第6話 小隊長が地味でもいいじゃないか
「すっごーい♪」
ブレス諸島の軍港で、戦徒の幼馴染である中島成美が、戦艦を見上げて声を上げた。
今まで戦徒達が乗っていたのはただの輸送艦だが、軍港には見上げるようなマンモス艦が端から端まで並んでいる。
南小国群では未だに木造帆船を使っている一方で、東和軍が所有する軍艦は鉄製装甲を持ち、帆ではなく、最新の蒸気機関で高速移動が可能となっている。
今は砲門が閉じているが、艦の側面にはドワーフのアームストロング砲を改良した東和式最新大筒、カグツチがズラリと装備されている。
「ねぇねぇ見てよ戦徒、あたしこんな凄い船見たことないよ」
興奮しっぱなしの成美に、戦徒も喉をうならせた。
「東和じゃ鉄鋼船は昔から使っていたけど、ここまで大規模なのは無かったろうな」
「それが三〇〇隻ですから、相当な予算がかかっていますよ」
算用方である設楽静樹が眼鏡をずり上げ、ソロバンを弾く。
「元から幕府が保有していたものと全国の大名が保有していたものや、大型鉄鋼船を改良したものも少なくありませんが、あらたに建造した艦は一〇〇隻はくだりません。この三〇〇隻で十五万の兵と物資を大陸に運ぶそうです」
「それは途方も無い金が動いてますねぇ」
実家が商人の四月朔日和太郎もアゴに手を当てて感心した。
戦徒が問いかける。
「へぇ、そんで、お前の実家は何を売ったんだよ?」
「幕府の依頼で硝石三トンと米三〇〇〇表、兵一万人の日用品二カ月分。あと鉱山経営者と交渉して石炭を安く、ね」
和太郎の笑みを見て、戦徒達は『どんだけ値切ったんだよ』と心の中でツッコんだ。鉱山経営者の泣き顔が頭に浮かぶ。
「しかし、一次遠征隊は後方支援も含めて一〇〇万人。これを二カ月で大陸に運ぶのですから、ハードスケジュールなんてもんじゃありませんねぇ」
「どうでもいいじゃねぇか」
和太郎の言葉に水を指すのは戦徒の兄、戦也だ。
「一次遠征の第一陣、最初の十五万人に選ばれたんだ。このまま戦場でも一番槍をもらうぜ!」
「兄貴、張りきるのもいいけど、空回りはしないでくれよ」
「あん? なんだよ戦徒、お前びびっているのか?」
「そ、そんなわけないだろ!」
兄にからかわれて、戦徒は慌てて弁明する。
「俺だって武家に生まれて幼い頃から剣槍弓銃乗馬って全部叩き込まれているし、もしもの時は戦場に出るつもりで生きてきたんだからな」
戦徒がちょっと大げさなぐらい胸を張って言うと、戦也が急に背中を叩いてきて戦徒は咳き込んだ。
「うし! その意気だ。取るぜぇ、大将首!」
戦也は脇差を勢いよく抜いて天に掲げ笑った。
小隊長の橋本連夜が遠くから穏やかな声で『軍港での抜刀はやめようねぇ』と言っているが、聞こえていないらしい。
「ねぇ戦徒君」
「なんです小隊長?」
「僕って地味?」
「え?」
橋本は距離を詰めて、笑顔のまま聞いてくる。
「地味かなぁ?」
「え、えーっと、うちの兄貴が派手なだけです!」
「だよねぇ、よかったー。じゃあ第三小隊のみんなはこの船で南小国群に向かうから、早く乗ってね」
武将らしからぬ平和そうな顔で、橋本小隊長はみんなを先導した。
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昨日から投稿を始めた本作ですが一話切りする人が少ない反面
お風呂回の二話三話で読むのをやめる人が多い
つまり一話切りならぬ、二話切り、三話切りが多いようです。
本作に性描写があることは告知済みなので
エロが嫌だったのではなく、ヒロインたちが主人公以外の男子の前で裸なのが嫌なのかな、と思いました。
なので、フォローになるか分かりませんが、二話のラストに、江戸時代以前の日本のお風呂事情について解説を加筆しました。
加筆前の二話を読んでここまで来ている人のために、こちらでも解説します。
江戸中期以前の日本は男女混浴が普通でした。
それを老中の松平定信さんが、けしからん、ということで禁止しました。
日本は古来より裸に寛容で、裸に対する嫌悪感、批判は無く、そのことを宣教師も驚いていたようです。
ただし、
羞恥心がない、裸が平気、という意味ではないと思われます。
現在でも、海なら水着でも平気ですが、街中を歩くのは恥ずかしいですよね?
それと同じで、江戸以前の日本人は、異性、男女間でも、
『いや、風呂場だし……』
という感覚だったのでしょう。
それと以前、テレビで北欧のとある国のサウナ文化を紹介しているとき、今でも混浴でした。
番組スタッフが、男性客の前で裸で恥ずかしくないのか、と女性客にインタビューすると、サウナで裸は普通でしょう、という解答でした。
間違っても、本作のヒロインたちがヌーディスト、というわけではないのでご注意ください。
また、
銭湯、大衆浴場は社交の場でもあり、【裸の付き合い】がありました。
みんな【裸】だからこそ服装から身分がわからない。金持ちも庶民も対等に気兼ねなく初対面の人とお喋りができた。
あと当時は犯罪者には刺青が彫られたので、裸は身の潔白の証明でした。
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