魂の解放

 彼は指をさして、最後の質問をする。

「今のあなたの世界はどう映っていますか?」

 最後に美和子と言う名の仏に向かって指をさすとは。つい笑ってしまう。

「雨が降っていたさっきまで」

「そうですか僕にはそうは映っていなかった。今夕日が落ちかけているところです」

 そこで違和感を納得する。彼は最初ここを訪れたとき傘をさしていなかった。

「そうなのか、こちらでは朝日が美しい。雨がやっとやんだ。最後に聞いていいか?」

 わたしに指をさし続けていた彼は「寂しいことを」といい、「はい」といった。

「わたしのしかばねはどこにある?」


「それはあなたの座っている、賽銭箱の中ですよ」


「そうか、見つけてくれてありがとう。君、いや幼かった少年。大きくなったな!」

 美和子は最後に頬の緩みが止まらなかった。

 そうか、彼を待っていたのだ。いつもいつも。何度もなんども。

 そして悟ったのだろう。

「師匠、いつかまたお会いしましょう」

「あぁ、もちろんだわたしは先に逝くぞ」

 わたしが死んだからこの事件はうやむやにならなくてすみそうだ。謎を解く彼はわたしとは違い大丈夫だろうと美和子はなぜか妙な自信を持つ。

 少年に危ない橋を渡らせてしまうと知りながらわたしはサヨナラのかわりに彼の頭を撫でるようにした。昔のように。

「師匠、」

 そう彼は呼んだがもう彼の目には美和子の姿はなかった。

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