第11話 ホビット武士団の海上戦③無双で勝利

 サクソニア艦隊壊滅の報は、戦徒達の艦にも届き皆で勝利を喜んだ。

 皆でバンザイをする中、最初の異変に気付いたのは戦徒と兄の戦也だった。


「おい兄貴あれ」

「おう! 上からエルフだ!」


 戦也の声に甲板の皆が空を仰ぎ見る。

 正面の戦いにばかり気を取られていたが、一部のヒポグリフ部隊が高高度から接近していたらしい。


 敵の数はおよそ三〇騎。

 飛来した火球や氷の弾、雷撃から皆逃げ回り、銃を持つ者は応戦した。


 馬奉行の娘である中島成美が叫んだ。

「あたしのヒポグリフで!」

「いや、数が違い過ぎるし射撃の邪魔だ! 戦徒」

「解っているよ兄貴。いくぞ愛花!」

「ええ!」

 愛花が九六式小銃を構える。


 彼女が集中した瞬間、彼女の世界から自分と敵以外の全てが消えた。


 狙う時間は僅か一秒。

 愛花が引き金を引いた。


 一頭のヒポグリフの背から、眉間を撃ち抜かれたエルフが落ちた。


 さらに、二度三度と愛花は引き金を引き、その度にエルフが落ちていく。


 背後からヒポグリフ兵が一騎迫る。

 狙撃に集中する愛花は気付いていないが、戦徒が素早く反応する。


「この森猿風情が!」

 猛スピードで迫るヒポグリフの、短刀のように鋭く長いツメが愛花に襲い掛かる。


 戦徒は両手に構えた二本の刀でヒポグリフと交差。その右の前足と後ろ足を容赦なく切断した。


「なっ、我が愛鳥の足をよくも! ぬ?」

 エルフが見下ろすと、なんと残る左後ろ脚にホビットがぶらさがっている。戦徒の兄であり、分隊長の戦也だ。


「飛んでる敵ならよう、こうすればいいんじゃねぇのー!」

 戦也はヒポグリフの上に飛び乗るとそのままエルフの首をはねる。


 暴れるヒポグリフから大きく跳躍して、別のヒポグリフ兵に跳び付いて、またエルフの首をはねる。


 戦徒達の艦に狙いを定め、上空を飛びまわるヒポグリフ隊は数をみるみる減らして、甲板の武士達も戦也のあまりに人間離れした動きに目を丸くした。


 まるで曲芸、空を駆るヒポグリフを足場にして戦也は戦っていた。


 戦也をかわそうとすると逆効果だ。


「おいおいつれないなぁ」

 戦也は航路を逸れる相手のヒポグリフの脇腹に刀を突き刺した。


 ヒポグリフが悲鳴をあげて墜落。


 飛び乗られなくても、刀の届く範囲でさえあれば、戦也は確実に騎手と騎馬を殺傷するのだ。


 誰もが戦也に襲い掛からず、無視するように避ける。すると、足場を失った戦也は飛び移る相手がいなくてヒポグリフと一緒に墜落した。


「甲板の上に頼むぜっと」


 ヒポグリフの頭をつかんで、軌道を強引に修正する。


 戦也を乗せたヒポグリフが甲板を直撃。戦也は直前に背中から跳んで落下速度を殺し、さらに忍者顔負けの受け身着地で難を逃れる。


 戦也の俊敏さから、魔術が当たる相手ではないと判断したのだろう。


 着地を見計らったようにして、一騎のエルフが直接、戦也に襲い掛かって来た。


 背後からの奇襲に、戦也は気付かない……フリをした。


「はぁあああああああ!」

 弟の戦徒が裂帛の気合を込めて、刀を一閃。


 遠心力と体重を乗せた鋭い一撃はヒポグリフとエルフ、二つの首をまとめて切断してみせた。


「やるじゃねえか」

「兄貴ほどじゃないよ」


 戦也と戦徒は軽く拳を合わせた。


 それを見た残りのヒポグリフ隊は撤退。


 戦徒達の乗る艦の死傷者はゼロだ。



   ◆



 それから三〇分ほど経った頃。


 戦徒たちは、皆で甲板に落ちたエルフや、ヒポグリフの死体を片付けていた。


 デッキブラシで甲板に付着した血を掃除しながら、戦也は言った。


「戦徒、俺はやるぜ。この戦争で南小国群解放して、俺は英雄になる!」

「何言ってんだよ、当たり前だろ、兄貴ならなれるって」


 それはお世辞でも身内のひいき目でも無い。あの戦いを見れば誰でも思う。


「そんでよ、お前も英雄なれよ、兄弟そろって英雄になるんだ、最高じゃねえか」


 デッキブラシで甲板を磨きながら、戦徒は苦笑いを浮かべる。

「いやぁ、俺はどうかなぁ。まぁそこそこは活躍すると思うけどさ」

「戦徒♪ さっきすごかったね、かっこよかったよ♪」

「ちょっと成美、ちゃんと掃除してよ!」

 愛花が成美を戦徒から離し、じゃれあうように喧嘩する二人。


 

 その姿を眺めていると、これから戦場に行くという実感が薄れて、戦徒はなんだか落ち着いた。その時。


『本艦は、間もなく南小国群へ到着します』


 その一言で、戦徒と戦也は甲板から一気に壁を伝って猿のようにマストへ登った。

 高いところから、二人は手で目に日さしを作り、揃って声を上げた。


「「陸だ!」」


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 本作、ホビット戦争をこの11話まで読んでくれて

 皆さん、ありがとうございます。


 しかしながら、残念なことに残念な状況となっております。

 やはりエルフでないとダメなのでしょうか。

 ホビットやドワーフが主人公だと弱いのでしょうか。

 というわけで、近日中にキャッチコピーを変えようと思います。


 もしも今この11話を読んでいる人の中で

 本作を検索するときは『武士団』で検索しているという人がいたら、検索でヒットしなくなると思います。

 確実にヒットするには『ホビット』で検索してください。


 そして次回からは怒涛の無双展開が始まります。










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