幽霊の罠

 そうわたしは、しんだのだ。


 そして、この少年に頼んだかもしれない。こんなにあやふやな気持ちなのは、昨日以降のほとんどの記憶がないからだ。

 死んでしまうと人間の時の流れは、生きていた頃と違うような気がする。

 わたしが幽霊を見えなくなったのは、あの朝だった気がする。

「とにかく、気づいたらここにいてそしてずっとずっと誰かを待っていた」

 誰を待っていたのかは覚えていない。

「わたしは刑事をしていた。幽霊に聞けば殺人は解決することが早く、よく犯人あつかいされていた。いくども謎を紐解き、わたしはある事件を調べることとなった。そのときある幼い少年の幽霊と会った。せめてその幼い彼にできることだと思い死体を見つけてあげようとした」

 一息すると腹をくくったように続けた。

「神社のすぐそこにくじ箱があったんだ。わたしは、引くわけでもなく近づいて箱を調べようと持ったときだった、そこからの記憶がいっさいない」

「単独行動をとっていたんですね」

「あぁ、その殺された行方不明だった幼い幽霊とある頼まれた事件の犯人の目星がついた、それは繋がりがあったからだ。でも上は、なにも聞かず単独行動がわたしのお決まりだった」

 すべて繋がってしまう犯人。

「灯台もと暗し、とやらでね」

 その幼い少年が神社内に、埋まっていたのはわたしをわざと始末するための策略だと深く考えてはいなかった。もし悪気のない霊を使う化け物だと知っていたら。

 わたしはその霊をほおっておけただろうか?

 そういえば、わたしが死ぬ前くらいに意図せずこの町のあちこちの神社にくじ箱が置かれていた。

 きっと全てに大凶が入っていたのだろう。

ターゲットはわたしだけだから、無差別に単独でお参りに来る人間を襲ったのだろう。

 殺しても殺さなくてもよかったのだろうか?

 流行りのおまじないだ、目立ちすぎないでもわたしが興味を持つには容易い事件だ。

 叔父は有名な刑事で変わり者で、それでもわたしより信頼の厚い刑事で、わたしもできることならあの人のようになりたかった。連続殺人の犯人までたどり着いたのに、わたしはわたしのせいで誰かを傷つけてしまった。それも子供たちをだ。唯一、大凶を引いたわたし以外の人は奇跡的に生きている。

 子供たちが多かった。

 良かったのだろうか?

 結果的にその噂は広がり、だから、

「大凶を引こうが引かなくとも、わたしを一人の時に狙い、わざと当時のおまじないに誘い込むためのトリックだったんだな」

「師匠に事件をとかれたらまずいと思ったのでしょう。そして他の神社に大凶を残し遺品も置いて、行方不明となったわけです」

 そうすればおまじないに巻き込まれたあまり事件性の薄い神隠し。と思ったのだろうか?おまじないの中でも最悪のじたいだった。

 ニュースにすらなった。

「君に聞いてもいいか?」

「愚問ですよ、探す理由なんて探したいと思ったからです」

 彼は苦笑した。見透かされた。たぶんだけど最初から彼はわたしの死体のありかを知っていたんじゃないだろうか。

「あなたの亡骸を見つけてしまい。なのに僕には特別な人が師匠以外にもできてしまいました」

 彼は、なにか苦しそうなそれでもにこりと笑うようにわたしを見た。

 その顔を見たくなかったのに。

 それは、とても素敵なことなのに。

「この今回の依頼主は、昨日のあなたなんです」

 わたしは、思う。生きている人間とでは時の流れが違うことを。

「そうかそうか、わたしの時間はもうとっくに止まっているというのを知っているはずなのに」

わたしの呟きに「はい」と彼は受け取ってくれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る