第13話 始まりましたよエルフ征伐②
「我々は解放軍である! ゴブリン兵はおとなしく投降しろ! 俺らの目的はエルフ達だ!」
東和陸軍部隊の叫びは届かず、ゴブリン達が剣や槍を手に駆けて来る。
「ホビットだ、殺せ! 殺せ!」
「殺し放題だ!」
「死ね死ね死ねよぉ!」
東和の指揮官が叫ぶ。
「仕方ない! 全軍突撃!」
『雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄‼』
大陸における最初の作戦は挟み撃ちだった。
三〇〇隻の戦艦の砲撃を使えば港町は簡単に滅ぼせる。
だが、それでは奴隷にされている南小国群フィンガー王国のホビット達も殺してしまうかもしれない。
その為、砲撃は船舶のみ。
それも、ホビットが乗船していた場合、逃げるだけの時間が残るよう徹底砲撃はしない。
あとは港を見て、エルフしかいない場所に目視で撃ち込み混乱させる。
本命の陸軍は港町の近くの海岸から上陸。
セン帝国との国境付近ならともかく、南端に位置するこの国の防備や見張りは手薄で、忍びの援護もあり行軍は簡単だった。
エルフの人口はホビットの十分の一以下。
兵の数も少ないので、エルフ軍の歩兵の多くは奴隷兵であるゴブリン達だ。
エルフはエリート魔術部隊や指揮官を務める事が多い。
東和軍は三万の兵でこの港町を強襲。
ゴブリン兵も相当な数がいるが、武士の敵ではない。
「撃て撃てぇ!」
東和軍の銃撃がゴブリン達を次々撃ち殺し、近づけさせもしない。
路地や施設内など狭い所でも、ゴブリン兵の首は刀で簡単に狩られていく。
まず、ゴブリン兵は武士と違い正当な剣術修行をしているわけではなく、練度には雲泥の差がある。
技術は街のゴロツキ程度。
人殺しに慣れているので、場数を踏んだだけゴロツキよりはゴブリンの方が強いかもしれないが、どのみち戦闘集団である武士の敵ではない。
また、エルフ達のゴブリン軽視と同居するクーデターへの不安から、ゴブリンは装備が悪い。
着ているのは安価な革製の鎧。剣や槍も随分使い古されているし、大量生産の粗悪品だろう。
これで南小国群を侵略できたのは、ひとえに南小国群の軍事力が極端に低かったからで、ドワーフに勝てたのは数の力だろう。
ホビット民族も多いが、ゴブリン民族もかなりの数がいる。
東和軍は戦いながらゴブリンに降伏を訴えるが、長年エルフの奴隷兵として生きて来た彼らに、言葉は通じなかった。
「どけどけぇ!」
東和軍の武士達は破竹の勢いで街を突き進む。
街の入り口から大通りを制圧。
街のかなり奥まで侵攻して部隊が薄く分断されてしまう。
しかし、それを補うように、逆の方角より、新たに二万の武士が港町になだれ込んだ。
ホビット達は農村や漁港で奴隷として使われるのが主なので、港街にホビットの数は少なかった。
船に貨物を積み込む労働力や、街の店で小間使いとして使う程度なのだろう。
戦闘開始から一時間、街中がゴブリンの死体で溢れかえる。
東和軍の目的はあくまでもエルフ軍の降伏。
同じ奴隷にされた者として、ゴブリンも救済対象なので、普通に考えれば殺すのは気が引ける。
だがだ。
例えゴブリン達が喜んで殺戮行為をしているのが、奴隷として洗脳教育を受けているからだったと仮定しても、結局、ホビット達を殺してこの国を侵略する事に手を貸した実行部隊である事を考慮すれば、罪の意識は薄れる……どころではない。
何せ同じホビットでも東和人は、二千年間ことあるごとに島の中で同族殺しに明け暮れていた戦闘民族。武士はその頂点に立つクレイジーな存在。
個人差はあれど、
『嫌なら殺すな、保身の為の殺しも同罪だ』
『一切合切関係ない、俺に刃を向けた以上死んでもいいって事だろ?』
が標準装備である。
「おらおらぁ! 龍道戦也様のお通りだぁあああああああああああ!」
分隊長自ら先頭を走る戦也。
ゴブリン達全ての攻撃をかわし、間をすり抜け、その間にもう両手の刀で首をはね終わっている。
「弱ぇ奴に用はねぇ! 強い奴出せよ! エルフはどこだエルフはよぉ!」
そんな戦也の後を追う村上宗重(むらかみむねしげ)の射程に入ったゴブリンは全て長刀で斬殺。
さらに二人を追う戦徒達のうち、朝倉愛花、四月朔日和太郎、中島成美は九連続で撃てる銃、九六式小銃で前方の敵を手当たり次第に撃ちまくる。
愛花の弾丸は全てゴブリンの眉間を撃ち抜き赤い花を散らした。
成美の弾丸は眉間周辺内には必ず当たって、和太郎の弾丸は首から上のどこかには当たった。
弾が切れると装填しなければならないが、三人に近づくゴブリンは戦徒の二刀流と高橋勝也の長刀、それに田中太郎左衛門と斎藤広の槍の手にかかって絶命する。
太郎左衛門が舌を鳴らす。
「ちぃっ、こんな雑魚相手にしてられるかよ! おい、俺は先に行くからお前らもさっさと来い!」
槍を振り回しながら、太郎左衛門は戦也と宗重の後を追って行ってしまう。
和太郎は呆れる。
「同じ分隊なのに、統率が取れていませんねぇ」
「しょうがない、俺らも行こう」
「では」
言って、和太郎は腰につけた手榴弾八個を一つずつ前に投げながら疾走。
爆発でゴブリン達をまとめて十人以上吹き飛ばしながら空白地帯を走る。
戦徒達も分隊長である戦也に置いて行かれないよう走り、走りながら撃ち殺し斬り殺した。
街の中央広場まで行くと、エルフの魔術師部隊が待ち構えていた。
数はおよそ一〇〇人。
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