第16話 「私はね。悪い奴らをブッ潰したい」(2)
「……!?」
あのエレナですら、何が起きたのかと目を見張って驚いている。
「ほう」
パンチを出した男が声を漏らした。
「完全な不意打ちで殴ったつもりだったが……別のテーブルから見ててバレるもんかね」
「ちょっと……俺の『眼』は特別なもんで」
レストランの中が混乱に満ちていく。
殴られそうになっていた客も逃げていく。
ワルツたちウェイトレスが避難誘導し、なんとか落ち着かせようとしているが、限界がある。
「何がどうなれば……いきなり人を殴るなんてことになるんだ」
俺が問いかける。
「別に。
不審な男は飄々と答えた。サングラスをしており、その表情はわからない。
「条件……だと?」
「そうさ。何もないのに殴られて、倒れる奴はそれまでだ。そこで生き残れるヤツにこそ、真の強者の資格がある……
男はあくまで伝聞の形で話す。コイツ自身の感情がまるでわからない。
「そういう意味じゃ、君はその資格があるんだろうな。ハッハッハ、合格なんじゃない?」
「何の資格だよ。そんなモンいらない」
「まあまあ、俺にばかり怒るなよ。俺は言われてやってるだけだし――」
――パチン。
男が指を鳴らす。
「ここにいるのは、俺だけじゃないんだしさ」
直後。逃げる客に混じっていた何人かが、武器を持って跳びあがった。
「なっ……!」
「行け」
サングラスの男が命令すると、一人、二人……三人。それぞれが客に襲い掛かる。
「――了解」
「おう、やったらァ」
「は……はは、はいっす!」
男が二人、少女がひとり。四人できていたのか。
「
「あっ……!」
が、最後の少女は妙に腰が引けていた。アリサが即座に反応し、モップでその攻撃を受け止める。
だが、他の二人は止められない!
「……っ! そんな……!」
エレナも戦おうとしたが、悔しそうに踏みとどまった。
彼女は、今日すでにギフトを使ったことで倒れているのだ。
これ以上戦うわけにはいかないだろう。
止められなかった二人は、容赦なく一般客を攻撃した。
「うっ、うわぁ!」
「ひぃっ!?」
不意打ちによりHPがゼロとなり、あえなく「ダウン」状態となる。
つまり……動けない。そんな彼らに近づき、襲撃者たちは頭を掴んだ。
「なっ、何を……!」
俺は止めに行こうとした……が、滑らかな動きで、サングラスの男が間に入る。
ただ者じゃ……ない。
その一秒ほどの間で、襲撃者たちは「仕事」を終えた。
掴まれた一般客の頭がぼんやりと光り、しばらくして収まった。
「うわっ。何をされたんだ!?」
ダウン状態のまま困惑する客たち。しかし、すぐに気づく。
「……? ない。アリーナで稼いだ全財産と、ランキングポイントが……! 順位も最下位になってる!」
「う、うそだ……俺はここまで貯めるのに二年かかったんだぞ!?」
俺は一瞬、理解できなかった。
他人の金や順位を、奪う。もちろん普通そんなことはできない。
何か……ハッキングみたいなことをしたのか? そうとしか思えない。
「はいはいお静かに。金とポイント……目に見えるのはそのあたりか。他にもギフトの詳細仕様とかユーザーアカウント情報とか、取れるデータはあらかた貰ったよ」
サングラスの男は平然としている。
平然と、こんなことが出来るというのか……!
「まあ、とにかく諦めてくださいな。どんな形であれ『バトルに負けた』のはあんたらだ」
「今のが……バトルだって?」
「ん? まあ、そうなんじゃない?」
男は当たり前だ、とでもいうように笑った。
その嘲るような笑いが……俺の中に熱を生み出した。
まるで、このゲームそのものを侮辱しているような……そんな笑みに見えた。
「――エレナ!」
俺は叫んでいた。エレナがハッとこちらを見る。
「こいつらは『悪』か!?」
それを聞いたエレナは……拳をぎゅっと握り、叫び返した。
「……! もちろんよ!」
俺は、ちょっと安心した。
期待通りの答えだったから。
「俺も! そう思う!」
そうだ。奴らが何者か、どんな目的を持っているのかは知らない。
が、例えどんな崇高な意思のもとに行われたのだとしても。
コイツらがやったことは……「ゲーム」じゃない!!
俺は両手を構える。いつでも戦いに入れる構えだ。
「お、やるかい?」
サングラス男が応じるように片手を握った。
「こっちは悪とか、どうでもいいんだがね。ただ『敵』なら倒すよ?」
「……負けるもんか。楽しいゲームの世界をぶち壊しにしやがって」
俺は答えた。やるしかないと思った。
「俺が、お前を倒す……!」
「おお……イイ空気出すじゃないか。いいだろう。やろうか」
――パチン。
男は再度、指を鳴らした。
それが合図になった。
サングラス男の他の三人が、ぐるりと向きを変えて俺に飛びかかってくる!
「何しろ……こっちの目的は、
何……? 最後の台詞は気になる内容だった。
最初から、俺たちを襲うつもりで? コイツら、まさかエレナを――
――違う!
今はそれを考える時じゃない。三人の敵が俺に迫ってる。
サングラスの男は俺を動揺させるタイミングで、あえてその言葉を選んだのだ。
頭の切れる相手だ。くそっ。負けてたまるか……!
俺はギフトを発動した。
――「
体感時間が遅くなる。体の周囲をプログラムコードの模様が走り抜ける。
俺は四人の敵を見渡して、それぞれの「未来」を先読みした。
目の前のサングラス男の未来は――不動。
一歩たりともそこから動く様子が感じられなかった。
一方、俺の背後に迫る三人はそれぞれ攻撃の様子を見せている。
先に三人に襲わせて、自分はトドメの機会を窺おういうことだろうか?
なかなか厄介だ……どうしようか。
と、思った矢先だった。
「……後ろを対処なさい!」
アリサの声がした。振り向くと、彼女は笛を咥えている。
――ギフト〈マテリアルサーカス〉!
ピピピピピ……と細かい笛の音が連続して響く。
そして瞬く間に数本に増えたモップが、サングラス男に向かってミサイルのように飛んだ。
男はたまらずガードする。これで、こっちは心配なさそうだ。
「――ナイスアシスト!」
あっちは任せよう。俺は三人に向きなおる。
ここからは、いつも通りいこうじゃないか。
一人目は、両手の指をかぎ爪のような形に曲げた。俺には、そこから鋭いツメが伸びる未来が見えた。
だから、その前に腕を蹴り飛ばす。
「ぐあ……ッ!?」
あわれ、そいつは伸ばしたツメで自らの胴体を貫いていた。すごい威力だが……向きを変えてやったからな。これでまずは一人。
二人目は、武器として刀を持っていた。それが「装備系」のギフトなのか、もしくはアリサのモップのような単なる持ち物なのかはわからない。
ならば――あれには触らずに倒す!
俺はスライディングで剣士に近づき、すれ違いざまに足を掴んで倒してやった。
これでもう刀は満足に使えない。すると遅れて刀身が赤く光り出した。
やはり装備系ギフトだったか……だが、もう遅い。
俺は相手を引き倒しながら起き上がり、その背に思い切りかかとを叩き込む。
「がぁッッ!」
これで二人。あと、一人!
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