第2話 ルームメイト

高校進学を決めて、寮生活を選んだのは良いけれど、全く不安が無い訳じゃない。

今まではお母さんが居てくれたし、この学校の寮は二人で一部屋。

その上原則としてルームメイトは卒業するまで変わらない。


つまり、ルームメイトとの関係作りを失敗したら、高校生活まで灰色になってしまう。


私が入寮したのは、ちょうど12:00くらい。

この学校は寮の門限である21:00までに入寮すれば良いから、ルームメイトはまだいない。

寮の部屋は結構広くて、玄関のドアを開けて左側に寝室、右側にバスルームがあり、入ってすぐのところがリビングとキッチンになっている。

(掃除大変そうだな…)

これからのことを考えて少し不安になりながら、荷物をほどき始めた。


16:00を回ってほとんどの作業が終わったところで、静かにドアがノックされた。


入ってきたのは綺麗な白髪の少女。

透き通るような白い肌。

自然に流れた長髪は腰丈まで伸び、眠そうに開かれた瞳はサファイアのような青い色。

身長は平均より低めの私よりも低い。


今日は入寮日だけど授業は無いから、制服ではなく私服で入寮する生徒も多い。

私はジーンズにワイシャツ、その上にベージュのカーディガンを羽織っている。

彼女もそのようで、白いフリルのワンピースに身を包んでいた。

手には、彼女には少し大きな白い日傘が握られている。

(可愛い!)


こんな時、声が出る人がとても羨ましい。

でも私にだって、最低限の意志疎通が図れるようにと、お母さんが用意してくれたスケッチブックがある。

中学までは小中一貫で、人と話す機会もこれを使う機会はほとんど無かったけど、

(高校からはいっぱい書けるといいな…)


そんな事を考えていると、

「こんにちは」

鈴の音のように優しい声で、白髪の少女が言う。

『こんにちは』

早速ペンを走らせて挨拶を返す。

「あなた、しゃべれないの?」

今まで何度も言われた言葉。

憐れみ、軽蔑、嘲り、好奇、不快、今まで私に向けられたその質問はいつもそんな感情と一緒に飛んできた。

でも今回は、ただ純粋な疑問。

悪意は一切なく、空腹か尋ねるかのように自然に向けられた質問に一瞬戸惑って、小さく頷く。

「そっか…」

「ねぇ、もし良かったら少しお話しない?」

「私、あなたとは仲良くなれる気がする」

どこか物憂げな表情をした彼女が優しく笑う。


窓の外では、落ち始めた西日は世界を赤く染めている。


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