第3話 二人の少女

「あなたとは仲良くなれる気がする」

その言葉がとても嬉しかった。

私がしゃべれないと知った人たちは、いつも私から遠ざかっていったから。

初めての友達ができるかもしれないという期待に胸が踊る。


『いいよ!』

白い表紙のスケッチブックを抱えて不器用に笑う。

(やっぱり上手く笑えないな…)

「じゃあ自己紹介からね!」

「私は 星川ほしかわ 有栖ありす。アリスでいいよ」

「好きなものはスイーツかな」

「あと、体を動かすのも好き!」

「気づいてるかも知れないけど、私はハーフなの」

「お母さんがイギリス人でね」

「この白い髪は生まれつき、アルビノって言うのかな?」

「日傘が無いとお外も歩けなくて、ちょっと不便なんだけどね」

少し寂しそうな顔で、アリスは微笑む。


「私ばっかりなのも変だから、次はあなたの番ね」

言って、今度は楽しそうに笑う。

「ゆっくりでいいよ」

その優しい気遣いに頷いてから、スケッチブックに書き始める。

『私は 月夜つくよ かぐや』

『本を読むのが好き』

『甘い食べ物や可愛い物も好き』

『運動はちょっと苦手』

私が書いていく文字は、普通の人よりは早いけど人の話す速度と比べると大分遅い。

それでもアリスは急かさずに私の話を聞いてくれる。

今まで私にこんなに興味を持ってくれた人は初めてで、ペンを持つ手が震える。


『今日まで、誰とも話したこと無かった』

『こんな普通の話ができて、嬉しい!』

そうして書いていくうちに涙が頬を伝う。

これまで誰とも話せなかった悔しさ、自分だけが話せないという理不尽さからというのももちろんある。

でも、今は純粋に嬉しかった。

こんなゆっくりとしたやり取りの中でも、最後まで待ってくれるアリスの優しさが。


そんなかぐやを見て、アリスは優しく抱きしめる。

「今まで辛かったよね」

「わかるよ、私も皆と違うってだけで嫌な思いをいっぱいしてきたから」

「小さいし、日傘が無いと外にも出れないから皆とは遊べ無かったし」

「髪の色が違うってだけでからかわれたりもした…」

(この子も、私と同じ…)

(周りと違うのは、そんなに悪いことなの?)

そうかぐやが思い悩んでいると、

「でも、もう大丈夫だね!」

おもむろにそう言ったアリスがかぐやと目を合わせて、

「だってもう1人じゃないもん!」

「私のルームメイトがかぐやで良かった!」

「他の子だって、皆どこかちがうのに」

「皆と違うって悩んでたのが、馬鹿みたいだよ」

「それに、今考えたらおかしな話だよね」

そう言ってアリスは笑う。

最初に見たときの物憂げな表情はもうない。


『私も!私もアリスがルームメイトで良かった!』

(まだ上手くは笑えないけど、アリスと一緒なら高校生活も楽しくなりそう!)


「今日からよろしくね!かぐや」

『よろしく!アリス』


少女たちは語らい続ける。

月を隠していた雲は流れ、暗いだけだった夜に優しい月光が差す。

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