第3話 現在から過去を辿る。
暫く山を登っていくと、森宮宅・・・いや、「元」森宮宅がそこに佇んでいた。
てっきり取り壊されているかもな、と思っていたが10年経ってもまだ現存していたようだった。(雑草がぼうぼうにはなっていたが。)
あの大きな門にはツタが絡みついていたし、所々に傷みが出ていて10年という時の流れを感じさせた。自慢の庭もどうやら荒れ果てていたようだった。僕はとりあえずパジェロを門の横にそのまま止めて屋敷の敷地の中に入った。そして、暫く「森宮~!」と呼びながら敷地の中をグルグルしていた・・・・がどこにも人の気配はなく、森宮もいなさそうなのであった。
うーん、やはりあの時の約束は方便だったのか・・・・。と考えを巡らせながら、ふと庭にまだあった金木犀の木の元へ向かってみた。あれから長い年月を経ていたから、もう朽ちているかもしれないと思っていたのだが、そう考えていた僕に「久しぶりだな」と言わんばかりにこの金木犀の木はガッシリとした幹と、鮮やかな葉・・・・・そしてあの時と同じ甘い金木犀の木の匂いを漂わせ、佇んでいた。
初めてここに訊ねた時の事、その後また遊びに来た時の事、勉強会を開いた時の事・・・・・その時の記憶が全て昨日の事だったように頭の中に蘇ってきた。
いつ見てもこの木は、どこか他の木とは違う風格と威厳を感じる。
暫く見とれていると、零人は金木犀の木の枝に、何やら封筒が挟まっているのを発見した。
なんでよりにもよってこんなところに引っかかっているんだろう??と不思議に思いながら、少し背伸びをしてそれを取ってみると、中には手紙が入っていた。
広げてみると、この手紙にも見覚えのある字で、こう綴られていた。
「零人君へ。 よく約束を覚えててくれたね。ありがとう。---------------でも実はあの時言った『金木犀の木』は実はこことはまた別のものなの。もちろん、ここの木も本当に大好きな木なのだけれど。多分、あなたならどの金木犀の木なのか探し当てる事ができると思う。もう少しだけ、探してみて。待ってるわ。」
「他にあるったってどこを当たればいいんだよ・・・・・金木犀の木なんてこの村のそこら中にあるぞ・・・・。」
零人は頭を掻きむしりながらそう言った。小さな村とはいえ、この近辺には金木犀の木がいくつもあった。一つずつ当たっていたらキリがない。どうしたらいいものか・・・・。
考え込んでいた時、ふわっと大きな風が吹き、またも金木犀の強い香りが零人の周りを包んだ。 そしてまた、零人の頭の中に香織とのいくつもの思い出がまばらに蘇ってきて、頭の中を駆け巡り始めた。
そうだ・・・・香織とは短い間ながらもあれだけ思い出を作ったんだ。僕ももっと記憶を辿って探してみなきゃな・・・・。 とりあえず、村の中を走り回りながら思い当たりそうなところを回ってみよう。
零人はパジェロに乗り込み、その
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