第14話 始まりましたよエルフ征伐③

「森猿ごときが調子に乗るな!」


 そんな事を言いながら、エルフ達は手の平を前方に掲げて雷撃を放って来た。


 思わず戦徒達や、他の隊の武士たちは物陰や建物の中に跳びこんで難を逃れる。


 軍事の世界では、エルフ一人の戦力は、ホビット十人に値すると言われる。

 ホビットの槍がエルフを殺すにはホビット九人が肉の壁になる必要があるとも、十人でかく乱してエルフが魔力切れになり刺し殺せる頃には、ホビット十人も魔術で死に相撃ち状態、とも説明されるこの認識は正しい。


 だからこそ、ゴブリンもドワーフも、ホビットの南小国群やセン帝国もエルフに勝てず、侵略を許している。


 エルフの一人が放った巨大な火球の一発が、レンガ作りの民家の壁を破壊した。

 隠れていた武士が驚いてまた退避する。


 エルフ以外の種族が大砲を用いて発揮できる攻撃力を、エルフは無手で、好きな時にいつでも撃てる。


 ドワーフの斧も、ゴブリンの剣も、ホビットの槍も、エルフの攻撃呪文の前には無力なのだ。


 数人がかりで運ばなくてはならない大砲など、狙って撃つ前に破壊されて終わりだ。

 だが、それでも例外はいる。


「調子に乗ってるのはお前らだろうがよっとぉ!」

 太郎左衛門が野性味あふれる目でエルフ達を睨みながら槍を肩に回して駆ける。


「なんだあのホビット?」

「しょせんは森猿。ただ突っ込むだけか」

「焼き尽くしてくれる!」


 最前列のエルフ達が手を前に突き出し、その手から直径一メートル程の火球を放った。

「へっ、馬鹿の一つ覚えが! おらよぉおおおおおおおおおお!」

 途端に、太郎左衛門は上半身が水平になるぐらいのけぞり、膝と脛を地につけて滑った。

 空を見上げる太郎左衛門の鼻先三〇センチを業火が通り過ぎる。


『なぁあああああああああああああああ!?』

 驚愕に空いた口が塞がらないエルフ達。


 太郎左衛門は運動エネルギーの余力でスライディングしたまま器用に立ち上がり、勢いを殺す事無く走り直した。


 エルフ達に生まれた一瞬の動揺を衝いて、太郎左衛門は槍の柄を握り直すと、大きく一回転。


 槍の重量と遠心力と太郎左衛門の膂力を合わせた槍の穂先は、横一列に並んでいたエルフ達の首を同時に六つ落とした。


 味方が殺される。

 見慣れない光景にエルフ達の動揺が加速した。


 魔術に頼り、近距離を苦手とするエルフは瞬く間に太郎左衛門に蹂躙される。


 太郎左衛門は槍を体の一部のように扱う。


 縦横無尽変幻自在、重力を感じさせない音速の槍撃でエルフの一隊を殺すと、広場にいた他の魔術部隊へと次々距離を詰める。


 そうして乱戦に持ち込み、槍の穂先と柄頭を駆使してエルフ達を刺し殺し斬り殺し僕殺していく。


 エルフの指揮官が叫ぶ。

「一度距離を取れ! そう何度も魔術をかわせるわけがない!」

「誰が待つかよ!」

 太郎左衛門に気を取られていたエルフ達の首が、背後からはねとばされる。


 戦也は手柄首だと、次々エルフの首だけを正確に落としていく。


 さらに、二人から距離を取ろうと、逃げようとするエルフの首や顔に次々弾丸が撃ち込まれて、皆意識を失った。


 最も優れた美しい容姿を自称するエルフも死体になればただの肉塊だ。


 顔面に風穴が空いたりひしゃげたり血を吐いたり、他の人間と変わらない、ただの屍だ。


 戦徒達の頭上を、ヒポグリフ部隊が通過して行った。


 彼らは襲ってこない。

 そのまま、北の空へと飛んで、やがて見えなくなる。


 おそらく、現状を報告する為に他の街や基地へ赴くのだろう。


「…………愛花、ちょっと銃貸してくれ」

「はい」


 戦徒は受け取った九六式小銃を構えて、遥か遠くのヒポグリフ隊最後尾のエルフを狙う。


 もう前のヒポグリフはとっくに見えなくなっているが、一番後ろの奴はギリギリ狙えた。


 一発の乾いた銃声と煙が上がると、遠くの影から小さな影が落ちた。


「ありがと、よし、じゃあさっさとこの港町落とすぞ」

「もちろんよ」

 言いながら、愛花は休まず周囲のゴブリン兵や逃げようとするエルフ兵を撃ち殺した。



   ◆



 戦闘は四時間程で終了した。


 港街は完全に制圧。


 生き残ったゴブリンの多くは街の外へ逃げた。


 捕まえたエルフは捕虜にしたかったが、魔術で最後まで抵抗したので、やむなく全員殺した。


 取り上げる武器がなく、魔力が残っている限り無手で攻撃魔術を使えるエルフを捕縛するのは至難の業だ。


「ずいぶん簡単だったわね、本当にエルフ軍って最強なの?」

「まぁ戦力が違うからな。こんな一港町に十万人の戦力を投入すれば当然だろ。エルフ本体と戦ったらこんなんじゃ済まないよ」


 愛花と戦徒は分隊で街を探索しながら、余裕の会話だ。


 奴隷として労働を強いられていたホビット達は皆、港に集めて治療や介抱を受けている。


 彼らはケガをしても無視され、疲れても休ませてなど貰えないのが当たり前だったらしい。


 民家や路地裏でホビットを見つけるたびに他の部隊へ引き渡し、港に連れて行ってもらう。


 その時、どのホビットも涙を流して感謝してくれるのが戦徒は嬉しかった。


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本日2019年12月20日に100PVを達成しました。

みなさん、ありがとうございます。

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