第9話 ホビット武士団の海上戦①
『総員戦闘配置につけ! 総員戦闘配置につけ! 総員戦闘配置につけ!』
前方にエルフ国サクソニアの艦隊を発見し、東和の各艦はただちに戦闘態勢へと入る。
一〇〇隻の戦艦の全砲門が一斉に開き、ドワーフのアームストロング砲を改良した東和製大筒カグツチが突き出る
。
甲板には九六式小銃を持った海兵隊が並ぶ。
それだけではなく、これまたドワーフの作りだしたガトリング砲という機関砲を改良した、東和式多銃身機関砲キツツキを各艦に三〇門配備。
一〇〇隻の戦艦は、まるでハリネズミのようだった。
艦は敵艦隊に砲門を合わせると、
『放てぇえええええええええええええええええええええええ‼‼‼』
各艦の指揮官が声を張り上げ、遥か遠くに見えるサクソニアの艦隊七隻に集中砲火を浴びせた。
雷一万本を束ねたような世界をつんざく轟音が海を支配した。
一〇〇隻の艦隊は、背後を進む艦も前の艦を飛び越えるよう弓なりの砲弾を撃ち続ける。
一〇〇隻の艦隊から常に数千発以上の砲弾が放たれる。
破滅の嵐が集中豪雨となりサクソニア艦隊を襲った。
だが、艦隊は結界魔術により、半透明の壁に阻まれた。
無数の砲弾は全て、艦には届かず手前で爆発。
それでも、東和の艦隊は諦めない。
「日頃の訓練の見せどころだてめぇらあああああああああ! 死んだ気で撃ち続けろ!」
『雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄‼‼』
カグツチの射角は保ったまま、小柄だが鍛えこんだ肉体を汗に塗れさせたホビットの男達が、次々カグツチの尾栓を開け、砲弾を押しこみ、尾栓を閉め砲撃、また尾栓を開け、これを繰り返す。
アームストロング砲はホビット同様小柄ながら、筋骨たくましい体を持つドワーフが作った兵器だ。
他の種族では使いこなせないと言われた兵器だが、東和のホビット達は口径を変える事なく改良、新式大砲カグツチとして使用した。
改良するさいに、多少は次弾装填がしやすくなっているが、砲弾の重量と口径だけは変えなかった。
世界で最も小柄で華奢なホビット達は、頭に血管を浮かべ、歯を食いしばりながら一発五〇キロの砲弾を、尾栓係りと息を合わせながら次々装填していく。
まるで全力疾走。
常に全筋力全瞬発力を総動員して、男達はカグツチを撃ち続ける。
各艦の艦長達は、今か今かと敵艦隊を睨む。
全ての攻撃を防御魔術で防ぐサクソニア艦隊。
これぞエルフが世界最強と言われれるゆえん。
本当に、絶望的に、だが現実として、魔術の力は強力無比の一言に尽きた。
だが。
「どんな守りも守備力以上の攻撃を受ければ破られる」
どの艦の艦長達も、誰も諦めずに、鋭い視線で敵艦隊を睨みつける。
そして次の瞬間、防御魔術にヒビが入った。後は早かった。
波紋のようにヒビが広がり、ガラス細工のように砕け散って、防御魔術は消滅した。
「休まず放てぇええええええええええええええええええええええええ‼」
地獄の豪雨は止まらない。
防御魔術を失った敵も撃ち返してきたが、数が違い過ぎる。
サクソニアの放った砲弾の多くは外れて海に落ちて、当たった砲弾も当然一発では東和の戦艦に大きな損害を与えられるわけではない。
圧倒的な数の差。数の力。数の暴力。
サクソニア艦隊は火を噴きながら遁走。
しかし、追いかける東和艦隊は見た。
サクソニア艦隊から、無数の黒い影が飛び出すのを。
砲弾をかわすように、外から大周りにこちらへ向かって来る集団がいた。
双眼鏡で確認して、各艦の艦長達はまた叫ぶ。
「ヒポグリフ隊が来るぞぉおおおおおお‼ 射撃部隊準備ぃいいいいいいいいいいい‼」
全艦隊の甲板に居並ぶ武士達が九六式小銃を、そして多銃身式機関砲キツツキを構える。
エルフ軍がゴブリン、ドワーフ、南小国群全てを瞬く間に滅ぼし侵略できた理由。
それは、エルフ特有の魔術と、その魔術で操るモンスターの存在だ。
東和ではごく一部の熟練騎馬兵が、ヒナ鳥の頃から育ててようやく乗りこなせるヒポグリフ。
それをエルフは、馬と同じ感覚で簡単に乗りこなしてしまうのだ。
船を遥かに超える高速飛行。
まさしく、一迅の風となり迫るヒポグリフ部隊は、海上戦では無敗の王者だ。
世界のどの海軍も勝てた事は一度も無い。
武士達の目に、エルフが映った。
ホビットとはまるで違う。
金色の髪と瞳、白い肌、長く尖った耳、高い身長。
そんな彼らが下半身は馬、上半身は鳥の怪物ヒポグリフを乗り回し、片手で手綱を保持したまま、もう片方の手をこちらにかざす。
「放てぇえええええええええええ!」
艦長ではなく、甲板の各指揮官が射撃部隊に指示。
無数の弾丸がヒポグリフ部隊を襲う。
だが、鈍重な戦艦とは違い、俊敏なヒポグリフ達は急上昇や旋回を駆使して弾幕を逃れる。
逆にエルフが、直径一メートル程の火球を手から放った。
甲板に飛来する何十何百という火球。
九六式小銃を構えた武士達は慌てず、火球が自身に近づくと銃を縦にして下がる。同時に、隣に立っていた大盾兵が前に出て火球を防いだ。
銃兵と楯兵の組み合わせ。
銃兵は相棒を信じて臆さず怯えず果敢に敵を撃ち続け、攻撃が来ればサッと身を引く。
離れていた時は弾幕を避けられたヒポグリフ部隊も、近づけば数の差に負けてハチの巣だ。
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