるね。まず今日は御苦労様。今夜はもう寝ていいよって言ってあげたいんだけど、もう少しだけ僕の話に付き合ってね」


 相変わらずおとなしい人だなぁ、と思いながら第三小隊の面々は橋本に注目する。


「今回、こちらの死人はゼロ。怪我人はいくらか出たけどこれは驚異的な数字だ。奇跡的とも言えるね。でも僕らに勝利の余韻に浸るヒマなんてない。早速明日、僕らはこの港街を発たないといけないんだ」


 橋本は、申し訳なさそうに眉を下げる。

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